国立精神・神経医療研究センター
精神保健研究所 社会復帰研究部

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» 効果的な実践

EBPs

※ここでのEBPsは、Cochrane Reviews が発表されているものに限定しました。

包括型地域生活支援プログラム
ACT (Assertive Community Treatment)
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 統合失調症など重度精神障がいをもつ人の地域生活を包括的に支援するためのケアマネジメント・プログラムです。ACTの特徴は、多職種スタッフ(精神保健福祉士、作業療法士、看護師、精神科医、心理士等)が一つのチームとなって、一人の利用者に、生活支援、就労支援、医療的/保健的支援を包括的に提供することです。このため、重度の障がいを持つがゆえに複合的な困難を抱え、複合的な支援ニーズがあるという人に、同じチームが必要とされる多様な支援サービスを届けることが可能です。集中度と機動性の高い支援を提供するため、スタッフ一人が担当する利用者の数を10人以下としています。このため、サービス利用には、明確な対象基準があります。

【Cochrane Review】

  • Marshall M, Lockwood A:Assertive community treatment for people with severe mental disorders. Cochrane Database Syst Rev 2:2000. [Published online]

個別就労支援とサポート
IPS(Individual Placement and Support)
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 特に重い精神障がいを持つ人のための個別援助付き雇用プログラムです。生活支援を担うスタッフと就労支援を専門的に担うスタッフがチームとなり、同じチーム員が就職活動から就職後のフォローまで一貫して支援を提供します。IPSの就労支援専門スタッフ(Emoployment Specialist:ES)は、事前トレーニングを就職活動の前提にはしません。ESは利用者の希望、スキル、障がいの困難さ等を、利用者とのやりとりのなかでアセスメントし、本人に合った仕事や働き方を利用者自身が見つけ、それが実際に実現できるようにサポートします。

【Cochrane Review】

  • Kinoshita Y, Furukawa Toshi A, Kinoshita K, et al:Supported employment for adults with severe mental illness. Cochrane Database Syst Rev 9:2013. [Published online]

認知行動療法
CBT (Cognitive Behavioral Therapy)
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 認知行動療法(以下CBT)は記録用紙や専用のシート等を使い、不適応行動やくせになっている非合理的な考え方をよりその人が楽に過ごせるように変容することを目指した心理療法です。支援をうける人と支援者が協働してその人の問題に向き合い、自己理解に基づく問題解決とセルフ・コントロールを目指します1)。うつ病や不安障害などに効果があることが知られており2),3)、最近では統合失調症の幻聴や妄想にも一定の効果があるとされています4)。CBTは2010年4月に診療報酬化されるなど,近年精神保健医療福祉の現場で注目を集めており,またインターネットを利用した取り組みが始まるなど,多くの人がより気軽に利用できるような環境が整いつつあります5)

【Cochrane Review】

  • Jones C, Cormac I, Silveira da Mota Neto Joaquim I, et al:Cognitive behaviour therapy for schizophrenia. Cochrane Database Syst Rev 4:2004. [Published online]
【参考文献】

  1. 坂野雄二:認知行動療法 日本評論社,東京,1995.
  2. National lnstitute for Health and Clinical Excellence:Depression in adults: The treatment and management of depression in adults. guidelines 90, NICE, 2009.
  3. Otte C.:Cognitive behavioral therapy in anxiety disorders: current state of the evidence. Dialogues Clin Neurosci 13: 413-21, 2011.
  4. Wykes T, Steel C, Everitt B, Tarrier N:Cognitive behavior therapy for schizophrenia: effect sizes, clinical models, and methodological rigor. Schizophr Bull 34:523, 2008.
  5. 田島美幸,長谷部智子,大野裕:Computer-aided CBT.臨床精神医学41,1023-1028,2012.

家族心理教育
FPE (Family Psycho-education)
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 家族心理教育(Family Psycho-education: FPE)とは、利用者の家族に精神障害についての正しい知識や心理的なサポートを提供し、利用者に対する否定的な感情を含む家族感情表出(Expressed Emotion: EE)や家族の心理的な負担を軽減する実践手法です。家族心理教育は家族のEEを軽減し、利用者の再入院の防止などについての効果が科学的に実証された根拠に基づく実践(Evidence-based practice: EBP)の1つです1)。家族心理教育の長年の課題は、豊富なエビデンスの蓄積があるにもかかわらず、現実にはあまり実践されていないことです。近年では、グループにおける家族心理教育や家族同士の経験の共有などについてのエビデンスも立証されはじめ、現実の支援場面に合わせた柔軟な家族心理教育の実施が求められています2)

【Cochrane Review】

  • Xia J, Merinder Lars B, Belgamwar Madhvi R. Psychoeducation for schizophrenia. Cochrane Database Syst Rev. 2011; 6. [Published online]
【参考文献】

  1. Xia J, Merinder Lars B, Belgamwar Madhvi R: Psychoeducation for schizophrenia. Cochrane Database Syst Rev 6:2011. [Published online]
  2. Sin J, Norman I:Psychoeducational interventions for family members of people with schizophrenia: a mixed-method systematic review. J Clin Psychiatry 74:1145-1162, 2013.

その他の効果的な実践

オープンダイアログ
Open Dialogue
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 フィンランドの西ラップランド地域のトルニオにあるケロプダス精神科病院(Keroputaan Sailala)で、1980年代後半から1990年代にかけて開発された独自の精神科治療システムです。このシステムでは、臨床経験豊富な外来看護師が24時間365日交代で専用電話に応対しており、緊急の場合はすばやく治療チーム(ファミリーセラピストの資格を持つ多職種からなる)を編成し、チームは24時間以内に必要とされる場所に出向いて「治療ミーティング」を実施します。この「治療ミーティング」には本人とそのソーシャルネットワークメンバー(家族、友人、教師、同僚、近所の人など)が、状況に応じて招かれます。「治療ミーティング」は、家族療法のシステミックアプローチから出発し、臨床的要請から徐々に形を変え、Narrative Approach、Collaborative Language System Approach、Reflecting Processなどの理論や方法論を取り入れながら、発展してきました。現在、西ラップランド精神保健圏域では、疾患の種類やステージにかかわらず「治療ミーティング」が治療の第一選択です。急性期のクライシスでは、入院や精神科薬が提案されることもありますが、それよりも心理療法的アプローチが優先されるというところが最大の特徴といえます。

【参考文献】

  1. Aaltonen J, Seikkula J, Lehtinen K:The comprehensive Open-Dialogue Approach in Western Lapland : The incidence of non-affective psychosis and prodromal states. Psychosis 3(3):179-191, 2011.
  2. Seikkula J, Aaltonen J, Alakare B, et al:Five-year experience of first-episode nonaffective psychosis in open-dialogue approach: Treatment principles, follow-up outcomes, and two case studies. Psychother Res 16(2):214-228, 2006.
  3. Seikkula J, Arnkil TE:Open Dialogue and Anticipations. Respecting Otherness in the Present Moment. National Institute for Health and Welfare. Tampere, 2014.
  4. Seikkula J, Olson M:The Open Dialogue Approach to Acute Psychosis: Its Poetics and Micropolitics. Fam Process 42(3):403-418, 2003.
  5. Seikkula J, Trimble D:Healing elements of therapeutic conversation::Dialogue as an Embodiment of Love. Fam Process 44(4):461-475, 2005.
  6. Whitaker R:Anatomy of an epidemic. Magic bullets, psychiatric drugs, and the astonishing raise of mental illness in America. Crown, New York, 2010.(小野善郎監訳:心の病の「流行」と精神科治療薬の真実. 福村出版.東京, 2012. )

ソーシャルスキルトレーニング
SST(Social Skills Training)
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 Social Skills Training(以下SST)は認知行動療法の1技法であり1),個人に欠けていると思われる社会的スキルを何らかのかたちで積極的に学習させたり,既に行動レパートリーとして備わっている社会的スキルの表出を効果的に学習する,あるいは,不適切な対人的,社会的行動を変容するためのさまざまなプログラムの総称であると定義されています2)。SSTはさまざまな対象に提供されていますが、重い精神障害の人に提供されるSSTとしてもっとも普及しているのはUCLAのR.P.Liberman教授が開発したリバーマン方式のSSTです3)。このSSTは基本訓練モデルとモジュール形式の2つに分かれています。前者はロールプレイやモデリング、目標を小さく分ける、などの工夫をして日常生活の中で起こりそうな対人場面について練習するもので、後者はこの基本訓練モデルと心理教育を組み合わせたものです4)。これまでに行われた研究の結果から、SSTは日常生活技能や地域生活のための機能の向上や意欲や活動性の低下に有効とされています5)。現在SSTの効果については詳細な検討がなされており、その結果が待たれるところです6)

【参考文献】

  1. 佐藤さやか,小山徹平,坂野雄二:認知行動療法の基礎. 佐藤光源,丹羽真一,井上新平 編:統合失調症の治療-臨床と基礎-. 朝倉書店, 東京, 326-330, 2007.
  2. 坂野雄二:認知行動療法. 日本評論社, 東京, 1995.
  3. Bellack,A:Skills training for people with severe mental illness. Psychiatr Rehabili J 27:375-391, 2004.
  4. 池淵恵美,納戸昌子,吉田久恵 他:服薬及び症状自己管理モジュールを用いた心理教育の効果. 精神医学 40:543-546, 1998.
  5. Kurtz MM & Mueser KT:A meta-analysis of controlled research on social skills training for schizophrenia. J Consult Clin Psychol 76:491-504, 2008.
  6. Almerie MQ, Al Marhi MO, Alsabbagh M et al: Social skills programmes for schizophrenia. Cochrane Database Syst Rev:2011.

共同意思決定
SDM (Shared decision making)
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 精神科におけるShared decision making (SDM: 共同意思決定)とは、「臨床家と利用者が情報を共有し、選択肢や利用者の好みあるいは治療の責任を議論し、今後の行動について,両者が合意するための相互作用的なプロセス」と定義されます1)。SDMを行う際、臨床家は治療や支援に共同して取り組むパートナーとして利用者にかかわることが望まれます2)。また、SDMでは治療内容を決定することだけでなく、コミュニケーションのあり方や利用者の生活におけるリカバリーやセルフマネジメントを念頭においた治療についての議論などに代表される、治療や支援内容の決定に至る「過程(プロセス)」が重要です3)

【参考文献】

  1. Matthias MS, Salyers MP, Rollins AL, et al:Decision making in recovery-oriented mental health care. Psychiatr Rehabil J 35:305-314, 2012.
  2. SAMHSA:Shared decision-making in mental health care practice: practice, research, and future directions (HHS Publication No. SMA-09-4371). Substance Abuse and Mental Health Services Administration, Rockville, 2011.
  3. 山口創生, 種田綾乃, 下平美智代 他:精神障害者支援におけるShared decision makingの実施に向けた課題:歴史的背景と理論的根拠. 精神障害とリハビリテーション 17:182-192, 2013.