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IPS/日本版個別型援助付き雇用フィデリティ調査

本研究の概要

当研究班は、日本の制度下において、individual placement and support(IPS)の原則を大切にした効果的な個別就労支援の適切な実装を図るために、原版IPSフィデリティ(IPS-25)を参考に、日本版個別型援助付きフィデリティ(Japanese version of individualised Supported Employment Fidelity: JiSEF)の開発を進めてきた。本研究は、JiSEFフィデリティの信頼性や妥当性、実現可能性の検証を目的として、国内複数の就労支援機関と協力して、調査を実施している。 本研究は、文部科学省科学研究費補助金 若手研究(B)「日本版IPS/援助付き雇用フィデリティ尺度の検証とフィデリティ評価システムの構築(No. 16K21661)」によって、実施されている。


1. 関連マテリアルのダウンロード

2. IPSおよび日本版個別型援助付き雇用

Individual placement and supportは、米国で開発された援助付き雇用のモデルの1つであり、特に重い精神障害を持つ方を対象として開発された就労支援プログラムです1)。その特徴は8つの原則に示されています:①働きたい全ての精神障害者が対象、②就労支援と生活支援をセットにしたサービス、③競争的雇用が目標、④社会保障の相談、⑤迅速な求職活動、⑥継続的な定着支援、⑦系統的な職場開発、⑧全てのサービスは利用者の希望が優先される2)。過去20年間、IPSは様々な国で無作為化比較試験によって効果が検証されています3-6)。最新の知見では、従来の支援と比べ、IPSの利用者は約2.4倍の確率で競争的雇用を得やすいという結果が示されています3)。日本においても3つの無作為化比較試験が実施され7-9)、そのうち2つでIPSに準ずる個別型援助付き雇用の有意性が示されています(うち1つは認知機能リハビリテーションと援助付き雇用のセット)8,9)

3. IPSフィデリティ尺度(IPS-25)

IPSの優れた効果を示す研究知見の蓄積を背景に、Bond教授を中心にした米国Dartmouth大学の研究グループは、IPSの適切な普及を図ることを目的にフィデリティ尺度を開発しました。フィデリティ尺度とは、ある(組織の)実践が、研究で効果が明らかになった実践モデルの哲学やサービス内容をどの程度再現しているかを測定する尺度です。簡単に言い換えると、ある実践がIPSに近い実践であるかを見える化するチェックリストのようなものです。IPSフィデリティは、当初は15項目版(IPS-15)として開発され、妥当性の検証がされました10)。現在は実践家らと一緒に作成した25項目版に更新されており(IPS-25)、就労率との併存的妥当性が検証済です11)。IPS-25の日本語訳版とそのマニュアルは、米国のIPS Employment Center からダウンロード可能 です。

4. 日本版個別型援助付き雇用フィデリティ尺度

米国で開発されたIPSフィデリティを日本にそのまま持ち込むには、難しい点がいくつかあります。第1に欧米で地域精神保健サービスの柱となりつつあるIPSは、多くの場合、医療・生活(ケースマネージャーによる支援)・就労支援が包括的に提供される地域精神保健センターで実施されます。しかしながら、日本では地域精神保健センターに該当する機関がありませんので、就労支援は精神科病院の外来やデイケア、あるいは総合支援法の就労移行支援事業所などで提供されています。第2に日本では医療機関・地域福祉機関の就労支援員が企業と接触し職場開発はできても、直接の職業紹介(斡旋)はできません。これらの代表的な相違点以外にも、欧米の地域精神保健サービスの対象(主に重い精神障害を持った方)や定着支援の期間など、日本の就労支援を取り巻く環境は欧米とは異なる点があります。 そこで、我々はIPSの原則を守りながら、日本で活用できるフィデリティ尺度(日本版個別型援助付き雇用フィデリティ)の開発に取り組んできました12)。このフィデリティ尺度は、IPS-25の項目を微修正する形で作成され、開発グループには日本でIPSに準じる援助付き雇用を実践する機関のスタッフが含まれています。

5. 日本版個別型援助付き雇用フィデリティ尺度の妥当性と課題

日本版個別型援助付き雇用フィデリティ尺度は、機関の就労率および3ヵ月就労率(3ヵ月以上同一企業で働いたサービス利用者)との併存的妥当性が担保されています(公開準備中)。今後は、より詳細な予測的妥当性や評価者間信頼性、実現可能性(調査に要する時間)などを検証し、日本版個別型援助付き雇用フィデリティ尺度の有用性を実証することが課題です(現在、取組中)。
  1. Becker DR, Drake RE: A working life for people with severe mental illness. Oxford University Press, New York, 2003.
  2. Swanson SJ, Becker DR: Supported employment: applying the individual placement and support (IPS) model to help clients compete in the workforce: updated and expanded edition. Hazelden, Center City, 2011.
  3. Modini M, Tan L, Brinchmann B, et al: Supported employment for people with severe mental illness: systematic review and meta-analysis of the international evidence. Br J Psychiatry 209:14-22, 2016.
  4. Marshall T, Goldberg RW, Braude L, et al: Supported employment: assessing the evidence. Psychiatr Serv 65:16-23, 2014.
  5. Kinoshita Y, Furukawa TA, Kinoshita K, et al. Supported employment for adults with severe mental illness. Cochrane Database Syst Rev 9: CD008297, 2013.
  6. Bond GR, Drake RE, Becker DR: Generalizability of the Individual Placement and Support (IPS) model of supported employment outside the US. World Psychiatry 11(1):32-39, 2012.
  7. 小川ひかる,西尾雅明,津田祥子,他:ACT-Jにおける就労支援.伊藤順一郎:重度精神障害者に対する包括型地域生活支援プログラムの開発に関する研究:平成19年度総括・分担研究報告書. pp.37-44,国立精神・神経医療研究センター,2008.
  8. Oshima I, Sono T, Bond GR, et al: A randomized controlled trial of individual placement and support in Japan. Psychiatr Rehabil J 37:137-143, 2014.
  9. Yamaguchi S, Sato S, Horio N, et al: Cost-effectiveness of cognitive remediation and supported employment for people with mental illness: a randomized controlled trial. Psychological Medicine 2016. [doi: 10.1017/s0033291716002063]
  10. Bond GR, Becker DR, Drake RE, et al: A fidelity scale for the Individual Placement and Support model of supported employment. Rehab Counsel Bull 40:265-284, 1997.
  11. Bond GR, Peterson AE, Becker DR, et al: Validation of the Revised Individual Placement and Support Fidelity Scale (IPS-25). Psychiatr Serv 63:758-763, 2012.
  12. 下平美智代,山口創生,吉田光爾,他:日本版IPS型就労支援のフィデリティ評価ツール開発に係わる研究.伊藤順一郎:「地域生活中心」を推進する、地域精神科医療モデル作りとその効果検証に関する研究:平成25年度総括・研究分担報告書.pp. 359-382,国立精神・神経医療研究センター,2014.