国立精神・神経医療研究センター
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平成21年度厚生労働科学研究費補助金(障害保健福祉総合研究事業)
(H20-障害-一般-004)

精神障害者の退院促進と地域生活のための多職種によるサービス提供のあり方とその効果に関する研究

抄録

表記のテーマのもと、我々の研究活動は以下の4分野にわたった。それぞれの成果として、今年度は次のような結果を得ることができた。

ACT、訪問看護、デイケアにおけるサービス内容分析

ACT群では、重症な精神障害者に対し、多職種でサービスを提供していた。ケースロードが低く、利用者への月あたり訪問回数が多く、高密度のサービスを提供していた。ケア内容では、中頻度・比較的長めのコンタクト時間・多職種による関わり・地域も含めた訪問支援の展開が行われていることが特徴であった。また具体的支援の領域で実施率が高い支援項目が多かった。 訪問看護群では、他の群と比較して安定した社会機能を示す患者に対して、看護師が主力となって積極的に訪問をしていた。また地域の他のサービスを多く活用しており、不足している場合はその機能を訪問看護で補足していることが示唆された。ケア内容は、他の2群に比して、低頻度・短いコンタクト時間などが特徴であった。また観察・アセスメント領域で実施率が高い支援項目が多かった。支援領域では医療的な領域が他の2群に比して実施率が高かった。 デイケア群は、通所が可能である重症な利用者に対し、多職種のスタッフが支援にあたっていた。さまざまな診断の利用者がおり、利用期間はやや長めであった。ケア内容では、デイケア群は高頻度・長めのコンタクト時間・多職種による関わりが特徴的だが、個別的な関与は少なく、コンタクトの場所はデイケア本部に限定されていた。プログラムで行われていると推測される日常生活支援・コミュニケーション支援の実施率が高いが、他方で、地域の中で問題になってくる支援領域や家族支援などには限界があるようであった。 6カ月後の追跡調査からは、ACT 群では中断者がおらず、継続してサービスを提供しており、デイケア群では入院患者がおらず、再入院抑止効果が示唆された。

精神科訪問看護のケア内容と効果に関する研究

調査1)
昨年度にベースライン調査を行った 132 名全員について、6ヵ月後、1 年後のフォロー調査の回答を得た。内訳は訪問看護群 123 名(うち、訪問看護ステーション利用者 45名、病院訪問看護利用者 78 名)、外来看護群9名であった。6ヵ月後調査では、訪問看護ステーション群の 73.2%、病院群の 81.6%、外来群の 77.8%が訪問看護または外来通院を継続していた。1 年後調査では、それぞれ 70.7%、77.6%、66.7%であった。継続中でない理由としては、入院のための一時中断が最も多く、訪問看護群では転居や経済的理由による利用中断、医療機関の変更や症状安定による終了があった。過去 1 年間に入院経験があった人の割合は、訪問看護ステーション群で 36.6%、病院群 31.6%、外来群 33.3%であった。1 年間の地域滞在日数は訪問看護ステーション群で 335.4 日、病院群 337.4 日、外来群 329.4 日であった。GAF 得点は訪問看護ステーション群では 6 ヵ月後調査で大きく得点が上昇し、1 年後も同程度であった。外来群では 6 ヵ月後に得点が低下していた。訪問看護の訪問頻度や滞在時間、訪問スタッフ数はベースラインと 1 年後では大きな変化は見られなかった。利用者本人を対象としたアンケート調査では、サービスに対する満足度は約 8 割の利用者が肯定的な評価をしていたが、訪問看護群では「とても良い」と評価する人の割合が高かった。また、約8 割の利用者が訪問看護を利用してから生活の質が良くなったと回答していた。訪問看護から受けているサービスとして回答が多かったのは「こころのケア」「からだのケア」「力づける支援」「家族に対する支援」などであった。

調査2)
ヒアリング調査では、家族ケアにおいて家族自身の困難を聞き苦労を労うこと、家族が不在になった時に利用できるサポート体制について情報提供すること、家族と本人から話を聞いて両者の関係を調整することなどのケアが実施されていた。

ACT 等多職種サービスの立ち上げ支援に関する研究

今年度は、1)昨年度に引き続き東北福祉大学せんだんホスピタルで立ち上げられた ACTチーム(S-ACT)の定着過程をモニタリングするとともに、2)2年以内に新たに立ち上げられた4チームと、立ち上げの具体的な予定がある1チームにアンケート調査を行い、前向きかつ継続的なモニタリングを開始した。

1)S-ACT は2年目を迎え、組織としては、常勤職の枠も1名増えて、非常勤の就労支援担当者や当事者スタッフも新たに加入した。病院の稼働率アップが求められる葛藤があるなかで、研修会講師派遣や地域のイベントへの協力などを通して組織内外との連携を深めてきた。チーム内の定期的な勉強会に加えて外部講師を頻回に招聘し、スタッフのスキルアップも図ってきた。保健所や家族からの依頼、措置入院患者への関わりなど、徐々に重症の利用者が増えていき難渋する一方で訪問件数は充分には伸びず、チームリーダーへの負担・役割の集中、ケアプランの作成困難、スタンダーズの改訂と遵守が課題となっている。先行研究でも、立ち上げ後2年目にはスタッフのバーンアウトや訪問の効率化に向けた議論や組織改編など特有の課題があり、立ち上げ後の定着を支援するためには半年から1年の単位ではなく、最低2年間のフォローが必要と思われる。

2)5チームのアンケート調査では、立ち上げにあたる困難として、①研修面では、外の研修に参加する機会が確保しづらいこと、前職の援助理念から転換を図ることの難しさ、②経営面では、運営母体との葛藤や、現行の診療報酬を中心とする財源の不備や不安、訪看ステーションでの介護保険枠の制約、③連携面では、ACT を周知する方法がわからない或いは既存資源との間で共通理解が得られるまで時間がかかること、ACT が関わることで期待が強すぎて逆に既存資源が引いてしまうこと、④チーム形成面では、臨床優先と経営優先での意識の違い、ACT 対象以外の訪問活動を両立するうえでの混乱、クリニックとステーション間での意識の違い、ケアプランができないので一貫した支援になりづらい、⑤具体的なノウハウでは、終了基準の未検討、記録に時間が割かれないよう工夫を余儀なくされている、⑥その他では、24 時間体制は難しいので他機関への委託を検討、地域生活支援の価値観がまだ根付いておらず、病棟との価値観との間で揺れてしまう、などが挙げられた。立ち上げに役立つこととしては、①研修面では、研修項目必須リスト、先行する ACT チームのスタッフが出前して行う研修機会の活用、チーム内クロストレーニング、②経営面では、経営や制度についての研修、他の先行しているチームのノウハウ、③連携面では、先行チームのスタッフを呼んで組織内外で講演を行ってもらう、地域の様々な関係する会議に出席、④チーム形成面では、今起こっている出来事に直面してチームで解決していく経験を共有する、誕生会などのイベントを企画する、チームリーダーとスタッフの家族との共有、⑤具体的なノウハウでは、国立精研 ACT 研修や NPO 法人コンボの研修会への参加、他のチームのツールを参考にする、チーム内の ACT 経験者の活用、他の ACT チームでの見学・訪問同行、が挙げられた。

デイケア機能の実態把握に関する研究

我が国における今後の地域精神保健の機能分化やシステム作りに寄与する可能性を検討することを目的として、欧米の脱施設化の変遷とデイケアの役割に関する文献のレビューを実施した。

その結果、欧米では 1990 年以降デイケアは、その役割を終えたかのように学術論文として取り上げられることが少なくなった。それは ACT のような包括的支援や,地域におけるクラブハウスからの訪問支援などに代表されるような支援体制に注目が集められ、その機能のあり方が今日的な支援のあり方として検討されているためと考えられる。ニーズが多様化する中で、個々のニーズに合わせて社会資源を選択、利用できる支援が発展した結果、日中の支援を包括的に専門職が提供する場としてのデイケアの意義が減少したものと考えられる。社会資源の少ない我が国では、既存の社会資源である精神科デイケアの役割を見直し、マンパワーを投入することによって入院治療に代わる新たな支援モデルが確立できる可能性を検討した。そのモデルが精神科デイケアからのアウトリーチ支援であり、重度精神障害者やとじこもりがちな人の地域定着支援にも有効であることが示唆された。今後、この支援システムのあり方を実証的にも検証していく必要性がある。

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