国立精神・神経医療研究センター
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厚生労働科学研究費補助金 こころの健康科学研究事業
平成17年度-平成19年度 主任研究者 伊藤順一郎

重度精神障害者に対する包括型地域生活支援プログラムの開発に関する研究

抄録

目的

 日本初の重症精神障害者に対する包括型地域生活支援プログラム(ACT)について、(1)臨床および医療経済学効果について実証的研究を行い、(2)地域精神保健施策の充実に寄与できる新たなシステムのあり方を提言することを目標に、研究を実施した。

方法

 先行する「塚田班」において平成 14 年に研究プロジェクトを立ち上げ、平成 15 年4月に ACT 臨床チーム(ACT-J)を国立精神・神経センター国府台病院に組織し、臨床を開始した。平成 16 年5月より無作為割付方式による(RCT)エントリーを開始した。平成 17 年度より、本研究班が継承した。

 RCT では、対象者を介入群=ACT-J 群と、対照群=通常の治療・リハビリテーション群に分け比較検討した。対象者は国府台病院精神科に入院した者から、年齢、診断、居住地、精神科サービス利用状況、社会適応状況などにより選定し、研究参加への同意が得られた時点で、無作為に2群に割り付けた。

 臨床状況の把握は両群の対象者の診療録、ACT-J の臨床記録、診療報酬レセプトなどより行なった。また、エントリー時(退院1ヵ月後)、6ヵ月後、1年後には研究参加者やその家族の面接および自記式調査票による調査を実施した。

 アウトカム指標としては、地域滞在日数、精神症状、社会適応度、QOL、就労支援状況、家族支援状況などをとりあげた。利用者らが認知しているサービス状況の評価も指標とした。

 また、研究チームが臨床チームのスタッフに定期的3ヶ月に 1 回、面接を行い、システムレベルのフィデリティ尺度(DACT)の評価、個別利用者フィデリティ尺度の評価を行った。臨床チームの日常実践の評価は、ケースマネジャーが入力するサービスコードのデータベースを資料として活用した。

結果

 2004 年5月1日から 2007 年 10 月 31 日までに国府台病院精神科に入院した実数 1,938 名(地域・年齢で除外された者を含む)のうち、202 人が精神科診断・過去の入院歴・GAF 得点などから基準に適合し、そのうち 118 人からインフォームドコンセントを得た。ランダム化の結果 59 人が介入群、59 人が対照群となり、介入群には ACT-J のスタッフが訪問中心の医療福祉支援を行った。

 まず、研究同意者は拒否者より、男性が多く、統合失調症または双極性障害である率が低く、任意入院である率が高く、過去2年の医療中断が少なかった。介入群と対照群では、介入群の方が入院前1年間の入院日数が多かった。

 退院後の再入院日数の比較では、入院前の入院日数を調整すると、介入群の方が入院抑制効果が高かった。GAF 得点については介入群では前後で有意な改善がみられたが、対照群ではみられなかった。精神症状には領域によって介入群が良好であった。薬剤の CP 換算値は両群とも1年間で低下していたが有意差は得られなかった。QOL に関しても両群に明確な有意差は認められなかったが、サービス満足度は利用者本人・家族とも介入群において高かった。両群の医療費及び社会保障関連費の比較において、年間医療費総額について有意差はみられなかった。ACT-J による活動は、ケースマネジャーによる対面単独コンタクトが年間平均 53 回、複数コンタクトが平均 13 回であった。ACT-J による活動を「精神科訪問看護」の費目を用いて医療費換算した結果、総額の平均が約 43 万円/人であり、55 名合計で約2,400 万円であった。ACT 群の年間医療費合計を「ACT による医療費+医療機関による医療費」とした場合、約 117 万円/人であり、対照群(52 名)の年間医療費(約 100 万円/人)との間に有意傾向はみられなかった。社会保障関連費総額では2群間に差は無かった。年間医療費総額と ACT 医療費と社会保障関連費を合計した金額を社会的コストとして、2群で比較したところ、有意な差は見られなかった。

 ACT チームの機能を評価するフィデリティ尺度である DACTS の値は、ACT チーム立ち上がりの当初より一定レベルの値が確保され、研究期間を通じて維持されていた。日本の ACT対象者にニーズが少ない物質乱用プログラム関連項目を除いて修正した得点では、サービスの特徴下位尺度に改善の余地があるものの、総合得点で全期間を通じてほぼ満足できる値が確保された。サービスコードの指標を用いた分析もほぼ同様の結果が得られた。

考察と結論

 本研究班では、平成 15 年5月の ACT 臨床チーム(ACT-J)の結成依頼、5年間にわたって、重い精神障害を持った利用者に対して、多職種チームによるアウトリーチによって、医療・生活支援・就労支援をふくんだ包括的な地域生活支援を展開してきた。このチームのサービス内容はデータベース上に集積されたサービスコードによって明らかにされ、国際水準のプログラム忠実度尺度である DACT による評価によって、高い評価のサービスを実施していることが明らかになった。

 このチームを対象にした RCT 研究では入院日数の低減に一定の成果を挙げ、総コストは対照群とほぼ同等ながら入院日数を抑制することで対照群に比して良い費用対効果を示すことが示唆された。即ち ACT はわが国においても、入院治療に代わる、重い精神障害をもつ者の地域生活の維持に役立つサービスプログラムであることが実証されたといってよいであろう。

 しかしながら、わが国への ACT の定着に当たっては、まだ普及啓発のための息の長い努力が必要であり、また制度化のためにはいくつかの事業モデルを蓄積させる必要がある。そのため、今後も ACT の活動は維持していくことが必要であり、事業化しての運営の実際を示す事が今求められている事である。

 今後とも、臨床、サービス評価とモニタリング、研修・情報発信活動などを通じて、研究で得られた成果を制度設計に反映できるよう努力することが、われわれの責務である。

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