国際セミナー〜発達障害の臨床発達精神医学的視点から〜
 特別講演IのMichele Zappella先生(前シエナ総合病院小児神経精神科Director、イタリアTourette症候群協会会長、英国行動表現型研究会顧問)による「自閉症スペクトラムの子どもたち:臨床経過にみられる多様性について」と題したご講演では、環境、あるいは遺伝の背景によって、一般的に教科書に書かれている臨床経過とは異なる経過をたどることがいくつかの例を示して、お話しされました。

和訳スライド【PDF, 約380KB】をご参照いただけます)

 子どもに適切な学習経験によって特殊な才能が伸びたケース、またその逆に極端な環境(いじめなど)で経過に悪影響を及ぼしたケースは、遺伝的要因がきわめて高い自閉症スペクトラムにおいても、環境が重要な役割を果たしていることを示しています。

 また特殊な遺伝子異常を背景とした行動表現型として、Zappella変異型のRett症候群、早期発症てんかん、2歳頃にチックとともに生じる自閉的退行 (dysmaturational syndrome) を示す子どもたちでも、適切な治療により、後に言語や対人面が伸び、自閉症の診断からはずれていくケースが存在することに注目すべきと強調されています。てんかんについては適切な薬物治療、さらにZappella変異型やRett症候群や退行ケース(dysmaturational syndrome)では、対人的リハビリとして身体的なやりとり遊びを、親や教師がしっかり行うこと、他児とのやりとりを支援すること、しばしば伴うADHD症状への対処を行うこと、必要に応じて言語治療を行うこと、が重要であると提案されました。

 例として挙げられたケースは、自閉症症状が改善する反面、ADHDやTourette症候群への移行、知的障害の残存など、他の発達障害についての支援をなお必要としている者が多いことも注目すべきでしょう。

 こうしたエビデンスに基づく治療への示唆は、臨床的に大きな意味を持つと思われます。診断評価はきわめて重要で、包括的になされるべきであり、診断名から短絡的に特定の治療法を選択することは、ひとりひとりの子どもの可能性を見逃す危険性があることに警鐘を鳴らしているものと思われます。

 特別講演IIの金生由起子先生(東京大学医学部附属病院こころの発達診療部 特任准教授)は、「発達的観点からみたトゥレット症候群:臨床経過とその多様性」と題した講演で複雑なチックを主症状とするTourette症候群が、発達過程を通して様々なADHDや強迫症状や衝動性、攻撃性などの精神病理を併発し、また軽減していくのかについて、最新の臨床データをもとに、詳しく解説されました。また自閉症スペクトラムには一般児童よりもTourette症候群を発症するケースが多いことから、その臨床的特徴についてのご説明いただきました。また、治療の全体的な方針についてもご解説いただきましたが、それは発達障害を持つすべての子どもに共通するものを含んでいるように思われました。発達障害を持つ子どもに接する臨床家が持つべき普遍的な態度について、Zappella先生のお話とも通ずるものがあり、印象的でした。

 発達障害の現象についての多様性が解明されつつある今日、それらに対応した治療論が求められています。そのためにも長期的な観点からの実証的データに基づく治療論が活発に展開されることが必要です。根拠のない楽観的な治療論は不要ですが、丁寧に可能性を探っていくのは臨床に携わる者には常に必要です。これまでに確立された治療論はまだない、ということを念頭において、データを積み重ね、このような意見交換をしていけたら、思っています。

2009年5月16日
部長 神尾 陽子


日 時: 平成21年5月15日(金) 13:30-16:50
場 所: コンファレンススクエア エムプラス 
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-5-2 三菱ビル 1F サクセスルーム
対象者: 発達障害の人々に携わる医療関係者および研究者等
主 催: 国立精神・神経センター精神保健研究所児童・思春期精神保健部
このセミナーは、日頃発達障害の子どもや成人の臨床に携わっておられる医療・保健・福祉・教育関係者を対象に、発達障害の横断的かつ縦断的な多様性についての最新の臨床的理解を深め、ライフステージにわたる発達的観点を踏まえた臨床および研究に資することを目的とし、厚生労働科学研究費補助金障害保健福祉総合研究事業による事業「ライフステージに応じた広汎性発達障害者に対する支援のあり方に関する研究」の一環として行われました。
プログラム
13:30-13:50:挨拶
神尾 陽子(国立精神・神経センター精神保健研究所 児童・思春期精神保健部部長)
13:50-15:20:特別講演 l  Michele Zappella先生
The Diversities of Clinical Course and Outcome in Children
Diagnosed as Autism Spectrum Disorders

(Former Director, Division of Child Neuropsychiatry, Regional Hospital of Siena, Italy,
Department of Child Neuropsychiatry, University of Siena)

「自閉症スペクトラムと診断される子どもたち:臨床経過と予後における多様性について」(英語)
 座長:神尾 陽子

スライドはこちら  英語 (PDF, 約160KB)  日本語 (PDF, 約380KB)

Children with ASD can follow different pathways. In single cases important progress can be obtained in special abilities or in a single field like language, in others there can be a notable improvement on a more general level.

However, there are also group of cases which follow a definite pattern, defining particular conditions or syndromes.

In the preserved speech/Zappella variant of the Rett syndrome where the great majority of girls belong to the ASD there is a delayed, slow progress which may lead some of these girls from a very low level of abilities up to an I.Q. around 50: their MECP2 mutation is somehow specific. Children going “off autism” represent another interesting aspect, including children with the dysmaturational syndrome, often evolving towards ADHD and/or GTS, and a smaller group of children with early onset epilepsy.

In contrast many children with ASD are much more stable in the development of their abilities. Awareness of these possibilities is of help for the professional in giving appropriate treatments in different situations.

15:20-15:35:休憩
15:35-16:30:特別講演 l l 金生由紀子先生
「発達的観点からみたトゥレット症候群:臨床経過とその多様性」
(東京大学医学部附属病院こころの発達診療部 特任准教授)
 座長:深津 玲子(国立障害者リハビリテーションセンター 発達障害情報センター長)

16:30-16:50:質疑応答

HOME

児童・思春期精神保健部 〒187-8553 東京都小平市小川東町4-1-1
TEL 042-341-2712 (内線6237)FAX 042-346-1979
E-mail:dhp04#ncnp.go.jp(#を@にしてお送りください)