臨床研究の例

うつ病の最適薬物治療戦略確立のための大型無作為化比較試験:2,000症例規模の実践的多施設共同無作為化比較試験 SUND
担当:山田光彦、稲垣雅俊(岡山大学)、米本直裕(京都大学)、古川壽亮(京都大学)
うつ病は日本国民にとってその生活の質(QOL)を損なう最大の原因であり、さらに今後20年間その損失は増加傾向にあると推定されている。現在、うつ病の治療の中心は抗うつ剤、特に、SSRI、SNRI、NaSSAに代表される新規抗うつ剤である。しかし、薬物療法を開始するに当たって、@最初にどの抗うつ剤をどの量で使用し、A治療反応が不十分である場合にいつどのように治療戦略を変更するかについての十分な実践的エビデンスは得られていない。そこで、われわれは、先行するメタアナリシス研究により効果および受容性のバランスに優れた抗うつ剤(SSRI)と、非常に効果は高いが受容性がその効果ほどではないNaSSAを、どのように組み合わせると最も効果がありかつ安全で飲みやすい薬物治療指針となるかを解明するために、実践的大規模臨床試験を実施している。

薬物治療抵抗性うつ病に対するモバイル認知行動療法の効果を検証する無作為割り付け比較試験 FLATT
担当:山田光彦、稲垣雅俊(岡山大学)、米本直裕(京都大学)、古川壽亮(京都大学)
うつ病の治療の中心は抗うつ剤、特に、SSRI、SNRI、NaSSAに代表される新規抗うつ剤である。一方、抗うつ剤以外にも認知行動療法という精神療法が有効である。さらに抗うつ剤と認知行動療法を一緒に用いることでいずれか単独よりも効果が高くなることも報告されている。しかし、認知行動療法そのものは標準で1時間×16回の面接による治療を必要として、患者さんにも治療者にもたいへん時間のかかる治療法である。そこで、我々は、この認知行動療法を、スマートフォン上でより実行しやすい形にしたアプリを作成した。本臨床試験では、薬物治療抵抗性うつ病患者を対象に、薬物療法に加えて、スマートフォン認知行動療法のアドオン効果を検証することを目指した多施設共同による無作為割り付け比較試験を実施している。

「精神疾患に起因した自殺の予防法に関する研究」
担当:川島 義高(学振PD)、稲垣雅俊(岡山大学)、米本直裕(京都大学)、山田光彦
現在、国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (AMED)の障害者対策総合研究開発事業(精神障害分野):課題名『精神疾患に起因した自殺の予防法に関する研究』(代表:山田光彦)」に採択され、精神疾患を伴う自殺未遂者ケアに関する先行研究の再評価、精神疾患を伴う自殺未遂者に対するケース・マネージメントの効果についての検討、ケース・マネージメント手法の標準化と人材育成プログラムの事業化に関する研究を進めている。

基盤研究の例

オピオイドδ受容体をターゲットとした新規向精神薬の創薬研究
担当:斎藤顕宜、笠井智香、山田光彦
近年、オピオイドδ受容体アゴニストが、モルヒネに代表されるオピオイドμ受容体アゴニストで見られる便秘、呼吸抑制、薬物依存といった副作用を示すことなく、優れた抗うつ・抗不安作用を示す可能性が明らかになってきており、新たな作用機序に基づく情動調節薬となることが期待されている。現在、国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (AMED)の「産学連携医療イノベーション創出プログラム(ACT-M):課題名『情動系を調節するオピオイドδ受容体作動薬の開発』(代表:日本ケミファ株式会社)」に採択され研究を進めている。オピオイドδ受容体をターゲットとした医薬品はまだなく、我々の試験薬は世界初の画期的な新薬となる可能性を秘めている。

「構成概念妥当性の高い新規動物モデルの確立:社会的敗北ストレス負荷モデルとその目撃モデル」
担当:中武優子、請園正敏、古家宏樹、國石洋、山田美佐、吉澤一巳(東京理科大)、山田光彦
本研究で確立した心理的ストレスに焦点を当てた社会的敗北ストレス負荷マウスモデルは、構成概念妥当性の高い新規の慢性ストレスモデルとなるものと考えられる。このモデルを前臨床薬効薬理試験に用いることで、これまで困難とされてきた抗うつ薬あるいはストレス関連疾患治療薬の創薬研究をより合理的に進めることができるものと期待される。

「眼窩前頭皮質の情動行動に対する寄与の検討:オプトジェネティクスを用いた神経科学研究」
担当:國石洋、関口正幸(神経研)、山田光彦
ラットのOFCは不安様行動と衝動的攻撃性に対する抑制機能を持つ一方、うつ様行動に対する惹起機能を持つ。現在、OFCがどのような下流の脳部位を介してこれらの行動を制御するのか、また、ストレス経験がその回路にどのような影響を与えるのか明らかにするため、オプトジェネティクスと電気生理学的手法を用いた研究を実施している。

「恐怖記憶を操り精神疾患を克服する:恐怖条件付け試験を用いた消去学習と再固定化の研究」
担当:赤木希衣、山田美佐、斎藤顕宜、岡淳一郎、山田光彦
これまでに我々は、グルタミン酸神経伝達を抑制する作用を有するリルゾールがラットの恐怖記憶消去学習を促進すること、恐怖記憶再固定化を阻害することを報告している。興味深いことに、恐怖記憶再固定化によりラット背側海馬で増加したCREBのリン酸化が、リルゾール投与によって有意に抑制された。この結果は、再固定化阻害作用における背側海馬の機能変化の関与を示唆している。今後は、PTSD曝露療法への応用を期待し、恐怖条件づけから長時間経過した古い恐怖記憶へのリルゾールの効果を検討したい。

「統合失調症の発症因子形成におけるNMDA受容体の時期特異的関与」
担当:古家宏樹、山田光彦
統合失調症モデルである新生仔期グルタミン酸NMDA 受容体遮断ラットを用いて、統合失調症の発症因子となる神経発達障害が生じるメカニズムを検討している。本研究は、出生後初期のさまざまな精神機能の発達を支える神経メカニズムの解明に貢献する。多くの発達障害の背景には、出生前後の神経発達の異常がある。ADHD や自閉症スペクトラムでは、統合失調症と同様に注意機能や社会性の問題を抱えている。これらの疾患に共通する神経基盤の存在も示唆されており、本研究は広範な発達障害の発症機序の解明の糸口になる。

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