研究紹介(専門家向け)

疾病研究第二部の研究の概要

疾病研究第二部では、知的障害,脳性麻痺その他の脳の器質的または機能的異常に起因する発達障害の研究を、主として神経科学的及び生物学的方法を用いて行っています。同じ対象疾患を扱いながら,神経生理学や心理学など別の方向から研究をしている精神保健研究所知的障害部(稲垣真澄部長)と連携し、当センターの4つの柱の一つである脳発達障害研究を担っています。

これらの疾患は、病因として、胎児環境や周産期における外因性(薬物,胎児感染,分娩時低酸素など)の要因と脳形成障害や代謝性脳障害などを起こす内因(遺伝子異常,染色体異常など)の要因との2つが関与しています。私たちは、主に分子遺伝学,生化学的,病理学的な研究手法を用いて、その病態を解明したいと考えています。そして、現在は治療が困難なこれらの疾患の新たな治療法や予防法の開発を目指しています。

脳発達障害

脳発達障害をきたす疾患の病因・病態・治療研究

各研究課題の内容

1) ミトコンドリア病に関する研究

担当者:後藤雄一、畠山英之、松島雄一、坂井千香、横田睦美、小牧宏文(併任),中田和人(客員)

ミトコンドリア病は、脳発達障害などの中枢神経症状や筋症ばかりでなく、全身のあらゆる臓器症状を引き起こす疾患です。当研究部は,センター病院臨床検査部遺伝子検査診断室(旧DNA診断・治療室)と共同して,その病因としてのミトコンドリアDNA異常,核DNA変異を精力的に調べ、診断と治療に関する研究をしています。ミトコンドリア病は平成21年10月に「特定疾患」に認定され、平成23年4月に厚生労働科研費難治性疾患研究克服研究事業「ミトコンドリア病に関する調査研究班」(代表:後藤雄一)が発足し、臨床研究を積極的に進めています。

また、ミトコンドリア病iPS細胞の研究(CREST)、種々の病態(統合失調症、心筋症、動脈硬化症、肥満症など)におけるミトコンドリアDNAの研究(多層オミックス研究)など、基礎研究も積極的に進めています。

ミトコンドリア病研究班の活動計画

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2) レット症候群等の遺伝性発達障害疾患の機能解析研究

担当者:伊藤雅之、井上 健、青天目信、水口 雅(客員)、久保田健夫(客員)

遺伝性発達障害の病態解明と治療法開発をめざして研究を行っています。対象疾患は、レット症候群をはじめとした自閉症スペクトラムです。これらの疾患には様々な疾患が含まれますが、社会的相互関係の障害、コミュニケーションの障害、精神活動の幅が狭く行動の反復性を有する、という共通の精神病理があります。これらの多くの疾患で原因遺伝子がみつかっていますが、病態解明には至っていません。

当研究室では、このうちレット症候群(RTT)と結節性硬化症(TS)の研究を行っています。RTTの原因遺伝子であるMECP2は、エピジェネティクス機構の中枢であり、様々な分子の発現に関与し、多くの疾患に影響していることが分かっています。RTTの病態として、ヒトおよびマウスを用いて神経細胞と樹状突起の成熟障害、受容体の発現異常等の共通性を報告してきました。現在、遺伝子変異による疾患表現型の違いの分子機構、複数の遺伝子改変動物を開発して研究を進めています。

また、TSの原因遺伝子はTSC1(hamartin)とTSC2(tuberin)であり、細胞のリン酸化シグナル伝達系の重要な機能分子です。東京大学発達医科学研究室と共同で、TSC2欠損ラットによる分子病理学的解析を行っています。

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3) 遺伝性大脳白質形成不全症の分子病態の解明と治療法開発のための研究

担当者:井上 健、守村敏史、後藤玲央、伊藤亨子、沼田有里佳、有馬恵里子

ペリツェウス・メルツバッハ病(Pelizaeus-Merzbacher病;PMD)を代表とする先天性大脳白質形成不全症の分子病態の解明、治療法開発を目指した研究を行っています。先天性大脳白質形成不全症では,PLP1をはじめいくつかの原因遺伝子が同定され、病態が明らかになっている一方、非常に稀な疾患であり、臨床的には遺伝子検索はおろか診断未確定の患者さんも多いと思われます。この疾患には,現在のところ有効な治療法がありません。そこで,当研究室は,先天性大脳白質形成不全症のうち、特に2つの疾患に焦点を当てて、臨床から基礎まで幅広いアプローチで研究を行っています。

PMDに関しては、患者さんやご家族のご協力で頂いた細胞やDNAを用いて遺伝学的な解析を行い、どのようにしてPLP1遺伝子の変異が起こるのか、起こった変異はどのように疾患を引き起こすのかということを明らかにしたいと考えています。さらに,PMDの治療法を見つけるために、動物モデルや培養細胞を用いて、治療法の開発のために基礎研究を行っています。

当研究室の井上が2004年に提唱した疾患であるPCWH(Peripheral demyelinating neuropathy, central dysmyelinating leukodystrophy, Waardenburg syndrome, and Hirschsprung disease)については、患者さんのSOX10遺伝子解析による診断,動物モデルや培養細胞を用いた病態の研究などを行っております。

また,井上は厚労科研費(難治性疾患克服研究事業)の「先天性大脳白質形成不全症」班の班長を務め、本疾患についての全国疫学調査による患者数や医療の実態の把握や診断基準と治療指針の作成など、臨床医療に即した研究も行なっています。研究班のウェブサイトはこちらから(先天性大脳白質形成不全症:PMDと類縁疾患に関するネットワーク)。

疾患の病態に基づく治療法の開発

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4) 遺伝性精神遅滞の病因解明とリサーチ・リソースの構築

担当者:後藤雄一、井上 健、和賀央子、竹下絵里、中川栄二(併任)

精神遅滞の研究を推進させるために全国的な規模で遺伝子検査を行っています。同時に、その試料を将来の研究に活用するための保存システムを当センターに構築する事業を行っています。平成22年度末までに393家系を登録し,10%近くの家系に,何らかの遺伝学的変化を見いだしています。

精神遅滞症例登録家系数の推移

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5) 発達期脳障害をきたす疾患の病態解明と予防・治療法の開発に関する研究

担当者:伊藤雅之、赤松智久、鋤柄小百合、加我牧子(併任)、稲垣真澄(併任)、水口雅(客員)

周産期低酸素性虚血性脳障害、脂質蓄積症、脳形成障害を伴うてんかんの病態解明と治療法の開発のための研究を行っています。

わが国における発達障害児の成因の大部分は周産期(胎児・新生児)仮死に起因します。その病態として周産期脳循環障害によることが、1980年頃より明らかにされましたが、胎児管理と新生児医療の進歩した現在においても、その発生率はほぼ横ばいであり、臨床的に重症化する傾向にあります。しかし、その有効な予防法や治療法がありません。我々は、新生児仮死モデル動を作製技術し、成人の脳梗塞治療に用いられるエダラボン(ラジカット®)の治療効果を証明しました。さらに、最近行われている脳低温療法の分子基盤のための研究に取組んでいます。

脂質蓄積症は、細胞内小器官に様々な代謝・分解産物が蓄積する疾患群です。このうち、ライソソーム病について、国際医療福祉大学、医薬基盤研究所、鳥取大学と共同で研究を行っています。ライソゾームは細胞内にあって、糖脂質を分解する働きがあります。ライソゾーム酵素のうちβガラクトシダーゼの異常で、GM1ガングリオシドーシスをおこします。

当研究部は,特定の遺伝子変異に対して、化学的シャペロン療法という新しい治療法の開発に取組んでいます。

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6) 精神・神経疾患の遺伝カウンセリングに関する研究

担当者:後藤雄一,佐藤有希子(併任)

病院遺伝カウンセリング室の運営をしながら,具体的な遺伝カウンセリングに対応した研究と研修を行っています.お茶の水女子大学から実習生を受け入れています。

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