研究紹介(一般向け)

新生児医療が格段に進歩した現在でも、こども達には多くの脳の病気が知られています。運動や知能の発達が遅れる知的障害や脳性麻痺、発達のしかたに偏りのあると考えられる自閉症などありふれた病気から、遺伝性の原因による比較的稀ではあるけれど脳の形成がうまくいかない病気や脳内の代謝が障害されたりして重度の障害を抱えてしまう病気まで、たくさんの種類の病気があります。それらの多くのは、治療法はおろか、原因さえもわかっていません。

神経研究所疾病研究第二部は、こういったこども達の脳の病気はいったい何が原因で起こるのか、その原因によりなにが脳の中で起こっているのか、そしてどのようにすればそれを治すことが出来るのか、ということを生物学的に研究しています。そして、少しでも早く、より効果的に、こども達の脳の病気の原因を突き止め、どのように病気が起こるのかを解明し、どうすれば治療できるのかを明らかにしたいと考えています。

私たち疾病研究第二部では、特にいくつかの病気に焦点を当てて、研究を行っています ミトコンドリア病は、脳のみならず、心臓や筋肉をはじめ、体中の臓器に様々な症状が起き、多くは進行性の病気です。こどもの遺伝性の病気の中では、比較的多い病気です。ミトコンドリアは、私たちの身体を形作る細胞すべての中にあり、細胞が活動するためのエネルギーを作る重要な働きをしています。ミトコンドリア病の原因は、通常の核DNAの中にある遺伝子の変化でおきるものと、ミトコンドリアの中にあるミトコンドリアDNAの変化でおきるものがあります。私たちは、多くのミトコンドリア病の患者さんの筋肉や血液の検体を用いて、遺伝子の変化や細胞の働きを調べ、この病気の成り立ちを調べるとともに、どのようにすればこの病気を治療できるか、ということについて研究を行っています。

脳の発達がおくれる精神遅滞は、人口の1〜3%の人にみられる最も代表的な脳の症状の一つです。その程度は、軽度から重度まで様々で、知的発達障害のほかにてんかんや自閉症、身体の障害など様々な症状を伴う場合とそうでない場合があり、多彩です。精神遅滞は、女児に比べ、男児に多いことが知られています。最近の遺伝学の進歩で、精神遅滞にはいろいろな遺伝子の変化が関与していることがわかってきています。しかし、それらの検査は対象になる遺伝子の数が多いのに、それぞれの頻度が少ないことから、日本ではこれまであまり行われていませんでした。そこで私たちは、平成16年から精神遅滞の患者さんのDNA検体の収集を開始し、遺伝子の解析研究を行って参りました。その結果、現在400を超える患者さんのDNA検体を集めることができ、解析を行ったうちの約15%の患者さんの疾患の原因になっていると推定される変化を見いだすことができました。

たいへん複雑な形をしている脳は、厳密な形成プログラムに従って作られます。そのプログラムに障害が起こると、脳は正常な形を作ることができず、知的障害や治療が困難なてんかんを伴う脳形成異常症という病気になります。私たちは、ご両親の同意をいただいて、亡くなった脳形成異常症の患者さんの脳組織を解析することにより、どのようことが原因でこのプログラムに障害を来たし、この重篤な病気が起こるのか、ということも研究しています。

自閉症は患者さんの数が多い病気の一つですが、その原因はほとんど何も解明されていません。しかし、遺伝性の自閉症と独特の運動の異常が見られるレット症候群の病態がわかれば、他の自閉症についても様々なことがわかるかもしれません。レット症候群は、女児に多い疾患で、MECP2という遺伝子の変化で起こります。この遺伝子に変化があると、脳の神経細胞の働きに様々な障害が起こると考えられていますが、これがどのような遺伝子のどのような変化で生ずるのかについては、よくわかっていません。私たちは、このレット症候群の原因となる遺伝子MECP2の働きを止めたマウスの脳を詳しく解析することによって、この病気によってどの様な変化が起こっているのかを解明するための研究も行っています。

人が運動したり、考えたりする時には、脳の中の神経細胞同士が活発にコミュニケーションを行っています。このコミュニケーションを正常に行うために、髄鞘という成分が重要な働きをしています。この髄鞘だけが出来ないために起こる重症の先天的な病気がいくつかあります。これらを総称して、先天性大脳白質形成不全症と呼んでいます。このうち、代表的な病気がペリツェウス・メルツバッハ病です。この病気は、PLP1遺伝子の異常が原因で起こることが知られていますが、PLP1の異常がどのように病気を引き起こすのかについては、まだ十分解明されておらず、治療法もありません。私たちは、この病気の診断や治療をすすめるための研究を行っています。先天性大脳白質形成不全症の研究班に関する情報(先天性大脳白質形成不全症:PMDと類縁疾患に関するネットワーク)はこちらです。また、非常に稀な先天性大脳白質形成不全症の一つ、PCWHという病気の研究も行っています。PCWHは、脳以外に末梢神経、難聴、皮膚の白班や白髪、そして巨大結腸など、多くの症状を伴う病気です。この病気の患者さんのDNA検体を用いた遺伝子の変化に関する解析や動物モデルを使って病気の原因を調べるための研究も行っています。

私たちの研究部では、このように、遺伝子、モデル動物、患者さんにいただいた試料などを有効に使って、こどもの脳の病気を研究しています。そのためには、日本中の医師や世界の研究者、患者とそのご家族の皆様と、力を合わせて研究を進め、少しでも多くの病気の理解を深め、一日でも早く有効な治療法を見いだすことができるように、日々、努力を積み重ねています。

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