Duchenne型筋ジストロフィー 病

・疾患の概要
 Duchenne型筋ジストロフィー症(DMD)は、幼児期から始まる筋力低下・動揺性歩行・登攀性歩行・仮性肥大を特徴とするX連鎖劣性遺伝病.筋ジストロフィー症の中でもっとも頻度が高い.原因はX染色体上のジストロフィン遺伝子変異で、これにより筋細胞の骨格タンパクであるジストロフィンの機能異常が生じ、筋線維に大小不同や脱落が生じる.遺伝子異常の多くはPCR法で迅速に検出できる.患児で診断が確定すれば、出生前診断も技術的には可能であるが、実地の差異は十分な倫理的配慮が望まれる.

・臨床像  
 本疾患の典型例では2-3歳から躯幹・四肢の筋力低下が始まり、一旦歩行が可能になるものの、その後次第に転びやすくなる.症状は進行性で、次第に動揺性歩行(歩く時におしりを振る)や登攀性歩行(立ち上がる時に膝に手をおく)、仮性肥大(ふくらはぎが腫れて固くなる)などの所見が顕著になる.10歳頃には車椅子が必要となり、15歳頃に臥位 となり、20歳前後で呼吸障害や心不全で死亡する.骨格筋の他、心筋にも障害も見られることもある.軽度の精神遅滞を合併する例もある.診断には血清中のCK値の異常高値が参考になる.

・発症機序
1989年連鎖解析と染色体転座例の情報により、ポジショナルクローニング研究戦略の初期の成功例として、X染色体p21.1領域にDMD遺伝子が同定された.この遺伝子は79個のエクソンを有する全遺伝子中最大のものである.この遺伝子の産物ジストロフィン蛋白は片方が細胞質アクチン線維に他方が蛋白群を介して筋細胞膜に結合している.このことより筋細胞の構造安定化に寄与する蛋白と考えられている. 遺伝子変異は、欠失が60%, 重複が6%で、その他のほとんどがフレームシフトを生じさせる点変異. ジストロフィン遺伝子の発見により、発症年齢が遅く緩徐な進行のベッカー型筋ジストロフィー症(BMD)と早期発症で急速に進行する本症の臨床像の違いの理由が判明した.すなわちBMD変異は軽度のミスセンス変異、すなわちアミノ酸の一部が失われるだけで不完全ながらタンパクは産生されるのに対し、DMD変異はナンセンス(フレームシフト)変異で、その結果 タンパクが全く産生されない.

・遺伝子診断法  
  遺伝子の欠失と重複はMultiplex PCR法や半定量PCR法で迅速に診断が行える.これにより60-70%の患者の診断が可能.但し大きな欠失や重複の検出にはサザンブロット法が、点変異の検出にはシークエンス法による塩基配列決定が必要であり、いずれも解析に時間を要する.

遺伝子診断手順

・遺伝子診断依頼可能施設
 ・ 三菱化学BCL社が欠失の同定をサザンブロット法で, SRL社とタカラ社が欠失の同定をPCR法で行っている.
 ・ 研究機関では国立精神・神経センター武蔵病院DNA診断治療室で欠失・重複の同定と保因者診断を定量 的PCR法とマイクロサテライト多型解析法で行っている.点変異タイプの同定による遺伝子診断を行っている施設はない

・遺伝子診断に際しての配慮事項
 定量的PCR法は母親の保因者診断も可能だが、その目的が次子の出生前診断である場合は、実施に対し十分な倫理的配慮が必要. ・ 最近高CK血症を認めた幼児の鑑別診断目的で、無症状のうちにジストロフィン遺伝子検査を依頼し診断を確定させるケースが散見される.このようなかたちでの遺伝子検査を依頼するにあたっては、発症前診断であること・診断がなされても有効な治療法がないことを十分説明すること、遺伝子検査に対する本人(患児)の同意を得ることを目的とした検査前の十分な遺伝カウンセリング(患児と家族への十分な説明)を行うことが必要.現状では、本人が判断できる年齢まで遺伝子診断の施行を見送ることも1つの選択肢と思われる.

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