Rett症候群

・疾患の概要
  Rett症候群は自閉症・てんかん・失調性歩行・特有の常同運動(てもみ動作)を特徴とするX連鎖優性遺伝病.男性は胎生致死で、女性のみが罹患する疾患として知られている.近年本症の責任遺伝子MeCP2が同定され、患者の多くがこの遺伝子に変異を有することが明らかになった.この遺伝子がメチル化遺伝子制御機構の中核をなす蛋白をコードしていることから、本症の諸症状はMeCP2遺伝子の機能不全に起因する下流遺伝子の過剰発現と想定されるようになったが、病態の詳細はまだ不明である.

・臨床像
 幼児期に異常に気付かれ、以後進行性の経過を示す.乳児期は無症状期とよばれ、頚定は正常.おすわり・寝返りはやや遅い.幼児期は進行期とよばれ、歩行開始が遅く、四肢協調運動の障害によりハイハイができない.歩行時はやじろべえのように左右に体を揺らす.この時期に本症特有の手揉み動作、常同運動(その症例固有のくりかえし動作)、痙攣発作、過呼吸、不眠を認めるようになる.小児期は仮性安定期とよばれ、筋緊張低下が進行し側彎が出現する.成人期は晩期とよばれ、筋緊張が亢進に転ずる.次第に運動の減少をみとめ、車椅子が必要となる.痙攣発作はむしろ減少する. 本症は、乳児期はほぼ順調に発達しその後も退行を認めないことが特徴で、これは脳変性疾患の経過と異なる.このことは、本症が脳の発生異常に起因するハードウエア病ではなく、脳の正常機能の維持の異常に起因するソフトウエア病といわれるゆえんである.

・ 発症機序
  前述のようにMeCP2遺伝子の変異に起因する.この遺伝子は以前から症状より想定されていた神経伝達物質をコードする遺伝子ではなく、メチル化遺伝子発現抑制蛋白をコードする遺伝子であった.これは全くの予想外のことで、本症の専門家の予測を見事に裏切ってしまった. 現在本症の機序はこの蛋白の半量不全(罹患女性においても正常Xからは正常なMeCP2蛋白が産生されている)と考えられ、半量 足りないことが発達後期における神経機能の維持や高次機能の獲得阻害の原因になっていると考えられる.具体的にMeCP2蛋白がどのように神経系の高次機能に関わるかは今のところ全く不明であるが、おそらくMeCP2蛋白によって発現が抑制される下流遺伝子の1つが神経系に関与し、MeCP2蛋白が正常に機能しないことでこの遺伝子が過剰発現を呈し、これが中枢神経系の抑制系の破綻につながり、てんかん等の神経症状を生じさせてくるものと思われる. 以前より言語能力が保持される軽症Rett患者の存在が指摘されていたが、変異解析結果 の集積によりこれらの患者は特定のミスセンス変異(R133CやR306C)を有することが明らかにされた.また本症の重症度に変異のタイプの他、X染色体不活化パターンが関与しているという報告もある

・遺伝子診断法
  塩基配列決定法によるMeCP2遺伝子の変異解析.70-80%に変異が同定される.

遺伝子診断手順

・遺伝子診断依頼可能施設

  ・ 国外ではあるが、数施設が変異解析を行っている (有料).最新情報については、GeneTestsを参照のこと.
  ・ 国内において研究目的として患者検体を収集している施設があるが、検査としての受け入れを実施している施設  はない.

・遺伝子診断に際しての配慮事項
  本症の遺伝子変異はほとんどが突然変異であり、また突然変異のほとんどは父親の精子形成過程に生じたものと考えられている.したがって、母親が保因者である場合はごく稀である 母親が保因者である場合、次子も本症に罹患する可能性は(変異MeCP2遺伝子を有するX染色体が次子に伝達される確率であるので)50%. 出生前診断は、母親が保因者として遺伝子変異が確定している場合は可能.但しX連鎖優性遺伝病の保因者である母親が無症状である理由は良い方に歪んだX不活化パターンと考えられており、変異を受け継いだ女性胎児が母親同様のX不活化パターンを有した場合は無症状となる可能性があり、遺伝子変異を基準にして行う出生前診断は倫理上問題となる可能性がある.


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