TOP部長の一言コラム > 一緒に考えませんか?

2007.10.15
  研究室では原則週に一回全体ミーティングを開いていますが、先日のミーティング終了後に学生さんや若手ポスドクの人たちを集め次のような(テスト)問題を提示し、仮想研究トレーニングよろしくみんなで一緒に考えることを行ってみました。意外におもしろいという評判でしたので、ここに再録してみることにします。

遺伝子Aのトランスジェニックマウスを作成したところ、ヘテロ接合体では生後3ヶ月から軽度の肥満と糖尿病を発症することが分かりました。それ以外はこれまでの解析では異常を見つけることが出来ていません。膵臓についても未解析です。ただ、血圧は野生型とほぼ変わりませんでした。

そのトランスジェニックマウスのホモ接合体を作成したところ、生後6週以後に全匹で大変血圧が高くなることが分かりました。解剖の結果腎臓で色素沈着を認めました。

Q1:あなたは何をしますか?

Q2:仮にあなたが遺伝性高血圧の原因を探ろうと決めた場合、次に何をしますか。
Q2−1:トランスジーンはタグが付いているなどして内在性の遺伝子と区別が出来る場合。
Q2−2:トランスジーンはタグなどが付いておらず内在性の遺伝子と区別が出来ない場合

Q3:遺伝性高血圧のラインを遺伝子Aのトラスジェニックラインと分離しました。次いで高血圧ライン、野生型のmRNA発現をGenechipで解析しました。その結果、遺伝子Cの発現がホモ接合体で野生型に比して5千分の一に減少しているのが分かりました。遺伝子Cについて調べたところ接着因子であることが分かりました。文献を調べたところのノックアウトマウスは既に他者により作製されており、肝機能障害が報告されています。次にあなたは何をしますか? 3個の中から選びなさい。

1)高血圧マウスに肝機能障害が存在すれば遺伝子Cが原因である可能性が高くなるのでホモ接合体で肝機能障害の有無を調べる。
2)高血圧の原因が遺伝子Cであるならば遺伝子Cは腎臓で発現していなければならないので遺伝子Cの発現分布を調べる。
3)その他

というような問題です。いきなり3問提示するのでなく一つ提示してはその都度考えていくわけです。Q1については「上段のヘテロ接合体を解析するのも良し、後段のホモ接合体を解析するもよし。ただ私であれば、insertion mutationの可能性を考慮して、また本態性高血圧(という健康上の大きな社会的・医学的課題)の機序解明に向けた成果が生み出されるかもしれないと考えて、ホモ接合体の解析をより精力的に行いますが」という話をしました。研究成果の波及効果といいますか、当たればでかいという研究者としての嗅覚といいますか、どの程度奥深く考えているかというようなことが試される課題かもしれませんねと言う話です。

Q2については様々な回答があるかと思いますし、唯一絶対を言う解はないかもしれません。ただ、どうやったら白黒がつくのか、どうすれば直接的に因果関係を明らかにすることができるのか、そういうことを考えるトレーニングになるでしょう。
燃費が良い研究といいますか、誰にもreproducibleで手法がcomplicateでなくeasyで、予算的にもeconomicalで、かつquantitativeでqualityも高い、結果が出るまでの時間を長くなくspeedyで、ということを皆さんには要求(require)しますが、という話をしました。
ちょうど下線を頭文字を集めればrequisitionの短縮複数形reqsになるので覚えやすいかもしれません。
Q3については1,2,はいずれも白黒を直接付ける実験にはなっていませんので3のその他が正解ということになります。その理由は・・・、これは皆さんへの宿題としましょう。

以上のような話をしたわけですが、まだ少し続きがあります。その翌週の研究室ミーティングで今度は全員の人たちに対して、研究は例えば陸上競技であれば400メートル走を想定してください、というような話をしました。スタートしたときはまだゴール(仮に、論文受理の時点としましょう)が見えていません。何かこれはというポジティブなデータが出たとき、論文作成の元になるデータが出たときが第一コーナーに当たります。第一コーナーに正しく入れるか入れないかは先ほど述べた嗅覚も必要でしょうが数あるデータの中から光るものを見つけていく姿勢が大事という話です。換言すれば、仮説を構築してそれを実証するデータをどうやって出し始めるかが第一コーナーに入る鍵ですよと言う話です。
次いで、第一コーナーから第二コーナーにかかれば、走力(研究力、あるいは以前のコラムに述べた遊び心や総合力でも良いかもしれません)にゆとりがあれば第三コーナーが見えるでしょう。
第三コーナーは論文を書き始める時点としましょう。とすれば何が大事か?そうです先に書いたREQSが大事になってきます。バックストレートにおいて、研究が分散しすぎてもいけませんし、かといって細い袋小路に入り込み枝葉の研究になってもいけません。
バックストレートは、あなたの研究の売りは何なのですか? その研究は本質的なのですか?ということの問いかけに答え始めないといけない重要な時期になります。もちろん、継続して次の論文を出すための礎を築く重要な時期でもあります。バックストレートを走っていたはずが、いつのまにか本筋を離れて向こう正面の観客席に座っていたと言うことにならないようにしましょうという、ということです。
さて、第三コーナーに来たとします。実はしんどいのはここからです。実際の競技でも第三コーナーにトップで入ってきた選手が後続の選手に次々に抜かれるシーンを良く目にします。第四コーナーで投稿、ゴールで受理、を言う一連のプロセスをめでたく完遂するには第三コーナーからの力量が重要です。
特に、当たり前の疑問、例えば、何のための研究ですか?生物学の真理の探求においてどういうふうに役立つのですか?そういう基本的な質問に実は答えきれていない論文が決して少なくない状況の中、後々まで良く引用される論文を作り上げるという実は最もしんどい作業が第3コーナー当たりから始まります。ゴールしたときはヘトヘトでも喜びは大きいでしょう。

以上のような一連の話をしたわけですが、皆さんの何かの参考になれば幸いです。

戻る

Copyright (C) 2006 National Institute of Neuroscience. All Rights Reserved.
本サイトに掲載の記事・写真の無断転載を禁じます