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国立精神・神経医療研究センター神経研究所 疾病研究第四部 : 和田 圭司
神経化学Vol.45(No.1),2006に紹介文が掲載されました(転載許可を得ています)
 国立精神・神経医療研究センター神経研究所は東京は小平市という東京駅から約1時間ほどの距離の町にあります。同じキャンパスには武蔵病院、精神保健研究所があり、千葉の市川にある国府台病院と合わせて国立精神・神経医療研究センターを形成しています。国立精神・神経医療研究センターはがんセンター、循環器病センターについで発足した3番目のナショナルセンターで厚生労働省に属します。精神・神経疾患の克服をめざして様々な診療、研究が行われていますが、神経研究所はその中でも生物学的研究が主体となった研究所です。平成7年に旧科学技術庁からCOE育成研究事業(10年間)の対象機関に選定され、この間に大きく神経研究所は発展しました。知名度もずいぶん向上したのではないかと思っております。さて私どもの疾病研究第四部ですが、神経変性疾患研究を担当する部でパーキンソン病、脊髄小脳変性症、筋萎縮性側索硬化症の研究を行うための室がもうけられています。ただ私自身の興味が広いですので、神経変性疾患の研究に加えて、こころの分子基盤に関する研究や再生医学に関する研究などさまざまな研究を行っています。私自身は平成4年9月に着任しましたので、月日が経つのは早いものでもう13年余が過ぎましたが幸いこれまで多数の内外の共同研究者に恵まれつつがなく研究を行ってくることができました。現在の研究を少し紹介いたしますと、

1.神経変性疾患の分子機序解明と根本的治療法開発に関する研究
 発症機序につきましてはユビキチンシステムと神経変性に関する研究を展開中です。神経軸索変性のモデルマウスであるgracile axonal dystrophy (gad)マウスの責任遺伝子をポジショナルクローニングで同定したところ、ubiquitin C-terminal hydrolase L1 (UCH-L1)遺伝子であることが判明しました。gadマウスではUCH-L1の発現を認めません。このUCH-L1はパーキンソン病PARK5の原因遺伝子、感受性遺伝子としても知られており、I93M変異ならびにS18Y多型が報告されています。私どもはUCH-L1がこれまで知られていた脱ユビキチン化酵素としての側面の他にユビキチン化安定因子としても機能することを明らかにしました。これまでの研究から後者の役割が脳機能上重要であるという成果を上げています。またパーキンソン病との関連でもモデルマウスの作成や中性子小角散乱法などによる構造解析を取り入れた研究を共同研究者の方々と展開しています。

 治療面につきましては金澤一郎総長のご指導を仰ぎながらハンチントン病をはじめとするポリグルタミン病のRNAiなどによる治療法開発の研究を行っています。また、論文という成果ではこれからですが鈴木泰行室長を中心に神経細胞の機能不全修復に関する研究も進行しています。

2.脳神経系の再生医学的研究
 内在性神経幹細胞の賦活化に関する研究などを行っています。特にGPCRに着目し神経系前駆細胞に選択的に、あるいは高レベルで発現するGPCRを定量的にかつ網羅的に同定しました。現在同定されたGPCRに対する作用薬の効果を動物個体で検証中ですが有望な成果が上がってきています。このGPCR戦術は神経幹細胞に限らずどの細胞種にも応用可能ですのでグリア細胞を含む様々な細胞に研究を発展させています。また、UCH-L1の研究展開から神経発生とユビキチンシステムの関連性についても成果を上げることができました。その他、再生組織素子の開発をテーマに青木俊介室長がNEDOの研究代表者としてがんばってくれています。

3.こころの分子基盤に関する研究
 疾患モデルマウスの病態生理学的解析と捉えていただければ結構なのですが、ボンベシン受容体欠損マウス、ニューロテンシン受容体欠損マウス、gadマウスなどを素材にその行動科学的解析、機能形態学的解析、スライスパッチクランプ法などの神経生理学的解析が進行しています。これまでボンベシン受容体欠損マウスを中心に成果報告をしてきましたが他の題材につきましても情動と扁桃体機能に着目した研究が進展しており近いうちに報告できるものと思っています。

 また本項でくくれる研究ではないですがグルタミン酸受容体、グルタミン酸トランスポーター、ノルアドレナリントランスポーターなどの生物学的研究も進行中です。関口正幸室長のAMPA受容体の新規作用薬PEPAに関する研究も内外に知られることになり、共同研究が大きく花開きました。筋ジストロフィーモデルマウスの解析でも関口室長の研究が実りつつあります。

4.その他
 小脳プルキニエ細胞特異的遺伝子、オリゴデンドロサイト特異的遺伝子の機能解析が進行中であったり、肥満とやせなどの研究も進行中です。上記4項いずれもそうですがこれまで個々に進行していた変性研究,再生研究,個体を用いた研究が治療あるいはvivoというキーワードをもとに集約するようになってきました。そしてこのことを背景に、これまで文部科学省や厚生労働省から頂いていました研究助成に加えて、医薬基盤研究所保健医療分野における基礎研究推進事業、科学技術振興機構CRESTのプロジェクトが平成17年度からスタートしました。前者ではアルツハイマー病など神経変性疾患の診断法開発と創薬に関する研究が、後者では脳発達を支える母子間バイオコミュニケーションの研究が行われています。

 これらの多くの研究は過去の在籍者や現在の関口室長、青木室長、鈴木室長以下40余名の部員、さらには金澤総長、高坂所長を始め内外の共同研究者の方々のご協力やご尽力のたまもので成り立っているものであります。あらためて感謝の意を表したいと思います。また、部員や私が分担研究者として参加する研究班の各先生方にもこの場を借りてお礼を申し上げたいと思います。個々の研究やこれまでの成果につきましては残念ながら紙面では書ききれませんでした。また部員につきましても学部学生から大学院生、ポスドク、研究支援者など多数が在籍していますが個別には紹介が出来ませんでした。より詳しい内容はどうぞホームページをご覧下さい。最近リニューアルいたしました(http://www.ncnp.go.jp/nin/guide/r4/index.html)。

 最後に、私どもの研究室、研究に興味を持ってくださる方に一言申し添えますと、いつでも見学に来ていただきたいと思います。早稲田大学と連携大学院がスタートしたり流動研究員制度、研究生制度を活用したりするなど神経研究所では若手研究者の受け入れ制度が整っています。また大学や企業の先生方には、私どもでお役に立てるのでれば、共同研究のご相談もご遠慮なくなさってくださいと申し上げたいと思います。部員には、自分の研究を簡潔に訪問者に説明できるようにとカラー図のファイルを作ってもらっています。短時間で私ども疾病研究第四部の研究の概要をつかんでいただけると思います。ホームページのコラムにも書きましたが、昔30才でアメリカに留学し分子生物学に初めて本格的に取り組みました。脳型ニコチン性アセチルコリン受容体の遺伝子クローニングがテーマだったのですが、このラボは不思議なくらいに未経験者を多数ポスドクに採用していました。当時はまだPCRもない時代でしたが、それでも経験者は探せばいたでしょう。即戦力にもならないのにどうして未経験者ばかりポスドクに採用するのかその訳をボスに尋ねました。「俺は若い人が新しいことに触れて伸びていくのを見るのが好きなんだ」という答えでした。今もこの言葉がこころに残っており研究室の運営方針にしています。現状に満足することなく異分野融合などを図り人材の育成を行うとともに研究につきましても常に新しいものを生み出したいと考えています。これからもどうぞよろしくお願い申し上げます。

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