研究概要

大脳皮質 機能領野の発生・進化メカニズムの解明

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 私たちはマウス大脳皮質で領域特異的に発現する分子群に着目し、これら分子群が個体発生過程でいかにして領域特異的発現に至るのか、そしてそういった発現様式が大脳皮質領域特異性形成にどのような役割を担っているのかを体系的に明らかにしようとしています(Terakawa YW et al., 2013)。またこれら分子群に領域特異的発現を促すプロモーターやエンハンサー活性を利用してマウス大脳皮質のごく一部分の細胞集団に遺伝的標識を施し、今まで決してみることができなかった皮質発生過程におこるダイナミックな変化を可視化する試みが進行中です。さらには大脳皮質の進化的側面に迫る目的で、鳥類からマウス、霊長類へ至るまでにこれら分子群の役割がどのように遷移したのかについても順次解析する予定です。


コンパートメント境界形成に関わる細胞・分子機序の解明

boundary.jpg 複雑かつ高度に進化を遂げたヒトの脳であっても、発生初期段階においてはすべての脊椎動物に共通の単純な一層の細胞シート「神経板(neural plate)」からかたちづくられます。この板が巻き上がって背側で融合してチューブ状の構造「神経管(neural tube)」ができ、その前方部にちょうどイモムシもしくは蛇腹のような「くびれ」が順次生じ、折り畳まれることによって脳の原型が創られるわけですが、このくびれをはさんで隣接するユニットが時として互いに細胞が混じり合わない区画「コンパートメント」となっていることがわかってきました。例えば私たちは哺乳類全胚培養という特殊技術を用いてマウスの初期前脳部と中脳部、終脳部の将来大脳皮質を形成するユニットと基底核を形成するユニットなどがコンパートメントとして定義できることを世界にさきがけて報告してきました(Inoue T et al. 2000 Dev Biol 219(2):373-83, Inoue T et al. 2001 Development 128(4):561-9)。

 このような脳内コンパートメントユニットは「神経分節(neuromere)」と呼ばれ、脳の領域によって性質が大きく異なる多種多様な神経細胞を安定に産み出す場を提供する、その境界部が多くの神経軸索の通り道となっていることから神経回路網形成の基盤となる、ユニット内(e.g. 哺乳類大脳皮質)に進化を限局させることで多様な脳機能形質の獲得を可能とする、など脳の発生・進化に重要な役割を担うことが示唆されていますが、神経分節形成・維持に関わる細胞・分子機序についてはあまりよくわかっていません。
 私たちは脳内コンパートメントに対応して発現する遺伝子の中から特に細胞接着分子カドヘリンに着目して研究を進めており(Inoue T et al. 2000 Dev Biol 219(2):373-83, Inoue T et al. 2001 Development 128(4):561-9, Inoue T et al. 2008 Dev Biol. 315(2):506-20, Inoue YU et al. 2009 Neurosci Res 63(1):2-9)、今後もin vitro コンパートメントモデルの構築や発生途上の脳の細胞個々の動態を多色蛍光分子の発現によって区別できる特殊システム(Brainbow)の導入等を通して脳内コンパートメント境界形成に関わる遺伝的機序を明らかにしてゆく予定です。