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主な研

1. ウイルスベクターを用いた遺伝子治療研究

 DMDはX染色体上にあるジストロフィン遺伝子の異常で生じる、男児約3,500人に一人という比較的高頻度に発生する遺伝性疾患である。ジストロフィン遺伝子異常によりジストロフィン蛋白が全く存在しないことが原因となる。
 
 私たちは1995年以降、ウイルスベクターを用いた遺伝子治療の試みを続けてきた。全長型のジストロフィンは14 Kbとウイルスベクターに組み込むには大きいことから、ジストロフィン遺伝子をベクターにより筋細胞に導入、発現させるために、軽症型のBecker型筋ジストロフィー患者のジストロフィンを元にした短縮型ジストロフィンを作成した。トランスジェニックマウスで作成した短縮型ジストロフィンの機能が表現型を十分改善したことを確認した。

 筋肉を対象とした遺伝子治療では、現在のところアデノ随伴ウイルスベクター(AAV)が適していると考えている。AAV は比較的免疫反応を生じにくいことが知られているが、我々はmdxマウスを用いた検討により、ジストロフィー筋は正常よりも重篤な免疫反応を起こすことも発見した。これは、遺伝子導入がジストロフィー筋に多数存在する抗原提示細胞などに非特異的に導入されるためと考えられ、筋特異的プロモーターの使用や免疫抑制療法の併用によって改善が見られることを解明した。

 現在、AAVベク
ターを用いた効率のよい短縮型ジストロフィン導入のため、変異型筋特異的プロモーターや異なる血清型を用いた発現検討、より病態が人に類似した筋ジストロフィー犬での遺伝子導入を進めている。将来的に、筋ジストロフィーの臨床治験や、筋肉を用いた遺伝子治療全般への貢献を目指している。



2. 非筋細胞におけるジストロフィン複合体の発現及び機能解析
 筋ジストロフィーの責任タンパク質であるジス トロフィンおよびその結合タンパク質(サルコグリカン複合体、ジストログリカン複 合体、シントロフィン及びジストロブレビン)から成る巨大複合体は長い間、筋細胞 に特異的に発現しているものと考えられていた。しかしながら我々はこれが筋以外の組織にも発現していることを見い出している。これまでの一連の研究結果から、この複合体を非筋細胞にも発現する、より一般的な膜関連構造として捉え、その機能を解 析すると共に、筋ジストロフィーにおける筋細胞の変性の機構を明らかにすることを 目的として研究を行っている。


3. DYS-DAP複合体の主要構成分子サルコグリカンの機能の研究

 肢帯型筋ジストロフィーであるLGMD2Cから2Fまでの筋ジストロフィー(サルコグリカノパチー)は4つの独立したサルコグリカン遺伝子の変異により生じる。これらの遺伝子産物であるサルコグリカン(α, β, γ, δ)はDMDの原因遺伝子産物(ジストロフィン)により形成される巨大複合体(DYS-DAP複合体)の主要構成成分であり、筋細胞の機能維持に不可欠であることが示されている。

 私達は、サルコグリカン遺伝子の発見と、この遺伝子から発現するタンパク質の解析、さらには胚発生工学を用いたサルコグリカノパチーモデルマウスの開発などにより、サルコグリカン分子の機能について解析を行ってきた。その結果、サルコグリカンは4量体の小複合体を形成することで安定し、DYS-DAP複合体の構造を物理的に強化する役割を担うことを明らかにした。

 DYS-DAP複合体は収縮という筋肉が被る特異的な物理刺激から細胞膜を保護する機能を持つと考えられているため、その構成分子であるサルコグリカンは横紋筋のみに存在する特殊な糖タンパク質であると思われていた。しかしながら私達はサルコグリカンが筋細胞以外にも存在し、DYS-DAP複合体類似の構造を構築することを明らかにしている。このことはDYS-DAP複合体が筋細胞のみならず多くの細胞に共通する、より普遍的な機能に関与する可能性を示唆している。現在、私達は非筋細胞のDYS-DAP複合体構築に不可欠なε-サルコグリカンに焦点をあて、中枢神経系での解析を進めている。ε-サルコグリカン遺伝子の変異はミオクロナス-ジストニアを生じるため、神経細胞での機能が注目される。横紋筋以外にも多様な細胞を研究材料とする私達のサルコグリカン解析は、DYS-DAP複合体の未だ明らかでない機能をあぶり出し、筋ジストロフィーの分子機構解明に新たな視点を導入するものと考えている。