国立研究開発法人国立神経・精神医療研究センター 神経研究所 遺伝子疾患治療研究部

細胞内カルシウム動態の制御機構の解明

筋ジストロフィー病態の重症度と細胞内Ca2+動態との関係

-細胞内Ca2+動態の制御機構の解明-

エクソン45-55欠失のBMDモデルマウスのnNOSは細胞質に局在し、RyR1がニトロシル化され、細胞内Ca2+濃度上昇を誘導する。DMDやその軽症型であるBecker型筋ジストロフィー (BMD) はジストロフィン遺伝子変異で発症することが知られています。DMDの筋細胞はジストロフィンが欠失していることにより脆弱で細胞外からのCa2+流入の影響を受けやすく、この細胞質へのCa2+流入は慢性炎症や進行性の再生不良、線維化を惹き起こします。Ca2+の細胞質への流入は細胞膜の脆弱性だけでなく、stretch-activated channels、Ca2+ leak channels、leaky Ca2+ release channelsも原因として考えられ、ジストロフィン欠失による細胞内のCa2+ ([Ca2+]i)異常がDMDの発症原因として考えられています。一方で、これら[Ca2+]i動態とDMD, BMDのような病態の重症度との関係は不明な点が多く残っています。我々はこの点を明らかにするためにジストロフィンエクソン45-55を欠失した短縮型ジストロフィンのみが産生されるBMDモデルマウスを新たに作出しました。このBMDモデルマウスとDMDモデルマウスの[Ca2+]i動態を比較することで、DMD病態における[Ca2+]iを調節する分子を同定したいと考えています。この研究からエクソン45-55を欠失した短縮型ジストロフィンは全長ジストロフィンと同等の細胞膜保護機能を有する一方で、ジストロフィン糖タンパク質複合体(dystrophin glycoprotein complex: DGC)に含まれる神経型一酸化窒素合成酵素 (nNOS) は通常、筋細胞膜に局在するものの、BMDモデルマウスでは細胞膜ではなく細胞質に局在し、そこで一酸化窒素 (NO) を産生していることを見い出しました。さらに、BMDモデルマウスでは細胞質に局在するnNOSによって産生されたNOが筋小胞体のリアノジン受容体 (RyR1) をニトロシル化していました。このニトロシル化のレベルはDMDモデルマウスと同程度でした。この様にDMD/BMDモデルマウスではRyR1がleakyになることでの[Ca2+]i濃度が野生型マウスより上昇していました(図1)。しかし、RyR1の機能を検討したところ、BMDモデルマウスのその機能はDMDモデルマウスより有意に高く、野生型と同等に維持されていました。このようにBMDモデルマウスはDMDモデルマウスと同様にRyR1がニトロシル化されているものの、その機能は維持されていたことから、病態の重症度に筋小胞体やRyR1を介した[Ca2+]i動態が関与している可能性が考えられました。現在、これらモデル動物を比較・検討しながら、[Ca2+]iを制御し得る分子の探索を行い、将来的にはこの分子を標的としたDMD治療薬の開発を目指しています。

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