国立研究開発法人国立神経・精神医療研究センター 神経研究所 遺伝子疾患治療研究部

骨格筋メカノセンシング機構

骨格筋メカノセンシング機構

-骨格筋萎縮と筋肥大の分子メカニズムの解析-

骨格筋は自身の活動状態に応じ、環境に適した筋重量を維持しています。筋力トレーニング、スポーツ運動等の運動負荷やリハビリテーションにより筋重量は増し、逆に老化、宇宙飛行、寝たきりやギプス固定に伴う筋の不動、あるいは悪性腫瘍、慢性疾患に伴うカケキシアにより筋重量は減少します。このような筋肥大・筋萎縮という現象は骨格筋におけるタンパク質の合成と分解のバランスによって制御されています。しかし、なぜ運動・不動に応じて、細胞内タンパク質合成・分解経路が活性化されるのかは不明な点が多く、骨格筋への機械的な刺激を感知する何らかのメカノセンシング機構が存在すると考えられていました。我々はそのメカノセンシング機構を明らかにするため、骨格筋細胞膜に局在し、筋収縮などに応じて一酸化窒素(NO)を産生する神経型一酸化窒素合成酵素(nNOS)に注目しています。我々はこれまでにnNOSは脱負荷時には転写因子FoxO3aの制御を介して筋萎縮を促進すること(Suzuki N et al., J Clin Invest. 2007. 図1)、また過負荷時には筋肥大を促進することを報告しています(Ito N et al., Nat Med. 2013. 図2)。
nNOSは骨格筋への負荷によって活性化され、NOを産生します。nNOSによって産生されたNOは活性酸素産生酵素であるNADPH oxidase 4(NOX4)によって産生される活性酸素との協働作用によりパーオキシナイトライトを産生し、タンパク質合成経路を制御するmammalian target of rapamycin(mTOR)の活性化を促進したことから、負荷依存的なnNOSの活性化が筋肥大において非常に重要であることがわかりました。さらに我々はNOおよびパーオキシナイトライトの産生による細胞内Ca2+濃度の上昇がmTORを活性化させることを見い出し、骨格筋への負荷とmTORの活性化が細胞内Ca2+濃度によって結び付けられていることを発見しました。最後に細胞内Ca2+濃度に関わるイオンチャネルを探索した結果、我々はTRPチャネルファミリーに属するTRPV1を同定しました。TRPV1はトウガラシの辛み成分であるカプサイシンにより活性化されることが知られています。マウスにカプサイシンを投与した結果、負荷をかけなくとも、mTORが活性化し、筋肥大が促進/筋萎縮が軽減されることが分かりました。
骨格筋メカノセンシング機構・筋重量制御機構の解明は、筋萎縮に対する新たな治療法の開発へと繋がり、高齢化社会における国民の健康に大きく貢献すると期待されています。

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