Minds over Cytokines

「病は気から」とは、よく聞くフレーズです。寄席で笑うとNK細胞の活性があがる、などという話も耳にします。また、身体の調子が悪いと意欲や集中力が落ちるといったことは、日常的に経験します。私自身、緊張や嫌なことが続くとすぐに体調をこわし、体調が悪くなると気力も意欲もなくなって、休みたくなります。これは私達の身体をささえる、3つの高次機能―神経、内分泌、免疫―が、複雑な生体機能を維持していくために、互いに深く関わりあっているからです。

これらの高次機能が深く結びついていることが認識されたのは、ハンス・セリエによるストレス説の創設から始まるといってよいでしょう。セリエは、当時盛んであったホルモン研究の第一人者であるバートラム・コリップの研究室で、卵巣や胎盤などから新しいホルモンを見つけようとしていました。そこで彼は卵巣や胎盤のエキスをラットに投与すると、副腎皮質の肥大、リンパ組織の萎縮、胃腸内壁の出血・潰瘍を引き起こしました。しかし他の臓器のエキスを投与しても同様の現象がおこるばかりか、臓器の保存に使用するホルマリンをラットに注入しても同じ変化があらわれたのです。そこで、これらの変化は卵巣などのホルモンによる作用ではなく、身体にとって有害な刺激が加わると共通しておこる現象なのではないかと考え、寒さ・暑さ、外傷・出血、精神的恐怖など様々な身体にとって不快な刺激(ストレス)をラットに加えると、上記と同様の反応をおこすことを発見しました。その後、これらの現象は脳下垂体から放出された副腎皮質刺激ホルモンが副腎皮質を刺激して肥大し、副腎皮質ホルモンの産生が高まることによってリンパ組織の委縮がおこること、また副腎髄質を支配する自律神経も刺激され、副腎髄質からアドレナリンが分泌されてさまざまな症状を起こすことなどが明らかにされ、セリエの仮説は証明されたのです。

神経学、内分泌学、免疫学の各領域での研究が進むと同時に、分子生物学が進歩したことにより、神経系で使われる神経伝達物質、内分泌器官から放出されるホルモン、免疫細胞で作られるサイトカイン、またこれらの物質が結合することによって標的細胞に様々な刺激を伝えることのできる受容体が、次々と発見されました。これまで神経でしか作られないと思われていた神経伝達物質が免疫細胞でも作られ、その受容体も免疫細胞が持っていること、神経やその働きをサポートするアストログリア細胞などもサイトカインを産生したり、その受容体を持っていることがわかり、神経、内分泌、免疫の高次機能はそのシグナルを伝達する物質とそれを受け取る受容体を共有することによって、複雑に絡み合っていることがわかってきました。

私たちは、神経、内分泌、免疫クロストークについて研究を進めています。そして、私自身はストレスで蕁麻疹が出たり、アトピー咳が出たり、お腹が痛くなったり、血圧が上がったりと、神経、内分泌、免疫クロストークを実感する毎日です。そもそも人間の神経系は、動物として生存するために必要最低限のラインをこえて発達しています。この必要最低限以上の部分は、いわゆる人類の英知や、人間らしさを形成しているわけですが、それは同時に環境破壊など、人類自身のみならず他の生物にも有害な問題をひきおこしています。この想定外ともいえる発達により、生体内の神経、内分泌、免疫クロストークにも想定外の事態がおこっているのかもしれません。たとえば、ストレスで蕁麻疹が出たり、アトピー咳が出たりなどといったことです。神経、内分泌、免疫クロストークを実感しながら、私見を交えつつ、この分野の研究の様子を少しずつ紹介していきたいと思います。

三宅研究室(自己免疫・神経免疫研究室)  国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 免疫研究部

〒187-8502  東京都小平市小川東町4-1-1  Tel: 042-341-2711 Fax: 042-346-1753
Copyright (C) 2010 三宅研究室(自己免疫・神経免疫研究室) All Rights Reserved.