性ホルモンと免疫

私達の複雑な生体機能を維持して身体をささえるために、3つの高次機能――神経、内分泌、免疫――が、互いに深く関わりあっています。
それでは、具体的にどのように関わっているのでしょうか?

免疫系は神経系によって制御されています。例えば、交感神経、副交感神経などの自律神経は、ノルアドレナインやアセチルコリンといった神経伝達物質を介して免疫反応に大きな影響を与えます。さらに、末梢神経は、その終末から分泌される様々な神経伝達物質により、免疫機能を増強したり抑制したりして調節します。一方、免疫システムも主にサイトカインという液性因子を使って神経系に影響を与えます。

今回は、ホルモンの中でも、性ホルモンについて免疫反応との関係を考えてみます。自分の身体の成分に反応して身体にダメージを与えてしまう、自己免疫疾患という病気があります。この病気にはいろいろな種類がありますが、その患者さんの多くは女性であることが知られています。そこで、女性ホルモンと免疫機能とは何らかの関係があるのではないかと考えられています。

女性ホルモンの一つであるエストロゲンは、高濃度では自然免疫を担う細胞からの炎症性サイトカインの産生を抑えたり、IFN-γやIL-17などを産生するTリンパ球の働きを抑制したり、免疫応答を抑える働きのある制御性T細胞を誘導して炎症を抑制する方向に働きます。このように、細胞性の免疫反応による炎症は抑制する一方、抗体産生については促進します。これらの知見に一致して、エストロゲンが高いレベルで持続する妊娠状態では、自己免疫疾患の中でも細胞性免疫による炎症が主体となることが推定されている多発性硬化症や関節リウマチは軽快することがあるのに対して、さまざまな自己抗体が病態に重要となる全身性エリテマトーデスは増悪することがあることが報告されています。

女性ホルモンのプロゲステロンや男性ホルモンは、免疫機能を抑制しますが、乳汁分泌に重要なプロラクチンというホルモンは、免疫反応を増強します。このように、性ホルモンといってもいろいろな作用があるので、これらのホルモンのバランスにより免疫反応も変化します。特に女性はこれらのホルモンのバランスが複雑に変化し、特に妊娠中は自分とは異なる血液型や遺伝子を持つ胎児を一定期間体内で保持しなければならないため、胎児を攻撃しないような免疫状態が必要となるので、これらのホルモンの変化による免疫反応の調節が大切なのでしょう。性ホルモンは、生殖に関係するさまざまな機能を持ちますが、そのひとつに免疫反応の調節ということも含まれていると考えられます。

プロラクチンは中枢神経系の下垂体から分泌されますが、エストロゲンやプロゲステロンは主に卵巣から分泌されます。その調節には、下垂体からそれぞれのホルモン産生を促すホルモンが分泌され、またこれらのホルモンも視床下部からの調節をうけてます。強いストレスがかかると性周期が乱れるということはしばしば経験されることですが、ホルモンの分泌と神経機能が密接に関連していることの表れです。そして免疫機能もまた深く関連しているのです。

性ホルモンだけでもこれだけ複雑なのですから、神経・内分泌・免疫がどれほど綿密に絡み合って作用しているのか考えると気が遠くなりそうですが、まさにこれが人体の神秘といえるのでしょう。

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