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当研究部では、下記のプロジェクトが進行中である。
1) マーモセットにおける神経回路から、社会性などの高次機能が生成されるメカニズムの解明
 一戸が開発した蛍光トレーサーを用いて生体内で神経回路を可視化する手法を用いて、マーモセットの側頭葉における他者行動・意図・感情認知のメカニズムの研究をおこなっている。特にマーモセットの上記他者認知に関わる顔(表情や鳴き声)、毛の質感、生き物の動作を少ない点で表現するバイオロジカル・モーションに、着目して実験を開始した。怒った顔、バイオロジカルモーションの提示により神経活動が惹起される細胞がマーモセットの側頭葉に存在することが示され、他のヒトを含む霊長類と同様な働きがマーモセットの側頭葉にあることが示された。また、電気記録は大脳皮質の層に垂直に刺した多点電極で行ったが、これにより視覚刺激時の各層のシナプス活動を調べるCSD解析により、マーモセットの系でもこの手法が有効であることがわかった。とりわけ、可視化された神経回路の一方を刺激することにより、それと結合していることがわかっている部位で、生体の視覚刺激と類似のシナプス活動を記録し得たのは、生体内線維連絡可視化法が、有用であることをしめす例として、重要なステップであったと考えている。また、生体内で可視化された以外の、脳内ネットワークの検索を解剖学的手法を用いて行っている。
2) マーモセットの大脳皮質の各領野の生後発達(樹状突起と遺伝子発現に着目して)
 研究生・小賀智文が、マカクザルで行った大脳皮質の3層の錐体細胞の基底樹状突起とその興奮性の入力を受ける小突起である樹状突起棘の解析を、マーモセットに適用した。霊長類においては、生後最初にシナプス数の増大がおこり、種特異的にある年齢でピークに達した後、減少に転じるという現象が知られている。このシナプスの形成と刈り込みのバランスによって起こる現象のマーモセットのタイミングを知ることは、このモデル動物の脳発達の過程を知るための重要なタスクであり、脳発達障害モデルを検討する際の重要な情報と考えこれを行っている。現在までのところ、確かに生直後、成体と比較すると3ヶ月でシナプス密度が樹状突起で著しく高いサンプルした諸領野で起こっていることがわかった。現在、この間のサンプリングを行い大脳皮質の各領野のシナプス形成と刈り込みのダイナミクスを検討中である。また、このシナプスのダイナミクスの研究サンプルと同時期のジーンチップ解析を行い、このシナプス変化を起こす遺伝子の候補の検討を開始している。
3) 扁桃体に関わる回路形成の分子メカニズムの研究
 扁桃体は社会性に重要な構造であるとともに、不安・恐怖の情動にとって極めて重要な構造である。この扁桃体は、多くの脳構造と極めて規則的な線維連絡を作る。23年2月に、微細構造研究部の室長として東北大学より赴任してきた須藤は、この神経結合において重要な役割をすると考えられている分子の分布をしるための、抗体作成を始め、当研究部の分子生物学的環境を整えられた。また、スライス・カルチャーのセットアップも行っている。
4) ウィルスの2重感染を用いた投射特異的遺伝子発現法の開発
 2つの要素からなる遺伝子発現システムの一方を逆行性ウィルスにコードさせ、もう一つの要素を順行性のウィルスにコードさせ、これらのウィルスを結合のある2領野に同時に注入し、二重感染した細胞(すなわち1領野から他領野へ投射する細胞)にのみ遺伝子の発現をさせる研究を行っている。この研究は投射特異的な機能・分子発現制御法において重要な手法となると考えられる。