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研究内容(研究者の方)

随意運動時の末梢感覚制御機構

過去一世紀以上にわたり、脊椎動物の運動を制御する基本的な神経回路について膨大な研究が行われて多くの知見が得られてきた。しかし、それらの生理学的知見ほとんどが麻酔・除脳動物を対象として行われ、動物の行動下で実際にどのように機能するのかは不明であった。我々は、末梢からの感覚入力が動物の行動制御にどのように用いられるのかを、覚醒行動下のサルを対象に慢性的記録法を用いて実験的に明らかにした。

サルに手首を用いた随意運動を行わせ、皮膚神経(橈骨神経浅枝、superficial radial nerve: SR)の電気刺激に対して単シナプス性応答が認められた脊髄ニューロンが、運動の各位相においてどのように反応するかを調べた。前腕筋群の活動を記録するための筋電図電極、SRへのカフ電極、および脊髄からニューロン活動を記録するためのチャンバーを外科的手術によって慢性的に装着する事により安定的に刺激および記録を行った。手首の屈曲・伸展運動ともに安静時、静的運動時、受動的運動時には大きな単シナプス性応答が見られたが、動的運動時には単シナプス性応答がほとんど見られなかった。したがって、SRからの感覚入力は、動的運動時に選択的に抑制されたと考えられる。さらに、我々は、前腕筋群の筋電図活動出現以前にこの抑制が始まっている事を見つけ、SR刺激に対する応答性の低下は、上位中枢から下降性指令によって引き起こされることを示唆した。

では、上位中枢からの下降性指令はどのような神経メカニズムを用いてSRからの入力を抑制しているのであろうか。末梢からの感覚入力を調節する機構として「シナプス前抑制」が古くから知られている。我々は、単シナプス性の応答が認められた脊髄内部位に対して、Wallら(1958)が開発した興奮性試験(excitability testing)を行って、運動課題の各局面においてSRへのシナプス前抑制のサイズがどのように変化するかを、調べた。具体的には、サルが手首の屈曲伸展運動をしている最中に、SRから単シナプス性の応答が認められる脊髄ニューロンを検索し、その近傍で脊髄内微小電流刺激を行い、逆行性に誘発される電位を記録した。その結果、手首の屈曲・伸展運動ともに、動的運動時において逆行性電位の振幅もっとも大きかった。つまり、動的運動時には、SR求心神経に対し、もっとも大きなシナプス前抑制が引き起こされる事が明らかになった。

以上の結果から、動的な運動時には皮膚神経からの脊髄への入力がシナプス前抑制によって抑制され、そのシナプス前抑制の一部は上位中枢からの下降性指令によって引き起こされると考えられた。

随意運動時に末梢からの感覚情報がどのように用いられるかを明らかするためには、皮膚神経だけではなく、他のモダリティをもつ求心神経についても調べなければならない。現在、覚醒行動下のサルにおいて筋由来の感覚神経(橈骨神経深枝、deep radial nerve: DR)へのシナプス前抑制の評価方法(興奮性試験)を確立し、随意運動時に筋求心神経へのシナプス前抑制がどのように働くかを調べている。

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