研究内容(一般の方)

手の運動は脳によってどのように操られているか?

 箸を持つ、字を書くなど私たちは自由自在に手足を動かすことができます。それは無数の神経が協力してはじめてできる脳の共同作業です。

 手足を動かすのに特に大事な脳の部分は「一次運動野」と呼ばれる領域で、およそ頭のてっぺんから耳をつないだ線の少し前のあたりにあります。1950年頃、カナダの神経外科医のPenfieldは、ヒトの一次運動野を電気刺激すると体が動くことを見つけました1。さらに、刺激する場所を変えると動く体の部分が変わることから、一次運動野に「体の地図」が存在することを発見しました。そのため、1950年頃からしばらくは、体の各部分を動かす時には対応した脳の部分の神経が活動しているというように考えられてきました。

 しかし、その後さらに詳しく一次運動野を調べてみると、一次運動野の神経細胞は体の関節や筋肉に単純に一対一で対応しているわけではないことが分かりました2,3。つまり、脳の方から筋肉を見ると、ひとつの神経細胞はいくつかの別々の筋肉を動かすのに役立っており、逆に筋肉から脳を見ると、一つ一つの筋肉の動きに関わる神経細胞は脳の広い範囲に広がっていることが分かってきたのです。現在では、一見単純に見える運動でも、例えば、手首を曲げたり伸ばしたりする運動であっても、多くの部分の神経細胞の活動が関わっていると考えられています。

 このように見てみると、脳から筋肉までとても複雑な神経の連絡によって体が動かされていることが分かります。これは一見とても無駄なように感じます。整理整頓が好きな方は、もっと整理されていても良いのに感じられるかも知れません。

 しかし、私たちはいつも一つ一つの関節だけを動かして運動しているわけではないことを考えると、このように複雑な神経連絡が存在することにも納得がいきます。例えば、手首を曲げる運動をひとつ取ってみても、ボールを投げるときのように肘を伸ばしながら行う時もあれば、物を掴んで自分の体に引っ張るときのように肘を曲げながら行う時もあります。つまり、私たちの体の動きは個々の関節や筋肉を動かすよりも、いくつかの体の部分を協調させることの方が大事なのです。そのため、体を動かす神経連絡は単純な一対一の対応ではなく、いろんなパターンの動きができるように複雑に絡み合っていると言えます。

 それでは一体、どのような私たちの体はどのようなパターンの動きができて、それはどのような神経の連絡によって引き起こされているのでしょうか?この問いを解決することは、なかなか難しい問題であることが想像できます。私たちは本当にいろんな体の動きをすることができます。逆立ちしながらピアノを弾ける人だっています。もしかしたら、一人一人全然違うパターンの動きができて、違った神経連絡を持っていることだって大いに考えられます。それでも、私たちは筋肉につながる神経連絡を細かくたどっていくことで体を操っている神経連絡を明らかにできるのではないかと信じています。このことが明らかになることで、「人間の動きが人間らしい理由」というのも分かってくるかも知れませんし、ロボットに「より人間のような動き」をさせることができるようになるかも知れません。さらに大事なことに、脳や神経を障害して麻痺が起こってしまった場合に、どのような神経連絡を代償すれば運動を回復できるかがわかるようになるかも知れません。このようなことを期待して脳がどのように手足の運動を操っているのかを研究しています。

参考文献

  1. Penfield and Rasmussen, The cerebral cortex of man. Macmillan, New York, (1950)
  2. Shinoda et al., Neurosci Lett. 23, 7-12 (1981)
  3. Phillips and Porter, Corticospinal neurons: their role inmovement, Academic Press, London (1977)

 

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