MENU

研究内容(研究者の方)

脊髄内微弱電気刺激による上肢運動再建法の開発

脊髄損傷の患者は世界中で数百万人と推定されている。ある調査によると、四肢麻痺になった患者らが最も「取り戻したい」と希望している機能は手や腕の動きに関わる上肢の運動機能である(Anderson 2004)。特にリハビリテーションなどによる運動機能の再建が不可能な重篤患者においては、これまで機能的電気刺激(Functional Electrical Stimulation:FES)が運動の再建のために用いられてきた。つまり、上肢の筋や末梢神経に電気刺激を与え、適切なパターンで骨格筋を収縮させる事によって上肢運動を人工的に励起する手法である。しかし、同方法によって非常に単純な運動を引き起こすことは可能である一方、手指を用いた把握のように関節自由度の高い運動の再建は全く不可能である。例えば、5本の指が表現する把握機能の膨大なレパートリーを生み出すには、手指に存在する最大34種類の筋を協調的に活動させる事が必要であるが、それを筋刺激型のFESで再現することが不可能に近い。なぜなら、それら多くの筋は非常に小さく、表面電極による選択的な刺激が不可能だからである。また、一般に筋刺激は疲労しやすい運動単位が最初に動員されることが知られており(逆リクルートメント問題)、容易に筋疲労が誘発されるため、そもそも患者の日常レベルでの使用は現実的でなく、新たな方法を開発する必要がある。

一方、Mushawarらのネコ腰髄を対象とした脊髄内微小電流刺激(intraspinal microstimulation:ISMS)に関する基礎的な実験は、脊髄刺激が従来型FESの持つ上記の問題を解決する可能性を示している。つまり、脊髄刺激は疲労しにくい筋線維が優先的に刺激されるため、疲労の影響なく小さな筋力の増減を長期間安定して制御できる事、多数の筋活動の協調が必要な立位姿勢維持や歩行運動をたった数本の刺激電極を腰髄に埋め込む事によって実現可能なことがすでに示している。さらに、我々の最近の研究から(Takei and Seki, 2009)、脊髄刺激は機能的な把握運動が誘発可能なことが既に分かっている。このような背景から、私たちは脊髄刺激電極を四肢麻痺患者の脊髄に埋め込み、患者が自身の把握運動を自在に制御することを視野に、サルを対象とした基礎的な実験を行っている。つまり、サルの脊髄の特性に合致した新たな埋め込み用刺激電極及びその外科的手術による埋入技術を開発し、長期間安定した脊髄刺激を行い、多様な把握運動を含めた上肢運動を制御するための刺激パターンを確立するための実験を並行して行っている。脊髄刺激は運動の再建だけでなく、疼痛や遷延性意識障害の緩和などのためにも臨床的に用いられている。本研究成果はこれらの分野にも応用可能である。

HOME
ENGLISH