ホーム報道関係者の方プレスリリース > プレスリリース詳細

プレスリリース詳細

印刷用PDF(377KB)

2012年12月5日
独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)
総務課広報係 TEL:042-341-2711

RNAを標的とするオートファジーを世界で初めて発見
〜病気の原因ともなる細胞内のRNAを分解処理〜

 独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター(東京都小平市 総長:樋口輝彦)神経研究所(所長:高坂新一)、疾病研究第四部(部長:和田圭司)の株田智弘室長と藤原悠紀研究生*らの研究グループは、遺伝情報の伝達などを担う一方、蓄積すると病気の原因ともなる物質であるRNAを、リソソームに選択的に取り込んで分解するシステムが細胞内に存在することを世界で初めて発見し、「RNautophagy(アールエヌオートファジー)」と名付けました。

 この研究成果は2012年12月4日に米国の科学誌『Autophagy』オンライン版で公開されました。

【研究の背景】
■RNAの過剰な蓄積が加齢性黄斑変性症や難病の原因に

 私たちの細胞の中ではDNAを設計図として、生体に必要なRNAやタンパク質が絶えず作られていますが、一方でこれらは適切に分解されなければ、蓄積して害のあるものとなってしまいます。RNAの過剰な蓄積が原因となる病気としては、失明の原因ともなる加齢性黄斑変性症(萎縮型)、筋力の低下を主症状とする筋強直性ジストロフィーなどがあります。また、徐々に筋肉が動かなくなる難病、筋萎縮性側索硬化症などの神経疾患の一部にもRNAの異常が発症に関与することが示唆されています。

 細胞の中にはリソソームと呼ばれる小器官が存在し、その中にはタンパク質や核酸(DNA、RNA)、脂質などを分解するための酵素が多量かつ多種類含まれていて、細胞内のゴミ処理場のような役割を果たしています。また、細胞内には、ゴミとなる物質などをリソソームに運んで分解するシステムが存在し、オートファジー(自食作用)と総称されています。

 これまで、リソソームに不要なタンパク質や細胞内小器官を選択的に運ぶシステムがあることはわかっていましたが、リソソームにRNAを選択的に運ぶシステムは知られていませんでした。

【研究の内容】

 今回、本研究グループは、細胞の中のリソソームにRNAを選択的に取り込み処理するオートファジーが存在することを、単離リソソームなどを用いた実験によって解明し、「RNautophagy(アールエヌオートファジー)」と名付けました。

 まずマウス組織から単離したリソソームと精製したRNAを、ATPを含む溶液中で混ぜると、RNAがリソソームに取り込まれ分解されることを、生化学的手法及び免疫電子顕微鏡法により見出しました。ATPを含まない溶液中ではRNAの取り込みがほとんど見られなかったことから、この取り込み過程にはエネルギー (ATP)が必要であることがわかりました。

 またリソソーム表面の膜を貫通して存在するタンパク質LAMP2Cの、リソソームの外側の部分にRNAが直接結合することを見出しました。培養細胞にLAMP2Cを強制的に作らせたところ、この細胞内でのRNA分解量が増加しました。またLAMP2Cを強制的に作らせた細胞から単離したリソソームではRNA取り込み量が上昇し、LAMP2遺伝子欠損マウスの脳から単離したリソソームではRNA取り込み量が低下しました。これらの実験結果から、LAMP2CがRNautophagyにおいてRNAの受け取り手として働いているということがわかりました。

 このように、RNAが選択的に直接リソソームに運ばれて分解されるオートファジーがあることが今回の研究で初めて明らかとなりました。

【RNautophagyの仕組み(モデル図)】

RNautophagyの仕組み(モデル図)

RNautophagyによる、RNA分解の仕組み:リソソームの表面にあるタンパク質LAMP2CがRNAの受け取り手となり、続いてRNAが直接リソソームに取り込まれて分解。

【今後期待される展開】

■RNA異常による病気の病因解明や治療法開発への応用に期待
 RNautophagyの詳細なメカニズムや病気への関与は今後さらに研究していく必要がありますが、RNautophagyの発見は、RNAの過剰な蓄積が原因となる加齢性黄斑変性症(萎縮型)、筋強直性ジストロフィーなど、RNA異常による病気の病因解明や治療法開発へ応用されることが期待されます。またウイルス感染時には、細胞内のリソソームやそれに似た小器官内でウイルスの核酸を認識し、生体に知らせるシステムが存在します。この過程でRNautophagyはウイルス核酸をリソソーム内に輸送することにより、免疫応答にも関与している可能性もあることから、さまざまな感染症対策への応用も期待されます。

【補足説明】

■オートファジー
細胞の中にあるリソソームと呼ばれる小器官に、タンパク質や他の小器官などのさまざまな物質を運び込む仕組み。リソソームに運ばれた物質は、その内部で分解される。細胞はこの働きにより内部の古くなった物質や異常な物質を分解・リサイクルしてその環境を保っている。オートファジーの異常はパーキンソン病をはじめとした神経疾患や、癌などの病気にも関与している可能性がある。また、オートファジー研究はその黎明期から日本人研究者が世界をリードしてきた分野でもある。
■加齢性黄斑変性症
加齢に伴い網膜の中心にあたる黄班が障害され、視力が徐々に低下してゆく疾患。萎縮型と滲出型の2つに分類され、前者については根本的な治療法がまだない。米国などでは失明の原因の第1位にも挙げられる。
■筋強直性ジストロフィー
筋力の低下や筋肉の萎縮を主な症状とする遺伝性の疾患で、筋肉の他にも心臓や中枢神経系など、さまざまな臓器に障害が見られる。成人で最も患者の多い筋ジストロフィーであり、根本的な治療法はまだない。
■筋萎縮性側索硬化症
筋肉を思い通りに動かすために必要な運動ニューロンが変性・脱落することによって筋力の低下や筋肉の萎縮を示し、次第に身体を動かすことができなくなってゆく疾患。根本的な治療法はまだない。

原論文情報

論文名:
“ Discovery of a Novel Type of Autophagy Targeting RNA”
著 者:
藤原悠紀*、古田晶子、菊地寿枝、相澤修、畑中悠祐、紺谷千穂、内田健康**、吉村文、玉井淑貴、和田圭司、株田智弘
* 早稲田大学大学院在学中、国立精神・神経医療研究センター 神経研究所研究生
**早稲田大学大学院
掲載誌:
Autophagyオンライン版/2012.12.04
http://www.landesbioscience.com/journals/autophagy/article/23002/

【研究に関するお問い合わせ】

独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター
神経研究所、疾病研究第四部 
第一研究室長 株田 智弘(かぶた ともひろ)
TEL:042-341-2711(代表)
e-mail:

[ TOPへ戻る ]

当センター敷地内は禁煙です