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プレスリリース詳細

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2013年3月11日
独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)
総務課広報係 TEL:042-341-2711

脳内の神経伝達を増強する新たな分子を発見
〜硫化水素から生成される『ポリサルファイド』が神経伝達を増強〜

 独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター(東京都小平市 総長:樋口輝彦)神経研究所(所長:髙坂新一)の神経薬理研究部部長 木村英雄らのグループは、脳内で硫化水素(H2S)から生成されるポリサルファイド(H2Sn)がシナプスによる神経伝達を活性化させている仕組みを明らかにするとともに、ポリサルファイドが神経伝達を増強させる新たな分子であることを発見しました。

■硫化水素が神経伝達を増強

 脳内の情報伝達は、神経細胞同士のシナプスと呼ばれる結合での信号のやりとりにより行われ、この信号の伝達が上手くいかないとパーキンソン病やアルツハイマー病、統合失調症、うつ病などの神経・精神疾患を起こすと考えられます。
 情報は神経細胞内を電気的信号で伝搬しますが、次の神経細胞との間にはシナプス間隙と呼ばれるすき間があります。そのすき間を電気的信号は越えることができません。そこで、情報が運ばれるとシナプスでは神経伝達物質が放出され、電気信号を化学物質の信号に変えて次の神経細胞へ情報を伝えていきます。神経伝達物質にはグルタミン酸、ATP、アセチルコリン、ノルアドレナリン、ドーパミンなどがあり、現在までに数十種類が発見されています。
 また、神経伝達物質はシナプスから放出されるだけでなく、シナプスを取り囲むグリア細胞の一つであるアストロサイト(脳神経細胞の一つ)からも放出されることが明らかになっています。
 木村らの研究グループはこれまでに、脳内で生成された硫化水素(H2S)がアストロサイトに働きかけることでシナプス間の神経伝達が増強されることを明らかにしてきました。しかしながら、脳内にはシナプス伝達を増強するに十分なH2Sが存在せず、さらにはH2Sに反応するアストロサイトのイオンチャネルも不明でした。

■新たな神経伝達増強分子ポリサルファイドの発見

 今回の研究で木村らは、脳内で硫化水素が結合してポリサルファイド(H2Sn)(n = 2~7)が生成され、H2Snがアストロサイトへのカルシウムイオン流入を誘導することで、アストロサイトがグルタミン酸やATPといった化学物質をシナプスに向けて放出し、神経伝達を増強するという仕組みを明らかにしました。
 また、ポリサルファイドには硫化水素の300倍以上強力なアストロサイト活性化作用を持つことも分かり、神経伝達を増強するに十分量のポリサルファイドが脳内に存在することも分かりました。さらには、ポリサルファイドがアストロサイトへのカルシウムイオンチャネル(TRPA1チャネル)に働きかける物質(内在性リガンド)である可能性が高いことも分かりました。

 今回の研究で、硫化水素がつながったポリサルファイド(H2Sn)が脳内の神経伝達を増強している新たな分子であることを明らかにしました。

図1:H2Snによる神経伝達活性化の仕組み

図1:H2Snによる神経伝達活性化の仕組み


■パーキンソン病など神経変性疾患の根本治療へ道筋

 硫化水素(H2S)には神経保護因子としての機能があり、パーキンソン病などの神経変性疾患治療に応用しようという試みが国外で進んでいます。パーキンソン病の治療薬として使用されるL-DOPA(レボドパ)は神経伝達効率を改善します。この疾患で起こる神経細胞死を阻止することはできず、根本から治療するものとは言えません。

 一方、硫化水素(H2S)には以下の効果が期待されます。

  • ① ドーパミンを分解するモノアミンオキシダーゼ(MAO)を阻害し、ドーパミンのシナプス滞留時間を延ばすことで神経伝達を増強する。
  • ② 神経細胞に障害を与えるミクログリアからのインターロイキン6、TNFαやNOの放出を抑制し、障害を阻止する。
  • ③ 細胞内の主要な抗酸化剤であるグルタチオンを増やす。
  • ④ H2Sから生成されるポリサルファイド(H2Sn)によってシナプス伝達を制御するアストロサイトが活性化され、伝達効率のさらなる改善が期待される。

 これらのことから、今回の発見によりパーキンソン病の根本治療への道筋の一つが示されたことになります。


  • ※ この研究結果は、2013年2月14日に米国連邦実験生物学会FASEB(Federation of American Societies for Experimental Biology)が発行するオンラインジャーナルFASEB Journal(http://www.fasebj.org)で公開されました。
  • ※ 本研究は、独立行政法人国立精神・神経医療研究センター研究補助金、日本学術振興会科学研究費補助金、JSPS科研費23659089(挑戦的萌芽研究、木村英雄)、日本学術振興会科学研究費補助金、JSPS科研費22590258(基盤研究(C)木村由佳)、日本学術振興会科学研究費補助金、JSPS科研費23790316(若手研究(B)三上義礼)の助成を受けて行われました。

【用語の説明】

■ポリサルファイドとは
ポリサルファイドが脳内でも微量に生成されていることが今回の研究で分かった。ポリサルファイドはH2Sが酸素によって酸化されて生成される(2nH2S + 1/2(2n-1)O2 → H2S2n + (2n-1)H2O )。また、ニューロンを取り囲むアストロサイトのカルシウムイオンチャネルを活性化して、カルシウム流入を促進させ、神経伝達物質を生成することで神経伝達活性化を調整している。 脳内でアストロサイトを活性化するポリサルファイドはSが2個から7個まで直鎖状に繋がったもの。この状態で水溶性であるが、8個つながると環状になり不溶性になり機能しないと考えられる。
HS ⇔ HSS ⇔ HSSS ⇔ ... .. ⇔ HS7 ⇔ S8

■アストロサイトとは
脳内で神経細胞(ニューロン)と同じ幹細胞に起源を持ちながら電気的活動をしないグリア細胞と呼ばれる細胞がある。アストロサイト(astrocyte)はグリア細胞の代表であり、脳内最大の細胞集団である。アストログリア(astroglia)とも言う。星型の形態を示すことから、「星状」グリアの名称を持つ。

アストロサイトは二種類の突起を持ち、一方は脳表面や血管、もう一方はニューロンと接している。ニューロンと接触する側は、ニュー ロンの結合細胞シナプスを覆い尽くすように、細かい突起をいくつものばし、グルタミン酸などの神経伝達物質を放出して神経伝達を増強する。

原論文情報

論文名:
Polysulfides are possible H2S-derived signaling molecules in rat brain.
著 者:
Yuka Kimura, Yoshinori Mikami, Kimiko Osumi, Mamiko Tsugane, Jun-ichiro Oka, and Hideo Kimura
掲載誌:
FASEB Journal(The Journal of Federation of American Societies for Experimental Biology)オンラインジャーナル/2013.2.14 fj.12-226415

【研究に関するお問い合わせ】

独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター
神経研究所、神経薬理研究部
木村英雄(きむら ひでお)
TEL:042-346-1725
e-mail:

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