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プレスリリース詳細

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平成25年7月29日
独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)
総務課広報係 TEL:042-341-2711

モルフォリノ人工核酸が再生筋線維に高率に取り込まれることを発見し、同核酸を用いたエクソン・スキップをメロシン欠損型先天性筋ジストロフィーマウスに治療応用することに成功
-研究成果をHuman Molecular Genetics誌に発表-

 独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 神経研究所(樋口輝彦理事長、高坂新一所長)遺伝子疾患治療研究部の青木吉嗣研究員(現オックスフォード大)、永田哲也室長および武田伸一部長らの研究グループは、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの治験に使用されているモルフォリノ人工核酸が、再生初期の筋線維に非常に高率に取り込まれることを明らかにしました。また、今回発見した機序に基づき、筋再生が非常に活発なメロシン欠損型先天性筋ジストロフィーマウスを対象に、モルフォリノ人工核酸を用いたエクソン・スキップ治療を応用することに成功しました。本研究は、筋再生が活発な時期を狙ったモルフォリノ人工核酸の投与によりデュシェンヌ型筋ジストロフィーを対象にしたエクソン・スキップの治療効果を高める可能性を示唆しています。また、これまで治療法のないメロシン欠損型先天性筋ジストロフィーを含め、筋再生が活発なデュシェンヌ型以外の筋ジストロフィーを対象にモルフォリノ人工核酸を用いた治療法を広く応用できる可能性を示唆しています。本研究は、国立精神・神経医療研究センター精神・神経疾患研究開発費および厚生労働科学研究費補助金などの支援によって行なわれたもので、研究成果は7月23日(ロンドン時間)に『Human Molecular Genetics』オンライン版に掲載されました。

■研究の背景

 デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は、出生男児3500人のうち1人の割合で発症する最も頻度の高い重篤な遺伝性筋疾患であり、ジストロフィン遺伝子の変異により、筋線維の膜を保護するジストロフィン・タンパク質が失われることで発症します。一方、メロシン欠損型先天性筋ジストロフィーは、非福山型先天性筋ジストロフィーの10-50%を占める重篤な遺伝性筋疾患であり、LAMA2遺伝子の変異により、筋線維の膜の外側を覆う基底膜を構成するメロシン(ラミニンα2鎖)タンパク質が失われることで発症します。「エクソン・スキップ治療」は、従来の遺伝子治療とは異なり、モルフォリノ人工核酸などの短い合成核酸を用いて、遺伝子の転写産物(メッセンジャーRNA前駆体)の変異部分あるいは隣接した領域を人為的にスキップさせて(スプライシングの調整)、アミノ酸読み取り枠のずれを修正する治療法です。これにより正常と比べると、タンパク質構造の一部が短縮するものの、機能を保ったタンパク質が発現回復し、筋機能の改善が期待できます。モルフォリノ人工核酸は正常な細胞には、ほとんど取り込まれないものの、ジストロフィン欠損の細胞には取り込まれることが知られています。ジストロフィン欠損によって生じた筋線維膜の脆弱性のために、人工核酸が比較的入りやすくなったと考えられていますが、その取り込み機序は不明です。現在、モルフォリノ人工核酸を用いたエクソン51スキップの国際共同治験が進行中ですが、治療用量の設定が難しく、一方ジストロフィンを欠損していないDMD以外の筋疾患にモルフォリノ人工核酸を用いた治療を応用することが困難との課題がありました。

■研究の内容

 研究グループは、筋再生が活発な4-5週齢のmdx52マウスにモルフォリノ人工核酸を投与した場合に、骨格筋におけるジストロフィン発現レベルが最も高かったことから、再生初期段階にある筋線維はモルフォリノ人工核酸をより高率に取り込む可能性があると考えました。そこで、mdx52マウスあるいは野生型マウスを対象に、モルフォリノ人工核酸を経静脈全身投与し、2週間後に後肢の骨格筋を採取し、RT-PCRを行いました。mdx52マウスでは用量依存的にエクソン51スキップが誘導されましたが、野生型マウスではエクソン51スキップが誘導されませんでした(図1)。この結果は、ジストロフィン欠損筋は、正常筋と比べてモルフォリノ人工核酸を取り込み易いことを示唆しています。次にブロモデオキシウリジン(BrdU)を経口で与えたmdx52マウス(5および32週齢)にモルフォリノ人工核酸を投与し、2週間後に後肢の骨格筋を採取し、免疫組織化学染色を行いました。BrdUは細胞分裂の際にチミジンンアナログとしてDNAに取り込まれるため、モルフォリノ人工核酸を投与した時に細胞分裂した再生筋線維を標識することが可能です。この結果、モルフォリノ人工核酸は、大径のBrdU陰性の成熟筋線維と比べて、小径でBrdU陽性の再生初期の筋線維に高い効率で取り込まれることがわかりました(図2)。 更に再生の小径線維への取り込みがジストロフィン欠損に依存するかどうか確かめるために、野生型マウスの後肢の骨格筋に蛇毒であるカルジオトキシン(CTX)を局所投与して、同期的な筋再生を誘導しました。CTXを投与してから4日目に、モルフォリノ人工核酸を経静脈全身投与し、1時間後に後肢の骨格筋を採取し、in situ hybridization法により骨格筋におけるモルフォリノ人工核酸の局在を調べました。その結果、ジストロフィン欠損筋と同様に、正常筋においてもモルフォリノ人工核酸は筋再生初期の筋線維に高い効率で取り込まれる明らかになりました(図3)。これらの結果より、従来考えられていたジストロフィン欠損成熟筋線維にとりこまれるだけでなく、モルフォリノ人工核酸がジストロフィンの有無にかかわらず、再生初期の筋線維に高率に取り込まれることが明らかになりました。最後に、ジストロフィンが発現しており且つ筋再生の活発なdy3Kマウスを対象に、モルフォリノ人工核酸を腹腔内全身投与し、2週間後に後肢の骨格筋を採取しました。RT-PCRでは、標的としたエクソン4スキップが誘導されていることを確認できました(図4)。本研究は、dy3Kマウスをモルフォリノ人工核酸により治療できる可能性を示したばかりか、筋再生が活発なDMD以外の筋ジストロフィーを対象に広くモルフォリノ人工核酸を用いた治療法を応用できる可能性を示しました。本研究成果により、DMD以外でもモルフォリノ人工核酸を用いた筋ジストロフィーに対する新しい治療法開発が加速することが期待できます。

本研究の筆頭著者である青木吉嗣博士は、「モルフォリノは安全性が非常に高く、筋線維の核に届きさえすれば高い治療効果を期待できます。一方、モルフォリノは、筋線維への導入効率が非常に低く、十分な治療効果を得ることが困難でした。本研究では、モルフォリノは再生中の筋線維に高率に取り込まれることを明らかにしました。これにより、活発な筋再生を示す様々な筋ジストロフィ―に、モルフォリノ治療を応用する可能性を切り開いた点は画期的です。」と述べています。本研究の共同責任著者である永田哲也博士は、「従来考えられていたモルフォリノ人工核酸の取り込みがジストロフィン欠損のみに依存しないという画期的な研究成果です。」と述べています。本研究の責任著者である武田伸一博士は、「本研究は、マウスを用いて、代表的なアンチセンス人工核酸であるモルフォリノが筋形質膜から取り込まれる機序に、筋肉の再生が大きな役割を果たすことを明らかにしました。今後、モルフォリノを用いた治療をデュシェンヌ型筋ジストロフィー以外の神経筋疾患に応用する研究が大いに進展することを期待します」と述べています。

■今後の展開

本研究では、モルフォリノ人工核酸は筋再生初期の過程で筋線維に高率に取り込まれることを明らかにしました。今後は、筋肉の再生初期の段階に着目し、モルフォリノ人工核酸が筋線維への導入に関わる分子機序を明らかにすることが重要と考えます。その結果、モルフォリノ人工核酸の細胞への導入効率を飛躍的に高め、本治療法を筋ジストロフィーのみならず、難治性の神経筋疾患にも応用できる可能性があると期待しています。

本研究は、国立精神・神経医療研究センター精神・神経疾患研究開発費(22-5)、厚生労働科学研究費補助金(医療技術実用化総合研究事業:H21-トランス-一般-011、障害者対策総合研究事業:H23-神経・筋-一般-005)による研究資金により行われました。

原論文情報

Yoshitsugu Aoki, Tetsuya Nagata, Toshifumi Yokota, Akinori Nakamura,Matthew J.A. Wood, Terence Partridge, and Shin'ichi Takeda "Highly Efficient in vivo delivery of PMO into regenerating myotubes and rescue in laminin 2 chain-null congenital muscular dystrophy mice" Human Molecular Genetics 2013 ; Advance Online Publication July, 2013, doi: 10.1093/hmg/ddt341

図1. モルフォリノ人工核酸の経静脈全身投与では、mdx52マウスのジストロフィン欠損筋ではエクソン51スキップを誘導するが、野生型マウスの正常筋では誘導しない

mdx52マウスあるいは野生型マウスを対象に、モルフォリノ人工核酸を経静脈全身投与し、2週間後に後肢の骨格筋を採取し、RT-PCRを行いました。mdx52マウスでは用量依存的にエクソン51スキップが誘導されましたが、野生型マウスではエクソン51スキップが誘導されませんでした。この結果は、ジストロフィン欠損筋は正常筋と比べてモルフォリノ人工核酸を取り込み易いことを示唆しています。

 

図2. ジストロフィン欠損筋では、モルフォリノ人工核酸はブロモデオキシウリジン(BrdU)陽性の再生初期の筋線維に高い効率で取り込まれる

チミジンアナログであるBrdUを用いることで、モルフォリノ人工核酸を投与時に筋再生初期の段階にあった筋線維を標識することが可能です。本研究では、BrdUを経口で与えたmdx52マウス(5および32週齢)の後肢の骨格筋にモルフォリノ人工核酸を投与し、2週間後に後肢の骨格筋を採取し、免疫組織化学染色(赤:ジストロフィン、緑:ブロモデオキシウリジン、青:DAPI(核))を行いました(a)。この結果、モルフォリノ人工核酸は、BrdU陽性の筋再生初期段階にある筋線維に高い効率で取り込まれることがわかりました(b)。

 

図3. 正常筋でも、モルフォリノ人工核酸は筋再生初期の筋線維に高い効率で取り込まれる

野生型マウスの後肢の骨格筋に蛇毒であるカルジオトキシン(CTX)を局所投与して、同期的な筋再生を誘導しました。CTXを投与してから4日目に、モルフォリノ人工核酸を経静脈全身投与し、1時間後に後肢の骨格筋を採取し、in situ hybridization法により骨格筋におけるモルフォリノ人工核酸の局在を調べました。その結果、正常筋においても、ジストロフィン欠損筋と同様に、モルフォリノ人工核酸は筋再生初期の筋線維に高い効率で取り込まれる明らかになりました。

 

図4. モルフォリノ人工核酸は、筋再生の活発なdy3Kマウスの骨格筋でエクソン・スキップを誘導できる

筋再生の活発なdy3Kマウスを対象に、モルフォリノ人工核酸を腹腔内全身投与し、2週間後に後肢の骨格筋を採取しました。RT-PCRでは、エクソン4スキップが誘導されていることを確認できました。本結果は、dy3Kマウスをモルフォリノ人工核酸により治療できる可能性を示したばかりか、筋再生が活発な筋ジストロフィーを対象に広くモルフォリノ人工核酸を用いた治療法を応用できる可能性を示唆しています。

 

【用語の説明】


■モルフォリノ人工核酸

モルフォリノ環構造を持ち、約20〜30 塩基対の短い一本鎖からなるDNA類似の合成核酸である。メッセンジャーRNA 前駆体の標的配列に、相補的に結合することによりスプライシングを制御することができる。モルフォリノ人工核酸は、ヌクレアーゼなど生体内の酵素により分解を受けず、免疫応答を誘導せず、pre mRNA に対し非常に強い配列特異的結合が可能である。一方、電荷を持たないため、細胞への導入効率が非常に低いことが課題である。

■エクソン・スキップ治療

モルフォリノ人工核酸等を用いて、メッセンジャーRNA 前駆体からイントロンを切り出すスプライシングを調整し、アミノ酸読み枠のずれを修正する治療法である。その結果合成されるタンパク質は、スキップしたエクソンに相当する部分は欠如するが、正常に近い機能を有する。現在、デュシェンヌ型筋ジストロフィーを対象にしたエクソン51スキップの治験が進行中であり、有望な結果が得られつつある。

■デュシェンヌ型筋ジストロフィー

ジストロフィン遺伝子の変異によりジストロフィンが欠損するX連鎖性の遺伝性疾患である。筋ジストロフィーの中でも最も頻度が高く、2-5歳で発症する。筋萎縮、筋力低下は進行性であり、11〜13歳までに自立歩行が不能となる。30 歳以前に呼吸不全あるいは拡張型心筋症による心不全で死亡する。現在、進行の経過を遅らせるステロイド剤以外に、有力な治療法は存在しておらず、エクソン・スキップ治療を含め、新たな治療法の開発が期待されている。

■筋ジストロフィーマウス (mdx52マウス)

mdx52マウスは、ジストロフィン遺伝子のエクソン52 を、遺伝子標的法を用いて人為的に欠失させたデュシェンヌ型筋ジストロフィーのモデルマウスである。筋細胞膜のジストロフィンをほぼ完全に欠損しており、デュシェンヌ型筋ジストロフィーと類似した進行性の筋萎縮・筋力低下や心筋障害を呈する。本マウスは、エクソン52 の欠失により、エクソン53 に停止コドンが生じてジストロフィンを欠失する。モルフォリノ人工核酸を用いてジストロフィン遺伝子のエクソン51スキップを行うことができれば、不完全ながらも小型のジストロフィンが産生される。ジストロフィン遺伝子の欠失変異が集中するホットスポット領域に変異を持つため、エクソン・スキップ治療の開発に有用なモデルとして注目されている。

■メロシン欠損型先天性筋ジストロフィー (merosin-deficient congenital muscular dystrophy)

LAMA2遺伝子の異常により、筋肉の細胞膜の外側を覆う基底膜を構成するメロシン(ラミニンα2鎖)タンパク質が欠損する遺伝性疾患である。欧米では非福山型先天性筋ジストロフィーの約半数はメロシン欠損型であるが、本邦では非福山型先天性筋ジストロフィーの10%以下と推定されている。乳幼児期からの発育、発達の遅れがあり、座位はできるが、歩行は獲得できないことが多い。比較的進行は遅いが、呼吸不全により乳幼児期に死亡することがある。現在、有力な治療法は存在しておらず、新たな治療法の開発が期待されている。

■メロシン欠損型先天性筋ジストロフィーマウス(dy3Kマウス)

dy3Kマウスは、神経研究所 遺伝子疾患治療研究部の鈴木友子室長らにより作成された、ラミニンα2鎖の発現を完全に欠損したノックアウトマウスである(FEBS Lett., 1997)。本マウスは、ラミニンα2鎖の発現が骨格筋および末梢神経に全く認められないため症状は非常に重く、体重増加不良、筋力低下で生後6〜8週で死亡する。筋肉の病理では、骨格筋の基底膜はなく、筋線維の壊死が認められ、筋線維の再生がおこるが不良で結合組織の増加が認められる。dy3KマウスはLAMA2遺伝子のエクソン4にネオマイシン耐性遺伝子の挿入があるためフレームシフトが生じ停止コドンが出現する。モルフォリノ人工核酸を用いてLAMA2遺伝子のエクソン4スキップを行うことができれば、不完全ながらも短縮型のメロシンが産生される可能性がある。

※ご取材の際には、事前に下記までご一報くださいますようお願い申し上げます。

【研究のお問い合わせ先】

武田伸一(たけだ しんいち)
独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 神経研究所
遺伝子疾患治療研究部 部長
TEL: 042-346-1720/FAX: 042-346-1750
e-mail:

【本リリースの発信元】

独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 広報係
TEL: 042-341-2711/FAX: 042-346-2094

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