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平成25年9月19日
独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)
総務課広報係 TEL:042-341-2711

「読み書き障害児」の脳活動の異常を発見
~発達性読み書き障害(ディスレクシア)の神経学的な病態を解明~

 独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター(東京都小平市 総長:樋口輝彦)精神保健研究所(所長:福田祐典)知的障害研究部部長 稲垣真澄と日本学術振興会特別研究員 北洋輔らの研究グループは、学習障害の中核を占める「発達性読み書き障害(ディスレクシア)」において大脳の2つの領域に異常があることを、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)等を用いる研究によって発見し、英国の科学研究誌「BRAIN(ブレイン)」に発表しました。
 この研究成果はディスレクシアにおける神経学的病態を明らかにするもので、文字の読み書きが難しいという障害が、本人の努力不足や環境によって引き起こされるという偏見や誤解を解消することにつながる社会的意義の高い研究成果です。
 この研究結果は、Oxford University Pressが発行する英国科学誌『BRAIN』に掲載され、2013年9月19日にオンライン版(http://brain.oxfordjournals.org)で公開されます。

■発達性読み書き障害の病態の一端が明らかに

 発達障害の一型である「学習障害」は、とくに教育分野においてその対策が強く求められています。学習障害の中核を占める発達性読み書き障害(ディスレクシア)は、日本の人口の約0.7~2.2%、100~200万人いると推定されています。知能が正常であっても文字の読み書きが難しく、小学校高学年になってもひらがなが読めない、漢字が書けないといったかたちで障害が現れます。そのため、本人の努力が足りないから、といった誤解や偏見を生むこととなり、本障害の病態解明は医学的にも社会的にも急務とされていました。
 そこで本研究グループでは、発達性読み書き障害の原因とされる認知能力の一つである「音韻処理機能」に焦点を当てて、脳機能の異常を明らかにすることにしました。
 日本人の健常成人、健常小児、および発達性読み書き障害児を対象に、音韻処理の際の脳活動を機能的磁気共鳴画像法(fMRI)によって測定したところ、読み書き障害児には2つの脳領域、「大脳基底核」と「左前上側頭回」に活動の異常があることが確認されました。大脳基底核では、健常児・者に比べて過活動がみられ、左前上側頭回では低活動が認められました。これらは、音韻処理の能力低下に関与しており、発達性読み書き障害の神経学的な病態が初めて明確に示されました。
 いままでディスレクシアは中枢神経系に障害があり、通常とは異なる脳の働きがあると推定されていましたが、その実態は不明でした。fMRIを用いたディスレクシアの病態解明の研究は海外でも例がなく、このたびの研究により、神経科学的な病態の一端が明らかなったことは極めて高い学術的な意義があると考えられます。

■大脳基底核と左前上側頭回に活動の異常を発見

 実験では、59名の日本人の参加者(内訳:健常成人30名、健常小児15名、臨床診断が確定したディスレクシア児14名)を対象に、音韻処理に関わる課題を新たに作成・実施し、その課題中の脳活動を機能的磁気共鳴画像法(fMRI)にて測定しました。
 その結果、ディスレクシア児では2つの脳領域における活動異常が認められました。
 一つ目は大脳基底核で、健常成人や健常小児では、要請される音韻処理のレベルに応じて、その活動が変化していたことに対し、ディスレクシア児では、要請されるレベルに関係なく、常に大脳基底核が活動していました(図1)。大脳基底核は大脳半球の基底部の髄質にある神経核の集合体で、運動調節、認知機能、感情、動機づけや学習などさまざまな機能を担っていますが、音韻処理においてはその効率性に関与していると考えられています。
 二つ目の異常が認められた領域は左前上側頭回で、この領域は健常成人や健常小児などでは、音韻処理の能力が高ければ高いほど活動が認められますが、ディスレクシア児では、活動が低下していました(図2)。左前上側頭回は、大脳皮質の側頭葉に存在するしわの隆起した部分で、熟達性に関与していると考えられています。
 行動学的データとfMRIデータの解析から、ディスレクシア児の音韻処理能力の低下の背景には、この二つの脳領域の活動異常があると考えられました。特に大脳基底核は、アルファベット語圏では指摘されることが少なく、日本語圏のディスレクシア児の背景病態を考える上で重要な知見の一つとして考えられます。

 図1 大脳基底核

ディスレクシア児群では、音韻操作がない時にも、活動が亢進

 図2 左前上側頭回

ディスレクシア児では、音韻操作を行う時の賦活が低い。

■今後期待される展開:文字の読み書きの困難に対する偏見や誤解を解消する一歩

 今後期待される展開としては、第一に脳機能評価を用いた客観的な診断法が確立されることです。現在、種々の神経心理検査や問診等によって診断されている、ディスレクシアの診断プロセスに本研究成果に基づく脳機能評価を併用することで、診断の精度が高まり、誤診や障害の見逃しを軽減することが期待されます。
 第二に、脳機能評価に基づいた治療法の開発・治療効果判定が考えられます。現在では、主に心理・教育分野において治療や介入がなされていますが、本知見を基に音韻処理に関わる治療・介入法の開発や、治療・介入後の改善の程度を、脳機能評価によって判定することなどが可能となります。

※ 本研究は、日本学術振興会(北洋輔)、聖マリアンナ医科大学(山本寿子)、国立精神・神経医療研究センター脳病態統合イメージングセンター(IBIC)(守口善也)、鳥取大学(内山仁志・関あゆみ・小枝達也)との共同研究によって行われたものです。
※ 本研究は、独立行政法人国立精神・神経医療研究センター精神・神経疾患研究開発費、日本学術振興会科学研究費補助金の助成を受けて行われました。

【用語の説明】
■発達性読み書き障害(発達性ディスレクシア)とは:

学習障害の主要な障害の一つ。全般的な知能が正常範囲にあり、視覚や聴覚などの末梢感覚器の障害がなく、学習環境や本人の意欲にも問題がないにも関わらず、「読み書き」に困難を認める。特に正確かつ/または流暢な単語認識の困難があり、綴りや文字記号の音声化が劣拙であることを主徴とする。
言語圏によって有病率は異なり、アルファベット語圏では5~17.5%とされるが、日本語圏では1%未満から3%程度とされる。文字言語の使用が求められる小学校以降に顕在化することが多く、現在では、特別支援教育の主要な対象の一つとされている。
同障害を抱える著名人として、俳優のトム・クルーズ、映画監督のスティーブン・スピルバーグ、ヴァージングループ会長のリチャード・ブランソン、スウェーデン国王カール16世グスタフなどが、同障害であることを告白している。

■音韻処理:

一連の音刺激(例:会話)などにおいて、最小の音単位(音素・拍)を認識・処理する能力。日本語の例では、「たいこ」という発話を聞いたときに、それらが3拍で構成されていることや、真ん中の音が「い」であること、などを認識する能力とされる。文字の読み能力に強く関わると言われており、音韻処理の問題が発達性読み書き障害の原因の一つとして考えられている。

原論文情報

論文名: Altered brain activity for phonological manipulation in dyslexic Japanese children.
著 者: Y. Kita, H. Yamamoto, K. Oba, Y. Terasawa, Y. Moriguchi, H. Uchiyama, A. Seki, T. Koeda, M. Inagaki

【お問い合わせ先】

【研究に関すること】

独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター
精神保健研究所
知的障害研究部長 稲垣 真澄(いながき ますみ)
TEL:042-341-2712 内線6273
E-mail:

【報道に関すること】

独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター
企画戦略室 広報グループ
TEL:042-341-2711(代表)

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