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プレスリリース詳細

〈当発表は、2013年10月9日 厚生労働記者会において記者発表致しました〉


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2013年10月10日
公益財団法人
精神・神経科学振興財団
Tel:042-347-5266(事務局)

独立行政法人
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)
Tel:042-341-2711(総務部 広報係)

複合的地域自殺対策プログラムの自殺企図予防効果を研究
-予防効果は、性別・世代、地域の特性によって異なることが明らかに-

■ポイント
・複合的地域自殺対策プログラムの自殺企図予防効果を検討しました。
・予防効果は、性別・世代、地域の特性によって異なることが示されました。
・地域の特性に根ざした自殺対策の立案と実践に役立つものと期待されます。

 国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センターの大野裕センター長は、岩手医科大学医学部神経精神科学講座の酒井明夫教授らとともに、研究グループを全国で組織し、複合的地域自殺対策プログラムの自殺企図予防効果を検討しました。本研究では、自殺死亡率が長年にわたって高率な地域において、一次から三次までの自殺予防対策を複合的に組み合わせた自殺予防対策プログラムを介入地区で実施し、通常の自殺予防対策を行った対照地区と比較して、自殺企図の発生に効果があるかどうかを検討しました。その結果、3.5年間の地域介入により、対照地区と比較して、自殺企図の発生率が、男性で約23%、65才以上の高齢者で約24%減少しました。一方、近年自殺が増加している都市部地域においても同様の検討を行いましたが、自殺企図の発生率は対照地域と比較して同等でした。本研究により、自殺企図予防効果は、性別・世代、地域の特性によって異なることが示されました。これらの結果は、我が国における地域の特性に根ざした自殺対策の立案と実践に役立つものと強く期待されます。

■研究の背景と経緯

 厚生労働省「人口動態統計」によれば、平成23年における死亡順位では、20~39才の日本人の死因の第1位が自殺であり、40~49才で第2位、50~54才で第3位となっています。また、我が国の自殺死亡者数は平成9年まで2万5千人前後で推移していたが、平成10年に急騰した。平成24 年には3万人を下回ったものの、現在も高い水準で推移しています。
 自殺の背景には、健康問題、経済・生活問題、家庭問題の他、人生観・価値観や地域・職場のあり方の変化等様々な社会的要因が複雑に関係しており、予防対策の実施に当たっては多角的な検討と包括的な対策が必要となります。しかし、これまでは対象地域が限られていたり、対象に偏りがあったり、活動の事後評価が行われなかったりするなど、効果的な複合的自殺予防対策のあり方に注目した科学的研究及び施策は甚だ不十分な状況でした。そこで、全国で実施されていた先駆的な取り組みを踏まえて本研究を実施し、今後の政策立案に役立てることが必要と考えられました。
 なお、国際的に見ても、本研究のような大規模な地域研究で効果を示すことは困難であり、研究も数が限られており、本研究は、実施中から世界的にも注目され成果が期待されています。



■研究の内容

 本研究の課題名は「複合的自殺対策プログラムの自殺企図予防効果に関する地域介入研究」です。国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センターの大野裕センター長(研究実施時は慶應義塾大学教授)は、岩手医科大学医学部神経精神科学講座の酒井明夫教授らとともに、研究グループを全国で組織し、関連する自治体等の協力を得て複合的地域自殺対策プログラムの自殺企図予防効果を検証しました。このプログラムは、過去の研究成果をもとに、一次から三次までの効果的とされる自殺予防対策を複合的に組み合わせたものです(参考表1)。
 本研究では、自殺死亡率が長年にわたって高率な地域において、このプログラムを介入地区で実施し、通常の自殺予防対策を行った対照地区と比較して、自殺企図の発生(自殺死亡者及び自損行為(重症ないし中等症)による救急搬送者の頻度)に効果があるかどうかを検討しました。加えて、近年、自殺が増加している都市部地域においても同様の検討を行いました。自殺企図は出現頻度が低くバラツキが大きいため、介入前後の比較ではなく、事象のrate ratio(率比)を地区、性別、年齢、期間で調整した後に、研究班とは独立した専門の統計家がintention-to-treat分析(「介入の意図」による分析)を用いて、対照地区と比較しました。なお、効果の評価と同時に、各地におけるプログラム実施率についても解析しました。実施期間は2006年7月からの3年半で、解析期間は実施開始前3年間と、実施開始後の3.5年間になります。研究途中で参加を中止した地域はありませんでした(参考図1)。
 なお、本研究は、厚生労働科学研究費補助金による「自殺対策のための戦略研究」の一環として実施されました。



参考図1:地域介入研究の概略

(Ono et al., 2013 http://dx.plos.org/10.1371/journal.pone.0074902)

参考表1 介入プログラム項目


項目名
1.こころの健康づくりネットワーク
1.1都道府県レベルでの関係部署・機関等のネットワーク会議の設置・開催
1.2地域におけるこころの健康づくり・自殺予防連絡会の設置・開催
1.3社会システムへのアプローチ
2.一次予防
2.0地域づくり*
2.1普及啓発活動の方法
①パンフレット(全戸配布,年1回以上/各種健康教育・健康相談時の配布)
②ポスター,カード,カットバン,ティッシュ,メモ帳等のグッズ
③市区町村広報誌
④講演会用スライド
⑤ホームページ
⑥こころのケアバッジ等
2.2一般住民向け普及啓発
(1)健康祭り等のイベントにおける普及啓発
(2)市区町村単位(対象地域全体)での講演会や市民講座
(3)地区(対象地域内の小地域ごと)の講演会や講話
(4)各種集団検診・健診等の会場における普及啓発
(5)介護予防教室における普及啓発
(6)病態別健康教室等の保健事業における普及啓発
(7)学校等教育機関における普及啓発
(8)ストレスマネジメント教室等の開催
(9)住民参加型生きがいサークル等の実施
(10)こころの健康度調査の実施と調査結果の公表
(11)マスコミの活用(新聞・雑誌社,テレビ局等への情報提供)
2.3地域のキーパーソン向け普及啓発
(1)講話:保健推進員,民生児童委員,在宅福祉アドバイザー,ケアマネージャー等を対象とした講話
(2)研修会
①保健所,こころの健康づくり連絡会のメンバーを対象とした研修会
②保健推進員,民生児童委員,在宅福祉アドバイザー,ケアマネージャー等を対象とした研修会
③こころの悩み相談員の養成講座
④役場職員,農業協同組合,商工会,中小企業等,地域の団体を対象とした健康教室の開催
⑤新聞,雑誌,テレビ等マスコミ従事者を対象とした研修会
⑥公共交通機関の職員を対象とした研修会
(3)医療従事者向け研修会
(4)こころのケアナース養成事業
3.二次予防
3.1ハイリスク者のスクリーニング
(1)各種集団検診・健診等を活用したスクリーニング
(2)介護予防健診を活用したスクリーニング
(3)介護家族教室・健康教室を活用したスクリーニング
(4)健康保険,年金窓口における離職者に対するスクリーニング
(5)中小企業,JA,商工会議所等における職域でのスクリーニング
(6)民生児童委員や保健推進員等の訪問時におけるスクリーニング
(7)家庭配布用パンフレットによる自己チェック
3.2スクリーニング後のケースカンファレンス
3.3相談や訪問等の支援
(1)相談窓口(電話相談体制窓口、専門相談窓口)の設置・運用
(2)家庭訪問
(3)専門医を交えた地域カンファレンス
(4)専門医と保健師による同伴訪問や巡回相談
(5)精神疾患による医療機関受診者への支援
(6)身体疾患による医療機関受診者への支援
(7)二次スクリーニング結果に基づく医療機関との連携
3.4地域見守り活動
3.5こころのケアナース事業
4.三次予防(ポストベンション)
4.1自死遺族の把握
(1)地域のキーパーソンによる自死遺族の情報提供
(2)事例発生時の自死遺族の把握と早期ケア
4.2自死遺族の支援
(1)普及啓発媒体の配備
(2)相談窓口の設置・運用
(3)市区町村・保健所保健師の訪問相談
(4)自死遺族の組織運営の支援
(5)地域交番や地域住民による見守り
5.物質関連障害(アルコール関連障害等),統合失調症等の精神疾患による自殺の予防
5.1物質関連障害(アルコール関連障害等)へのアプローチ
(1)社会資源の把握・連携
(2)アルコール問題をテーマとするイベントの開催
(3)地域や職域での健康教育
(4)専門職を対象とした研修会
(5)ゲートキーパー(ケアマネージャー,民生児童委員,各種ボランティア等)に対する教育
(6)学校における未成年者に対する飲酒教育
(7)紙媒体(リーフレットやポスター)や電子媒体(ホームページ)による情報提供
(8)医療機関,地域包括支援センター,職域でのスクリーニング
(9)相談窓口の設置・運用
(10)訪問指導
5.2統合失調症等へのアプローチ
(1)社会資源の把握・連携
(2)地域でのイベント
(3)ボランティア養成講座の開催
(4)紙媒体(リーフレットやポスター)や電子媒体(ホームページ)を用いた情報提供
(5)相談窓口の設置・運用
(6)訪問指導
(7)ケースマネジメントのためのケース検討会
(8)当事者によるピアカウンセリングの実施
(9)回復者クラブまたはサロンの設置・運営
6.職域へのアプローチ
6.1勤労者へのアプローチ
(1)支援体制の強化
(2)地域産業保健センターの窓口の整備
(3)事業場への普及啓発媒体(パンフレット,DVD等)の配布
(4)事業場への調査の実施
(5)講演会の実施
(6)嘱託産業医に対する調査,教育
6.2離職者へのアプローチ
(1)健康保険,年金の担当窓口,ハローワーク等でのパンフレットの配布
(2)ハイリスク者のスクリーニング 


■研究の成果

 本研究の結果、複合的自殺予防対策プログラムを実施すると、自殺死亡率が長年にわたって高率な地域(青森地域、秋田地域、岩手地域、南九州地域の11地区:人口631,133)では、当初期待されていた約20%の自殺企図の減少効果が、男性および65才以上の高齢者で明確となり、強い予防効果が得られることが明らかとなりました。その一方で、女性および若年者では、はっきりとした効果が認められませんでした(参考図2)。これらの地域でのプログラム実施率は、対照地区よりも明らかに高いことがわかりました(参考図3)。一方、近年自殺が増加している人口規模の大きな都市部(仙台地域、千葉地域、北九州地域の6地区:人口1,319,972)の自殺企図の発生率は対照地域と比較して同等でした(参考図4)。これらの地域でのプログラム実施率は対照地区と有意な差がなく(参考図5)、そのことが今回の結果に影響している可能性が示唆されました。本研究で示唆された複合的介入プログラムを都市部で実施する際の困難さには、都市部における人的資源や地域におけるネットワークの不足など地域の特性が影響している可能性が考えられますが、こうした点についてはさらに研究を進めて課題を解明していく必要があると考えます。また、近年自殺者が増えている女性および若年者に対しては、これまでの自殺対策の効果が期待できないことが明らかになりました。このことは、啓発活動が女性および若年者に対しては自殺を誘発するリスクを伴う可能性への考慮などの、従来の知見を踏まえた、新しい対策の検討が必要であることを示唆しています。
 以上のように、本研究により、自殺企図予防効果は、性別・世代、地域の特性によって異なることが明らかになり、科学的根拠に基づく自殺対策の政策立案の必要性が示されました。
 なお、本研究参加地域において、地域自治体、民間団体、自殺対策研究者らにより築き上げられたネットワークは、自殺対策に留まらず地域の社会作りに貢献しています。平成23年の震災の際には東北地方の研究参加地域において、直後の危機介入から、その後の復興に際しての地域住民の心の健康の維持のために、大きく役立ちました。



参考図2:自殺既遂および未遂の率比(自殺死亡率が長年にわたって高率な地域)

(Ono et al., 2013 http://dx.plos.org/10.1371/journal.pone.0074902)

参考図3:プログラム実施率(自殺死亡率が長年にわたって高率な地域)

(Ono et al., 2013 http://dx.plos.org/10.1371/journal.pone.0074902)

参考図4:自殺既遂および未遂の率比(人口規模の大きな都市部)

(Ono et al., 2013 http://dx.plos.org/10.1371/journal.pone.0074902)

参考図5:プログラム実施率(人口規模の大きな都市部)

(Ono et al., 2013 http://dx.plos.org/10.1371/journal.pone.0074902)



■論文タイトルとリンク

 本研究の成果は、平成25年10月9日(米国東部標準時間午後5時)発行の国際的オンライン科学誌「PLOS ONE」に、下記のタイトルにて掲載されました。
Effectiveness of a multimodal community intervention program to prevent suicide and suicide attempts: a quasi-experimental study(複合的地域自殺対策プログラムの自殺企図予防効果:準実験デザインによる検討)
http://dx.plos.org/10.1371/journal.pone.0074902



■施策化に向けたこれまでの取り組み

 厚生労働省では、下記の施策を既に実施し、複合的自殺対策プログラムを全国各地の地域自治体において提供するための基盤整備を図っています。
・平成21年度より実施された自殺対策緊急強化基金(内閣府)を背景に地域介入に不可欠な地域連携のための人材が育成されつつあります。
・本研究の成果物である、「地域における自殺対策プログラム」、「視聴覚教材テキスト:地域における自殺対策プログラム」、「先行的取り組み地域の事例」、の3つの資料は、既に厚生労働省:自殺対策WEBにおいて公開しており、既に全国の各自治体により利用可能となっています。
(参照URL)
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/jisatsu/index.html




「地域における自殺対策プログラム」

「視聴覚教材テキスト:地域における自殺対策プログラム」

「先行的取り組み地域の事例」


■今後の展開

 本研究により、複合的自殺対策プログラムに基づく取り組みの展開が、地域の自殺対策として有効であることが強く示唆されたことから、今後の自殺対策の企画、立案、実施におおいに参考になる可能性が高いと考えられます。その一方で、性別や世代によって効果に違いがあり、とくに都市部で効果に限界があることが示唆されたことから、今後は、従来以上に詳細な自殺の現状の調査分析を行い、人的資源や地域特性などの課題について科学的に検討した上で、新たな視点から取り組んでいくことが重要であることを示しています。現時点の自殺対策は、自殺者の背景についての情報が警察庁統計や限られた背景情報にほぼ限られており、活動も啓発が中心になっていますが、今後は、自殺者全員を対象として、警察情報だけでなく、自治体情報など入手可能な背景情報を収集し、高齢、若年、男性、女性などのサブグループごとに介入のポイントを明らかにするなど、客観的な情報に基づくきめの細かい対策の立案が必要だと考えます。
 以上のように、貴重な国費を使って自殺対策の施策を立案していく際には、啓発活動など実施可能性が高い施策や注目度の高い施策だけでなく、質の高い研究の成果に基づいて、施策の利点とリスクを慎重に検討し、丁寧に実施していく必要があることが明らかになりました。このように、本研究は、医薬品や医療機器の開発に加えて、厚生労働省が実施しなければならない重要な健康科学研究の好例であり、政策立案に直結する研究のモデルとなったと考えられ、本研究の成果は、我が国における地域の特性に応じた自殺対策の立案と実践に役立つものと強く期待できます。



【10月9日 記者会見の様子】
 



【お問い合わせ先】

【研究に関すること】

国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター
センター長 大野 裕(オオノ ユタカ)
〒169-0075東京都新宿区高田馬場3-2-5フレンドビル7階
Tel:03-5358-9014 Fax:03-5358-9013
E-mail:

【財団の事業に関すること】

精神・神経科学振興財団
事務局長 山口嘉昭(ヤマグチ ヨシアキ)
〒187-8551東京都小平市小川東町4-1-1
Tel:042-347-5266 Fax:042-349-3078
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【報道に関すること】

国立精神・神経医療研究センター 広報係
Tel:042-341-2711 Fax:042-344-6745

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