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プレスリリース詳細


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2014年2月24日
独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター
(NCNP)
Tel:042-341-2711(総務部 広報係)

医療スーパー特区で多発性硬化症の新薬を創成
3月から医師主導治験を開始

 

独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP、東京都小平市 総長:樋口輝彦)は、神経難病である多発性硬化症(MS)の患者を対象とする新規治療薬(免疫修飾薬OCH:糖脂質アルファ・ガラクトシルセラミド類似体)を開発し、同センター病院(院長:糸山泰人、自ら治験を実施する者:村田美穂)においてMS患者を対象とした医師主導治験を開始いたします。

多発性硬化症(MS)は主に20~30歳代で発病し、視力障害、運動麻痺、感覚障害などの症状が再発と回復を繰り返す慢性疾患です。中枢神経の様々な場所(大脳、脳幹、脊髄、視神経など)に、炎症性の神経組織破壊が繰り返して起こり、徐々に神経変性が進んでいくことが明らかになっています。遺伝子解析の結果などから、MSは関節リウマチや1型糖尿病と同様に、自己に反応するリンパ球(T細胞やB細胞)が関係する自己免疫疾患であると考えられ、異常な免疫反応を制御する薬剤の開発が求められていました。

多発性硬化症治療薬OCHの開発は、NCNPの研究者が発見したシーズ※1をもとに、内閣府の先端医療開発特区(医療スーパー特区)に指定された同センターの大型研究開発プロジェクトとして進められてきました。新薬OCHは免疫調整細胞であるナチュラルキラーT細胞(NKT細胞)による炎症抑制物質の産生を促すことが確認されています。また、動物モデルにおいて、本治療薬の経口投与により脳内炎症が抑制されることも確認されています。

この度、同センター病院において、健常成人を対象とした本治療薬の医師主導治験を終えたため、次のステップとして患者を対象とした医師主導治験を実施することとなりました。

同センター病院では、2014年3月上旬より、本治療薬を約3ヶ月にわたって3つのグループ(1グループ3名のMS患者)に反復投与する治験を開始します。

■MS治療薬OCHの医師主導治験の経緯

NCNP神経研究所(所長:髙坂新一)免疫研究部部長 山村隆らの研究グループは、MS患者の血液中のナチュラルキラーT細胞(NKT細胞)が著明に減少していることを明らかにし※2,3、NKT細胞に作用する薬剤がMSの病態を改善する可能性を検討してきました。現在開発を進めている治療薬OCHはNKT細胞を刺激して、その抗炎症性サイトカイン産生を誘導することによって炎症を抑制します※1。OCHは経口投与が可能な薬剤であり、特定の分子を阻害するのではなく、体内に本来備わった免疫制御機構を促進する作用機序があると推定されます。

NCNPでは平成21年度よりスーパー特区の関連事業として、OCHの医師主導治験の準備を開始し、非臨床試験を終了した後、平成24年11月から平成25年6月までファーストインヒューマン試験(第一相試験に相当)として健常成人にOCHを一回だけ服用していただく試験(経口単回投与試験)を同センター病院において実施しました。この試験では5グループの被験者(1グループ3名)にそれぞれ異なる量のOCHを投与し、安全性、体内動態、免疫系の変化、治療効果を示すバイオマーカーの検討を行いました。その結果、治療が必要になるような重篤な有害事象は認められませんでした。またMSの発症に関係するT細胞や、炎症に関係する遺伝子の発現が低下するなどの所見が認められました。

なお、この一連の医師主導治験は、厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患研究事業) (主任研究者:山村隆)により行われています。

■MS治療薬OCHの開発経緯

MS患者で減少している血液中のナチュラルキラーT細胞(NKT細胞)を刺激して増殖させれば、MSが改善するのではないかというアイデアをもとに、山村らは2000年からMSの動物実験モデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)発症マウスを使って基礎的な研究を開始しました。

最初に、NKT細胞に対する強い刺激活性を持つ合成糖脂質アルファ・ガラクトシルセラミド(α-GalCer)をEAE発症マウスに投与して治療効果を調べましたが、病気の改善はみられませんでした。解析の結果、 α-GalCerで刺激するとNKT細胞は抗炎症性サイトカインであるインターロイキン4(IL-4)を産生しますが、同時に炎症性サイトカインであるインターフェロンガンマ(IFN-γ)を産生し、それがIL-4のEAE抑制効果を打ち消すことがわかりました(図1)。

図1.NKT細胞に対するOCHのIL-4誘導効果

このような背景から、研究グループでは、α-GalCerの構造を一部変えた化合物を複数合成し、治療薬として有望な化合物をスクリーニングしました。その結果、脂肪鎖が短い改変体OCHは、NKT細胞のIL-4産生を誘導する活性を保持しながら、IFN-γ産生をほとんど産生させない作用を持ち、α-GalCerよりも治療薬として優れている可能性が推測されました。治療実験ではOCHを投与されたマウスでEAEの発症が抑制され、その抑制はNKT細胞の糖脂質による活性化を介するものであることが明らかなりました(図2)。

図2.MSの動物モデルEAEに対するOCHの治療効果

 本研究論文※1は2001年にNature誌に掲載され、これまで700回以上引用されています。

■多発性硬化症センターのご紹介

NCNPでは、最先端の治療技術や患者個々の特性を考慮した医療を確立し広く普及させるために、多発性硬化症センター(MSセンター)を開設しております。

MSセンター(MSセンター長 山村隆)では、神経内科、精神科、放射線科、内科、小児科の医師と、免疫学や神経科学の研究者が連携し、最新・最善の医療を提供できるように努めるとともに、画期的な治療法や診断技術を開発するために研究を進めています。

治療としてはインターフェロンβ療法はもとより、患者さんのQOLを高める外来通院ステロイドパルス療法、免疫吸着療法、精神症状や痛み・しびれなどの治療などに実績があります。

また新薬の臨床治験にも積極的に取り組み、MSに関係性の深い視神経脊髄炎(NMO)や慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)の診療にも力を入れています。

【用語の説明】

■NKT細胞

NKT細胞は抗原提示分子であるCD1dに結合した糖脂質を認識するユニークなリンパ球で、抗原受容体から刺激が入ると、即座に大量の生理活性物質(サイトカイン、ケモカインなど)を産生します。NKT細胞の産生するサイトカインには、インターフェロンγやTNFαなどの炎症を促進するサイトカイン(炎症性サイトカイン)と、インターロイキン(IL)-4、IL-5、IL-13などの炎症を抑制するサイトカイン(抗炎症性サイトカイン)があります。状況に応じて、炎症性サイトカインまたは抗炎症性サイトカインを産生することによって、リンパ球相互の平衡状態維持や、過剰な免疫・炎症反応にブレーキをかける役割を担い、自己免疫疾患、アレルギー疾患、臓器移植、感染免疫などの広い分野において鍵になるリンパ球です。NKT細胞を刺激する糖脂質として最初に同定された物質が、α-ガラクトシルセラミド(α-GalCer)ですが、NKT細胞から炎症性サイトカインと抗炎症性サイトカインの両方を産生させます。一方、α-GalCerの構造に修飾を加えたOCHには、NKT細胞に抗炎症性サイトカインの優先的な産生を促す活性があり、また経口吸収が良いことから、炎症性疾患の治療薬の候補として注目されてきました。

■医療スーパー特区

従来の行政区域単位の特区でなく、テーマ重視の特区(複合体拠点の研究者をネットワークで結んだ複合体)で、平成20年度より第一弾として「先端医療開発特区」が創設され、最先端の再生医療、医薬品・医療機器の開発・実用化を促進。現在NCNPを含む国内24施設が指定。

■自己免疫疾患

「免疫」は細菌、ウイルスなどの病原体や、悪性腫瘍などを排除する仕組みですが、免疫が誤って自分の体の成分に反応して組織障害を起こすことがあり、そのような病態を「自己免疫」と言います。「自己免疫」によって起こる病気が自己免疫疾患で、多発性硬化症、関節リウマチ、1型糖尿病、シェーグレン症候群などの疾患が含まれます。自己免疫疾患では、体の蛋白成分に反応するリンパ球(T細胞やB細胞)が組織に入って炎症を誘導します。このような病気を誘導するリンパ球に対して、その活動を押さえつけようとする仕組みが「免疫制御機構」であり、免疫制御機構の一翼を担うリンパ球の一つがNKT細胞です。

参照論文

※1 Miyamoto, K., S. Miyake, and T. Yamamura: A synthetic glycolipid prevents autoimmune encephalomyelitis by inducing TH2 bias of natural killer T cells. Nature 413:531-534, 2001

※2 Illes, Z., T. Kondo, J. Newcombe, N. Oka, T. Tabira, and T. Yamamura: Differential expression of natural killer T cell Vα24JαQ invariant TCR chain in the lesions of multiple sclerosis and chronic inflammatory demyelinating polyneuropathy.
J. Immunol. 164:4375-4381, 2000

※3 Araki, M., T. Kondo, J.E. Gumperz, M.B. Brenner, S. Miyake and T. Yamamura: Th2 bias of CD4+ NKT cells derived form multiple sclerosis in remission.
Int. Immunol. 15: 279-288, 2003


■お問い合わせ先

【研究に関すること】
独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター
神経研究所 免疫研究部 部長
山村 隆

TEL:042-341-2711(代表) FAX: 042-346-1753

【医師主導治験に関すること】
独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター
臨床研究推進部 臨床研究・治験推進室 
臨床研究コーディネーター(担当:鈴木・雨宮)
TEL: 042-341-2712(ダイヤルイン)7289

【その他】
独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター
総務課広報係
TEL:042-341-2711(代表)

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