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プレスリリース詳細


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2014年3月15日
独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター
(NCNP)
Tel:042-341-2711(総務部 広報係)

神経難病「視神経脊髄炎」の症状を改善
~難治患者7名で抗IL-6受容体医薬の有効性を実証~

 

 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター(NCNP、東京都小平市 総長:樋口輝彦)神経研究所 免疫研究部部長兼センター病院 多発性硬化症センター長 山村隆とセンター病院医師 荒木学らの研究グループは、炎症性サイトカインであるインターロイキン6(IL-6)の機能を阻害する薬剤が、神経難病である視神経脊髄炎患者(NMO, neuromyelitis optica)の症状改善に有効であることを臨床研究によって実証しました。

 山村らの研究グループはこれまで、視神経脊髄炎患者で検出される抗アクアポリン4抗体の産生細胞がプラズマブラスト(形質芽細胞)であることを発見し、プラズマブラストの増殖や生存維持にサイトカインIL-6が必要であることを示しました*1。このことから、IL-6の働きを制御することで、視神経脊髄炎を治療できるのではないかと考え、抗IL-6受容体抗体「トシリズマブ」を用いた臨床研究「視神経脊髄炎におけるトシリズマブの適応外使用に関する研究」を立案しました*2。

 視神経脊髄炎は再発のたびに神経組織が破壊される神経難病で、高度の視力障害、下肢の麻痺、脊髄炎による疼痛、異常感覚などを伴い、患者は全国に約4000人いると推定されます。これまで治療法は確立されておらず、対症療法の効果も乏しいことから、患者さんのQOL低下の要因となるこれらの症状改善が課題となっていました。

 同研究グループは、ステロイド、免疫抑制剤、血漿交換療法に対する反応が不良で、再発を繰り返す7名の重症患者に対して、ヒト化抗IL-6受容体抗体「トシリズマブ」を月に1回、一年間にわたって投与しました。治療の開始後、年間再発回数は著しく減少し(図1)、7名中5名が再発しませんでした。また、対症療法の効果が乏しい慢性疼痛や疲労感を軽減し、抗アクアポリン4抗体の血中レベルも低下しました。

 今回の研究結果から、IL-6は視神経脊髄炎の病態で決定的に重要な分子であることが分かりました。また慢性疼痛に対する抗IL-6受容体抗体「トシリズマブ」の効果は予想を大きく上回るものであり、その有用性も明らかとなりました。今後、本研究成果を基に、NMO治療の医薬品開発が活発化されることが期待されます。

 この研究成果は、2014年3月15日(報道解禁日時:米国太平洋標準時3月14日午後4時)、米国神経学会の「Neurology」オンライン版に掲載されます。


図1.治療前後の年間再発率の変化
トシリズマブを開始する前の年間平均再発数と、開始後1年間の再発数を比較したところ、再発(急性増悪)回数の著明な減少が確認できた(mean + SEM)。

 

■研究の内容

 視神経脊髄炎の通常治療(ステロイド、免疫抑制剤、血漿交換療法など)が無効であった難治性視神経脊髄炎患者7名(女性6名、男性1名)に対し、トシリズマブ8mg/kgを毎月点滴静注にて投与しました。その結果、トシリズマブ治療前後の年間再発率は2.9 ± 1.1 回から0.4 ± 0.8回に有意に減少し、7名中5名が再発しませんでした(図2)。また、神経障害を表すEDSS(総合障害度評価尺度)は5.1 ± 1.7 から 4.1 ± 1.6 に有意に改善しました。四肢や体幹部の慢性疼痛や全身の疲労については、Numerical rating scale(症状なしを0、最大の症状を10として点数で評価)で、各々治療前3.0 ± 1.5から治療開始1年後には0.9 ± 1.2、 治療前6.1 ± 2.0 から1年後 3.0 ± 1.4 へと著明に改善しました(図3)。また抗AQP4抗体価は、治療の経過に伴って有意に低下しました(図4)。


図2:7症例の臨床経過
個々の症例で、再発・急性増悪は赤色のカラムで示し、トシリズマブ投与のタイミングは青い矢印で示す。


図3:慢性疼痛と疲労の変化
トシリズマブ投与直前、6ヶ月後、1年後に、慢性疼痛と疲労が有意に軽減していることを示す。


図4:抗アクアポリン4抗体の減少
アクアポリン4発現細胞に対する抗体の反応性をフローサイトメーターで解析した結果を示す。

■研究の意義

 患者検体の詳細な解析から、NMOはアクアポリン4抗体の関与する病気であり、患者検体ではさまざまな炎症関連分子が増加していることがわかっていました。NCNPの研究者は、そのなかからIL-6の重要性を基礎研究で提示し、IL-6阻害薬の有効性を推測してきました(Chihara et al. 2011)。今回の臨床研究は、研究室(ベンチ)で研究者が産み出した新規治療のアイデアを、同じ施設の専門医が臨床(ベッドサイド)で確認したトランスレーション研究の成果であり、内外で高く評価されています。

■今後の展開

 NMOに対するIL-6阻害療法の有効性が示され、NMO治療に大きな転機が訪れたと思われます。NCNPではトシリズマブの長期的有効性や安全性の検討を継続し、再発抑制や疼痛軽減の作用機序の検討を進めて行きます。今後、本研究成果を基に、NMO治療の医薬品開発が活発化されることが期待されます。

 本研究は近畿大学医学部神経内科(楠進教授、宮本勝一講師)との共同研究により実施され、7名中5名はNCNP病院で、2名は近畿大学医学部附属病院で治療を受けました。

 

【用語の説明】

NMO(視神経脊髄炎)

視神経炎と脊髄炎を来す自己免疫性の中枢神経疾患。多くの患者は再発を繰り返し重度の視力障害や歩行障害を呈する。慢性疼痛を伴うことも特徴である。2005年にNMO患者に特異的に検出される抗アクアポリン4抗体が発見され,類似の症状を呈する多発性硬化症(MS, multiple sclerosis)とは別の病態であることが明らかになった。MSに比べて発症年齢が高く、女性比率が高い。再発時の症状が重症化しやすいため、迅速な対応が必要である。

IL-6

Bリンパ球の分化誘導を促すTリンパ球由来のサイトカイン。IL-6の作用は多岐にわたり、肝細胞、骨代謝、免疫細胞に影響を与える。IL-6の作用を抑制する抗IL-6受容体抗体トシリズマブは関節リウマチ、キャッスルマン病などの治療に保険適応となっている。
*1 Chihara N, et al. PNAS 2011;108:3701-3706
*2「視神経脊髄炎におけるトシリズマブの適応外使用に関する研究」(UMIN000005889)、「視神経脊髄炎におけるトシリズマブの安全性と有効性に関する多施設共同研究」(UMIN000007866)

 

【多発性硬化症センターのご紹介】

NCNPでは、最先端の治療技術や患者個々の特性を考慮した医療を確立し広く普及させるために、多発性硬化症センター(MSセンター)を開設しております。MSに関連の深い視神経脊髄炎(NMO)や慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)の診療にも力を入れています。

MSセンター(MSセンター長 山村隆)では、神経内科、精神科、放射線科、内科、小児科の医師と、免疫学や神経科学の研究者が連携し、最新・最善の医療を提供できるように努めるとともに、画期的な治療法や診断技術を開発するために研究を進めています。

治療としてはインターフェロンβ療法、患者さんのQOLを高める外来通院ステロイドパルス療法、免疫吸着療法、精神症状や痛み・しびれなどの治療などに実績があります。また、通常の治療でコントロールできない難治例に対して、倫理委員会の承認と患者の皆さんの同意を得た上で、免疫標的医薬(例えばトシリズマブ)の適応外使用等も行っています。

 

【原論文情報】

論文名: Efficacy of the anti-IL-6 receptor antibody tocilizumab in neuromyelitis optica: A pilot study

著 者: 荒木学,松岡貴子,宮本勝一,楠進,岡本智子,村田美穂,三宅幸子,荒浪利昌,山村隆

掲載誌: Neurology 2014(the medical journal of the American Academy of Neurology)
DOI: 10.1212/WNL.0000000000000317
URL: http://neurology.org/lookup/doi/10.1212/WNL.0000000000000317

■独立行政法人国立精神・神経医療研究センター (NCNP)
〒187-8502 東京都小平市小川東町4-1-1
総長           樋口輝彦
神経研究所所長   髙坂新一
センター病院院長  糸山泰人

本研究は、厚生労働省難治性疾患研究事業(免疫性神経疾患研究班)、創薬基盤事業(主任研究者 山村 隆)によって行われています。


■お問い合わせ先

【研究に関すること】
独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター
神経研究所 免疫研究部 部長
山村 隆

TEL:042-341-2711(代表) FAX: 042-346-1753

【報道に関すること】
独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター
総務課広報係
TEL:042-341-2711(代表)

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