ホーム報道関係者の方プレスリリース > プレスリリース詳細

プレスリリース詳細


印刷用PDF(391KB)
2014年5月21日
独立行政法人国立精神・神経医療研究センター
(NCNP)
名 古 屋 大 学

 

神経科学研究の進歩に貢献する
マーモセットの社会的知性を明らかに

 独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター(東京都小平市 総長:樋口輝彦)神経研究所(所長:髙坂新一)微細構造部部長 一戸紀孝と名古屋大学大学院情報科学研究科准教授川合伸幸らの研究グループは、神経科学研究の進歩に欠かせない新世界ザルの一種である小型の「マーモセット」が、高い他者認知能力を持つことを実験によって明らかにし、英国の科学誌「Biology Letters」に発表しました。
これまで身体の大きなフサオマキザルでは道具を使用したり、優れた記憶能力を持つなど社会的認知能力が高いことが知られていましたが、今回の研究成果により、体重300g前後で道具を使用せず記憶能力も劣るマーモセットにおいてもフサオマキザルと同様の社会認知能力を有することが示されました。マーモセットは小型で扱いやすく、繁殖力が高いという性質から、モデル動物として高い有用性を持っていることが知られています。
この結果は、マーモセットが社会的知性や対人性に問題を持つ自閉症や発達障害の研究推進に道を開くものであり、学術的にも高い意義を持つと考えられます。
この研究結果は、英国科学誌『Biology Letters』に掲載され、2014年5月21日にオンライン版(http://rsbl.royalsocietypublishing.org/)で公開されます。

 

 

■社会性の維持に欠かせない「互恵性」

 人間社会を維持する上で欠かせないのが、「互恵性」という互いに協力し合い、利益を与え合う関係性です。
人間以外の多くの霊長類も、相手から受けた行為にお返しをしたり、自分が相手に与えた行為へのお返しを期待します。これまで、霊長類が自分と他の個体との関係が互恵的かどうかにとても敏感であることは知られていましたが、自分とは関係のない第三者同士が互恵的であるか否かを判断できるかは不明でした。
昨年、身体が比較的大きく、脳も発達しているフサオマキザル(体重5kg程度)が、実験によってヒトの演技者によるやりとりを見て互恵的か非互恵的かを判断できることが示されました。しかし、このような判断ができることは全般的に高い知性を持つことによるのか、あるいは、社会的なやりとりに特化した認識能力(社会的知性)によるものかは不明でした。

 

■不公平に振る舞う相手をさけるマーモセット

 マーモセットは南米にすむ小型のサルで体重はわずか300g程度です。身体に対する脳のサイズも霊長類のなかでは大きくありません。そのため、実験室での記憶課題などでは成績があまり良くないことが知られていました。一方で、マーモセットは一夫一妻性で、父親も子育てに参加したり、食物を分け与えたりと協力的であり、緊密な社会性を有していることが知られています。

今回の研究では、マーモセットの目の前で、二人の人物が食べ物を交換する演技を見せました。一つの実験は、お互いに食べ物をやり取りする互恵的な条件で行い、もう一つは一方が公平な交換を拒否する非互恵的な条件で行いました。(図1)
互恵的条件の実験では、演技者Aは演技者Bから食物をもらい、続いてBがAから別の食物をもらいました。(食物が2人の間で交換された。)非互恵的条件の実験では、演技者Aは演技者Bから食物をもらいましたが、BがAから食物をもらおうとするとAはそれを断りました(食物はAだけが得た)(図2)。
それぞれの実験の後に、二人の演技者が同時にマーモセットに食物を差し出し、マーモセットがどちらから食物を受け取るかを調べました。

その結果、実験に使用した4頭のマーモセットはいずれも、互恵性を示す演技を見た後では、二人の人物から同じ割合で食物を取りましたが、非互恵性を示す演技の後には、非互恵的な演技者(A)から食物を受け取ることを避ける傾向にありました。このことは、マーモセットは2つの条件(互恵条件と非互恵条件)が異なることを認識し、かつ非互恵的である人物からの申し出を避けることを示しています。
非互恵的な個体の申し出を避けるという行動は、マーモセットが将来のパートナーを選ぶ際に日常生活を何気なく見ていて、相手として不適格だという判断をしていると考えられます。
 小さな霊長類であるマーモセットが身体に対して大きな脳をもつヒトやフサオマキザルと同じ能力を持つという結果が得られたことは、互恵性を判断する他者認知能力が、大きな脳や長期的に個体の行動を覚えておくための優れた記憶力を必要としないことを明らかにするものです。また、互恵性に対する能力は霊長類全体が持つものではなく、ヒト同様に他の個体に対して協力的であるという社会環境(協力する性質)で生活するフサオマキザルやマーモセットなどに共通する認知の進化によるものと考えられます。

 

■神経科学研究の進展に期待

本研究の成果は、ヒトの社会的知性の起源を解明する一助となり得るものです。ヒトが示す高度な社会的なやりとりの認識は、全般的な知性ではなく、複雑な社会への適応として進化した可能性が考えられます。 マーモセットは妊娠期間が短く、一度に2頭の仔を産むことから繁殖が比較的容易で、遺伝子操作も霊長類で初めて成功するなど、モデル動物として注目されており、近年、神経科学的な研究でも用いられるようになっています。 今回の研究結果は、ロジカルな能力や記憶能力に優れていても、他者の感情を察するなどの他者認知能力や社会的知性に問題をもつ自閉症や発達障害の脳機能解明に、マーモセットが貢献できる可能性を示しています。

 

【用語の説明】

■互恵性とは

互恵性とは、互いに相手に利益や恩恵を与え合う性質があることをさす。多くの霊長類は集団内で他個体に毛繕いをするが、されたほうは直後でなくても毛繕い仕返すのが一般的である。お返しをしないと、やがて毛繕いされなくなる。毛繕いをすることで、集団内の個体間のつながりを強めていると考えられる。毛繕いにかぎらず、採集やケンカの協力なども含まれる。

 

■社会的知性

「社会的知性」とは、人間関係に代表される集団内での社会関係の知覚・理解・記憶、それらに基づいて適切に社会的行動をおこなえる能力を指します。

本成果は、FIRST岡野栄之プロジェクト、科研費 基盤研究(A)の助成を受けて行われました。

原論文情報

論文名:“Marmoset monkeys evaluate third-party reciprocity.”
(マーモセットは第3者の互恵性を評価する)
著 者: Kawai, N., Yasue, M., Banno, T., & Ichinohe, N.
(2014). Biology Letters,


■お問い合わせ先

【研究に関すること】
国立精神・神経医療研究センター 神経研究所微細構造部 部長
一戸紀孝(いちのへ のりたか)
Tel:042-341-2712(内線 5211 )
e-mail:

名古屋大学大学院情報科学研究科 准教授
川合伸幸(かわい のぶゆき)
Tel:052-789-5179


【報道に関すること】
独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター
総務課・広報係
TEL:042-341-2711(代表)

[ TOPへ戻る ]

当センター敷地内は禁煙です