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プレスリリース詳細


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2014年8月1日
独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター
(NCNP)

 

記憶シナプスの減少が統合失調症の発症に関与
~霊長類特有の脳の発達過程から明らかに~

 独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP、東京都小平市 総長:樋口輝彦)神経研究所(所長:髙坂新一)微細構造研究部部長 一戸紀孝と佐々木哲也研究員らの研究グループは、統合失調症のさまざまな症状が、記憶や感情を担う脳内ネットワークを構成するシナプスの急激な減少によって生じる仕組みを霊長類のコモンマーモセットを用いた研究で明らかにしました。これは霊長類を使って記憶や感情を担う脳神経細胞の発達過程を調べた世界で初めての定量的研究となります。

 

■霊長類特有の脳の発達過程

 ヒトを含む高度な脳を持つ霊長類は、生まれてすぐに脳の神経細胞同士を結合するシナプスを急激に増大させ、少年期になると不要なシナプスの刈込みをおこなって効率化していくことが知られています。これは霊長類特有の脳の発達過程であり、マウスなどのげっ歯類では見られません。

 

■シナプス病と呼ばれる統合失調症

 統合失調症などの精神疾患は「シナプス病」とも呼ばれ、脳の領域同士をつなぐネットワークに異常があることが示唆されますが、実際にシナプスの数が極端に減少して大脳皮質が通常よりも薄くなっていることが、MRI画像からも明らかになっています。特に統合失調症では、海馬との結合が強く、記憶との関係が深い辺縁系皮質(図1)において脳の結合障害が大きいことが分かっています。

 

■統合失調症は思春期以降に記憶シナプスを維持できない

 この度、研究チームは霊長類唯一のモデル動物であるコモンマーモセットを用いて、記憶や感情に関わる領野と俊敏な判断に関わる脳領野を比較し、その発達過程を調べました。その結果、記憶や感情に関わる領野(24野・14r野)と俊敏な判断に関わる領野(8B/9野)は共に乳幼児期にシナプスを増大させた後(図2-①)、少年期に入るとそれを減少させていきました(図2-②)。

 しかし、俊敏な判断に関わる領野では思春期以降もシナプスを減少させていくのに対し、記憶に関わる領野では、思春期に入るとシナプスを一定数に保ち、減少させませんでした(図2-③)。記憶領野特有のこの現象は海馬から常に情報を入手し、記憶情報を維持していくために必要なためと考えられます。
 統合失調症では、この記憶や感情に関わる24野と14r野のシナプスが思春期以降も減少し続けることが分かっています。今回の研究から、通常では一定量に維持されている記憶や感情に関わるシナプス数の減少が統合失調症の発症に関与していることが想定されます。また、統合失調症の好発期が思春期から30歳位までであることは、この脳内メカニズムの障害への関与を裏付けるものと言えます。
 この度の研究により、統合失調症の好発時期に、記憶関連領野で必要とされるシナプス維持のメカニズムに障害がおこることが明らかになりました。今後、このシナプス維持に関わる遺伝子を解明することにより、統合失調症治療への道が開けるものと期待されます。

 

■研究の概要

 研究チームは、統合失調症患者で特にシナプスが減少していることが明らかな大脳深奥部皮質(記憶と感情に関わる領野)に着目し、コモンマーモセットを用いて、ヒトを含む霊長類に特有な大脳皮質の発達過程を調べることとしました。
 脳の中ではいくつもの神経細胞(ニューロン)がシナプスによって互いにコミュニケーションを図っています。神経細胞は脳の発達過程で、外部からの刺激や他の神経細胞からの情報を受け取るために、樹木の枝のように分岐した突起(樹状突起)を成長させます。この樹状突起のひとつ一つの枝に「樹状突起スパイン」という情報を受け取るアンテナが多数生み出されます(図3)。
 今回の研究では、一つのスパインが一つのシナプスと結びつくことを利用し、記憶を司る領野(24野と14r野)と俊敏な判断を司る領野(8B/9野)の神経細胞に色素を注入して細胞毎のスパインの数を調査しました。
 その結果、これまで知られていたように、乳幼児期にスパイン数が増大し、少年期で減少することはいずれの領野でも同じでした。しかし、思春期から成人期に至る間に、俊敏な判断を要求される8B/9野では少年期同様にシナプスが減少しますが、記憶関連領野である24野、14r野のスパイン数は一定量に維持されていることが初めて明らかとなりました(図1、図4)。

 俊敏な判断を要求される領野でシナプスが減少し続けるのは、経験により次第に直観的に判断できるように不要なシナプスが刈込まれるためと考えられます。一方、生涯にわたりシナプスが増え続ける海馬と強いつながりのある記憶関連領野では、経験によって新しいシナプスが生まれ、古いシナプスは排除されるような現象が常に起きているために、シナプスの数が一定数に保たれると考えられます。
 これらのことから、統合失調症で見られる思春期以降の記憶関連領野のシナプスの減少が記憶関連領野へのダメージを大きくしていると考えられます。

※本研究は、精神・神経疾患研究開発費(23-7),岡野栄之最先端研究開発支援プログラム(FIRST)の支援を受けて行われました。

※本研究成果は、2014年7月27日に米国科学誌『Brain Structure and Function』のオンライン版に掲載されました。 URL:http://link.springer.com/article/10.1007/s00429-014-0853-2

 

【用語の説明】

■統合失調症

代表的な精神疾患のひとつで、幻覚や妄想、意欲の低下、感情の平坦化などの症状を特徴とし、患者数は79.5万人(厚生労働省2008年患者調査)と推定される。

■大脳皮質

大脳の外側を包み込むように存在するシート状の構造。神経細胞が層状に並んでいる。

■辺縁系皮質

大脳は大きく、新皮質と辺縁系皮質の二種類に分類され、新皮質は進化系統的に新しい皮質で間隔情報の処理や随意運動などの機能を司る。一方、辺縁系皮質は進化系統的に古い皮質で、情動行動や本能行動といった原始的行動の発現や記憶に関与している。

■24野、14r野、8B/9野

「領野」は、大脳皮質の機能単位を指す。24野と14r野は、海馬との結合が強く、記憶の情報処理に強く関わっている。8B/9野は思考や判断に関わる。

■シナプス

神経細胞と神経細胞との接続部分。シナプスを介して神経細胞は情報を伝える。

■モデル動物コモンマーモセット

新世界ザルに属する小型のサル。妊娠期間が短く、一度に2仔を産むことから繁殖が比較的容易である。霊長類で初めて遺伝子操作に成功するなど、モデル動物として注目されている。

 

発表論文

Postnatal Development of Dendritic Structure of Layer III Pyramidalo Neurons in the medial Prefrontal Cortex of Marmoset
Tetsuya Sasaki, Ph.D (NCNP)
Hirosato Aoi, M.S. (Osaka Univ./ NCNP)
Tomofumi Oga, M.S. (Osaka Univ./NCNP)
Ichiro Fujita, Ph.D. (Osaka Univ.)
Noritaka Ichinohe, M.D., Ph.D. (NCNP)
DOI 10.1007/s00429-014-0853-2 Print ISSN 1863-2653 Online ISSN 1863-2661
URL:http://link.springer.com/article/10.1007/s00429-014-0853-2


■お問い合わせ先

【研究に関すること】
一戸紀孝(いちのへ のりたか)
国立精神・神経医療研究センター
神経研究所微細構造部 部長
Tel:042-341-2712(内線 5211 )
e-mail:

【報道に関すること】
独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター
総務課・広報係
TEL:042-341-2711(代表)

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