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プレスリリース詳細

〈当発表は、2014年9月8日 厚生労働記者会において記者発表致しました〉


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平成26年9月8日
公益財団法人
精神・神経科学振興財団

独立行政法人
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)
Tel:042-341-2711(総務部 広報係)

ACTION-J研究グループ
事務局:横浜市立大学医学部精神医学教室内

自殺企図の再発予防にケース・マネージメントが有効
― 6か月にわたって自殺企図を抑止 ―

■ポイント

  • 自殺未遂者は、再び自殺を企図し、死に至るリスクが高い。
  • 救急医療施設に搬送される自殺未遂者にケース・マネージメントを実施することで、自殺を再び企図することを6か月にわたって抑止できることが明らかとなった。
  • 救急医療施設における本研究の成果の速やかな普及により、自殺未遂者のその後の自殺既遂の防止につながるものと期待される。

国立精神・神経医療研究センター総長 樋口輝彦を班長とする研究班により計画された「自殺対策のための戦略研究」(厚生労働科学研究費補助金)の一環として、「自殺企図の再発防止に対する複合的ケース・マネージメントの効果:多施設共同による無作為化比較研究」(通称 ACTION-J)が実施されました。本研究では、横浜市立大学の平安良雄教授が研究リーダーを務め、自殺未遂者に対する支援プログラム(ケース・マネージメント)が新たに開発されました。そして、救急医療部門と精神科がすでに連携関係にある17施設からなる全国規模の研究班(ACTION-Jグループ)が組織され、その効果が多施設共同無作為化比較試験により検証されました。その結果、ケース・マネージメントは、自殺未遂者の自殺再企図を長期間抑止することはできなかったものの、6か月にわたって強力に抑止することが明らかとなりました。この効果は、特に、女性、40歳未満、過去の自殺企図歴があった自殺未遂者により強く認められました。本研究の成果を日本の救急医療の現場に普及させることにより、自殺未遂者の自殺再企図を、そして自殺既遂を減らすことにつながるものと期待されます。

■研究の背景と経緯

わが国の自殺死亡者数は平成10年に急騰し年間3万人以上という数で推移し、平成24年には 3万人以下に低下したものの、自殺率(人口当たりの自殺者数)は依然として国際的に極めて高い水準を示しています。こうした状況の克服を目指し、当センターの樋口輝彦総長を班長とする研究班により計画された「自殺対策のための戦略研究(以下、戦略研究)」(厚生労働科学研究費補助金)が実施されました。戦略研究においては、当センター精神保健研究所(福田祐典所長)が、精神・神経科学振興財団(髙橋清久理事長)とともに統括推進本部を組織し、科学性の高い適正な臨床研究実施のための研究基盤を確立しました。そして、この研究プラットフォームの中で、「自殺企図の再発防止に対する複合的ケース・マネージメントの効果:多施設共同による無作為化比較研究」(通称 ACTION-J)が実施されました。ACTION-Jでは、研究リーダーを横浜市立大学の平安良雄教授(精神医学)が、研究班事務局長を同大学の河西千秋教授(健康増進科学)が、研究顧問を昭和大学の有賀徹教授(救急医学)が務めました。

ACTION-Jは医薬品や医療機器の開発に加えて厚生労働省が実施するべき重要な健康科学研究の好例であり、当センターは、政策立案に直結する臨床研究実施体制の整備に大きな役割を果たすことができたと考えています。

■研究の内容

自殺の背景には、経済・生活問題、家庭問題、職場問題などの様々な社会的・環境的要因があり、また、健康問題を含む多様なリスク因子が存在し、これらが相互に複雑に作用しますが、この中で、最も明確なものが「自殺未遂の既往」であることが知られています。そのため、自殺未遂者が自殺を再び企図し、自殺に至ることがないようにするために、これまでに多くの介入研究が世界中で試みられてきました。しかし、その有効性が質の高い研究によって科学的に検証された支援法はこれまでに報告されていませんでした。

そこで、本研究では自殺未遂者に対する支援プログラム(ケース・マネージメント)が新たに開発されました(表1)。そして、救急医療部門と精神科がすでに連携関係にある17施設からなる全国規模の研究班(ACTION-Jグループ)が組織され、その効果が多施設共同無作為化比較試験により検証されました。なお、国際的に見ても、本研究のような大規模な多施設共同無作為化比較試験で効果を検討した研究は限られており、本研究は研究開始当初から大きな注目を集めてきました。

表1 ケース・マネジメントの概要
1)定期的な対象者との面接(あるいは通話)
2)対象者の生活背景・受療状況に関する情報収集
3)精神科受療の促進
4)精神科・身体科かかりつけ医に関する受療調整
5)受療中断者への受療促進
6)公的社会資源・民間援助組織の紹介と利用する際の調整
7)心理教育と情報提供
8)専用ウェブサイトを利用した情報提供

図1 研究の流れ

 具体的には、救急医療施設に搬送され救命された自殺未遂者の方々全員に対して、危機介入、精神医学的アセスメント、そして心理教育を実施するなどの高い水準の支援をまず実施し、十分な説明と同意をいただいた後に介入群と対照群とに割付けを行い、ケース・マネージメントの効果を比較検証しました(図1)。
 介入群には、最初の6ヶ月間に、1週後、1ヶ月後、2ヶ月後、3ヶ月後、6ヶ月後、と頻回なケース・マネージメントが実施されました。その後は、6ヶ月おきに支援がなされました。対照群には、通常治療に心理教育や自殺予防の資料配付等を加えた、強化された通常介入が実施されました(図1)。

検証のための主要な評価項目は、自殺企図(自殺既遂及び未遂)の初回再発でした。対象者の登録期間は 2006年7月~2009年12月で、計914名の自殺未遂者(男性400名、女性514名)にご協力いただきました。そして、1.5年間以上(研究参加の時期により最長で5年間)の追跡調査が実施されました。介入群と対照群の属性は同等であり、両群間で比較可能性が保たれていることが確認されております(表2)。

表2 研究に参加された自殺未遂者の方々の背景と主たる精神科診断

Kawanishi et al. The Lancet Psychiatry, Volume 1, Issue 3, Pages 193 - 201, 2014.を改編
  介入群(n=460)  対照群(n=454)
性別(女性) 57% 55%
年齢(65才以上) 9% 10%
自殺未遂歴(無) 50% 52%
主たる精神科診断    
  物質関連障害 4% 6%
  統合失調症関連障害 20% 19%
  気分障害 47% 46%
  適応障害 22% 20%
  その他 7% 9%

■研究の成果

 本研究により、ケース・マネージメントは自殺未遂者の自殺再企図を長期間抑止することはできなかったものの、6か月にわたって強力に抑止することが、高い科学性をもって明らかになりました。具体的には、ケース・マネージメントを実施した場合に、対照群に比べて1ヶ月の時点で約5分の1(リスク比0.19)の大変強力な自殺再企図割合の減少効果が認められ、3ヶ月の時点でもほぼ同様の効果があり(リスク比0.22)、6ヶ月の時点では2分の1(リスク比0.50)の有意な自殺再企図割合の減少効果が認められました(表3)。統計学的な有意差はみとめられませんでしたが、12ヶ月以降の時点でも、減少は継続していました(12か月のリスク比0.72、18か月のリスク比0.79)。そのため、適切な時期に、救急医療機関でのケース・マネージメントから、地域での直接支援へとつないでいく必要があると考えられました。また、この効果は、女性、40歳未満、自殺未遂歴があった者により強く認められました。

表3 自殺再企図割合の減少効果

Kawanishi et al. The Lancet Psychiatry, Volume 1, Issue 3, Pages 193 - 201, 2014.を改編
  1ヶ月後 3ヶ月後 6ヶ月後 12ヶ月後 18ヶ月後
リスク比
(95% 信頼区間)
0.19
(0.06-0.64)
0.22
(0.10-0.50)
0.50
(0.32-0.80)
0.72
(0.50-1.04)
0.79
(0.57-1.08)

 本研究においてケース・マネージメントを実施したケース・マネージャーは、医療資源に加えて地域の様々な社会資源の利用を積極的に勧奨し、そのコーディネートを行いました。本研究では、介入群の70% の方々が当初の計画通りにケース・マネージメントを受けていました。このことは、ケース・マネージメントが、実際の医療の現場において十分に実施可能であることを示しています。ケース・マネージャーは、精神保健福祉士、あるいは臨床心理士等の専門性をもった人材でした。現在、医療現場ではチーム医療が重要視されていますが、本研究は、救急部門と精神科を軸としたチーム医療のモデルを提案するものです。

 本研究は、これまでに数多く行われてきた介入研究の問題点や課題の多くを克服した研究であることから、その成果は、わが国だけでなく、国際的に重要な知見を提供するところとなります。また、わが国においては、本研究の介入法を着実に日本の救急医療の現場に導入、普及させることで、自殺未遂者の自殺再企図を確実に減らすことができるものと期待され、そして自殺既遂を減らすことにつながるものと期待されます。



■今後の展開

 ACTION-Jの成果を具体的な施策として普及するためには、その介入法を現場で着実に実施していくためのケース・マネージャーの育成が不可欠ですが、現在、ACTION-Jの実務に関わった多くの医療従事者の協力を得て、人材育成プログラムの準備が進められています。今後、このプログラムを事業化することで、十分な人数のケース・マネージャーが確保されることが期待されます。また、医療現場においてケース・マネージメントを実施できる環境が整備されていくことで、実効性のある自殺未遂者支援が全国で本格的に始動していくものと期待されます。



■日本自殺予防学会での成果報告

 本研究の内容と成果の詳細は、2014年9月13日午前9時より、第38回日本自殺予防学会総会シンポジウム6(http://jasp38.umin.jp/index.html、会長:中村純、於:北九州国際会議場)にて詳細に報告いたします。

シンポジウム
「自殺対策のための戦略研究ACTION-J:post-ACTION-Jの現状と課題」
 座長:山田光彦(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所)
    河西千秋(横浜市立大学医学群健康増進科学)


■研究成果論文の引用先

 本研究の成果は、国際的精神医学雑誌「The Lancet Psychiatry」に掲載されました。
Kawanishi et al., Assertive case management versus enhanced usual care for people with mental health problems who had attempted suicide and were admitted to hospital emergency departments in Japan (ACTION-J): a multicentre, randomised controlled trial. The Lancet Psychiatry, Volume 1, Issue 3, Pages 193 - 201, 2014. doi:10.1016/S2215-0366(14)70259-7

■研究参加施設

横浜市立大学
日本医科大学
奈良県立医科大学
岩手医科大学
北里大学
近畿大学
国立水戸医療センター
大分大学/厚生連鶴見病院
埼玉医科大学総合医療センター

関西医科大学
国立大阪医療センター
福岡大学
藤田保健衛生大学
筑波メディカルセンター
埼玉医科大学
昭和大学
土浦協同病院

【9月8日 記者会見の様子】



【お問い合わせ先】

【ACTION-Jに関すること】

横浜市立大学大学院医学研究科精神医学部門
教授 平安良雄(ヒラヤス ヨシオ)
〒236-0004 横浜市金沢区福浦3-9
TEL:045-787-2667 FAX:045-783-2540
E-mail:

横浜市立大学医学群健康増進科学
教授 河西千秋(カワニシ チアキ)
〒236-0027 横浜市金沢区瀬戸22-2
TEL & FAX:045-787-2270
E-mail:

【財団に関すること】

精神・神経科学振興財団
事務局長 都所三千雄(トドコロ ミチオ)
〒187-8551東京都小平市小川東町4-1-1
Tel:042-347-5266 Fax:042-349-3078
E-mail:

【報道に関すること】

国立精神・神経医療研究センター
広報係 今井雅樹(イマイ マサキ)
Tel:042-341-2711 Fax:042-344-6745
E-mail:

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