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プレスリリース詳細

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2014年9月9日
独立行政法人
国立精神・神経医療研究センター
(NCNP)

国立精神・神経医療研究センター・三島和夫部長らの研究グループが、
睡眠・覚醒リズム異常に関連する遺伝子の違いを同定


■本成果のポイント

1.アミノ酸置換を伴う時計遺伝子PER3の違いが概日リズム睡眠障害の発症に関連することを見いだしました。

2.この遺伝子の違いは一般人の夜型指向性にも関連していることが明らかになりました。

3.時計遺伝子PER3の機能解析が睡眠習慣の個人差や睡眠障害の発症メカニズムの解明につながる可能性があります。

独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター(東京都小平市 総長:樋口輝彦)精神保健研究所(所長:福田祐典)精神生理研究部の肥田昌子室長、三島和夫部長らの研究グループは、睡眠・覚醒リズムの異常(睡眠時間帯の遅れや不規則化)に関連する遺伝子の違いを同定しました。研究グループは概日リズム睡眠障害患者249名および一般人925 名を対象として、体内時計の調節に関わる主要な7種類の遺伝子(時計遺伝子)のわずかな違い(多型)を網羅的に解析しました。その結果、時計遺伝子PER3の多型rs228697が概日リズム睡眠障害の発症と関連することが明らかになりました。この遺伝子多型は一般人においても夜型指向性と関連していました。これらの知見から、時計遺伝子PER3は私たちの睡眠習慣の個人差やリズム異常の発症メカニズムを解明する際の有力なターゲットになるものと期待されます。本研究成果は文部科学省脳科学研究戦略推進プログラム課題E「心身の健康を維持する脳の分子基盤と環境因子(拠点長:水澤英洋 国立精神・神経医療研究センター病院長)」の一環として行われ、2014年9月9日(日本時間18時)に英国科学誌「Scientific Reports」に発表されました。

■研究の背景

夜型生活や不規則スケジュールのために不眠や眠気などの睡眠問題や心身の不調に悩む方が増加しています。日本人の就床時刻は遅くなる一方で、過去40年間で就床時刻は1時間以上遅くなりました。また日本の就業人口の約3割はシフトワーク(交代勤務、夜勤)に従事していますが、就業中の眠気によるヒューマンエラーや夜勤明けの不眠がしばしば問題となります。海外旅行者も増加し年間延べ2,000万人に達する勢いで、大部分の旅行者は時差ボケに悩まされます。しかし、これらの睡眠に関する問題は生活上のニーズを満たすための自己選択的な行動の結果として生じるもので、生活スケジュールを変更することで改善します。

一方で、規則正しい生活を心がけても望んだ時刻に寝起きできず、日々の睡眠時間帯が大幅にずれたまま改善しない睡眠障害が注目されており、それが本研究のテーマである概日リズム睡眠障害(DSM-Vでは概日リズム睡眠-覚醒障害群、ICD-10では睡眠・覚醒スケジュール障害)です。

概日リズム睡眠障害とは

概日リズム睡眠障害には6種類の亜型がありますが、本研究で対象にしたのは睡眠相後退型とフリーラン型です(図1)。シフトワークや時差ボケも概日リズム睡眠障害の一種ですが、自己選択的に不規則な睡眠スケジュールを送っているため本研究では対象としておりません。

1)睡眠相後退型では明け方にようやく寝ついて昼頃に目を覚まします(極端な夜型、昼夜逆転)。一般人口での有病率は約0.4〜1.7%、慢性不眠のある方の7〜10%が該当すると推定されています。

2)フリーラン型では睡眠時間帯が毎日徐々に遅れてしまいます。一般人口での有病率は不明ですが、全盲者の約20%、弱視者の約10%で認められます。視覚障害のない方では稀ですが、睡眠障害外来では決して珍しくない疾患です。全米では10万人ほどが罹患しているとされ、日本の人口に換算すると4万人強の患者さんがいると推定されます。

睡眠相後退型やフリーラン型は主に思春期に発症します。修学やキャリア形成の大切な時期に登校や出勤ができず、休学や退職を余儀なくされることも少なくなく、大変深刻な転帰を辿ることが多い疾患です。

図1:概日リズム睡眠障害の睡眠パターン

時計遺伝子の関わり

体内時計は睡眠・覚醒に関わる神経核の活動や、睡眠を支える自律神経やホルモン分泌などさまざまな生理機能リズムを調整することで朝型夜型指向性や日々の睡眠時刻を決定しています。体内時計は視床下部の視交叉上核に存在し、細胞内の複数の時計遺伝子・時計蛋白がお互いの転写発現を調節しあって約24時間の概日リズムを形成しています。実際、これまでの研究によりいくつかの時計遺伝子の多型が朝型夜型や睡眠相後退型と関連することが報告されていますが、フリーラン型に関する報告はありません。本研究では従来よりも大きな健常者および患者集団を対象として時計遺伝子群の網羅的な多型タイピングを行いました。

■研究の内容

概日リズム睡眠障害患者249名(睡眠相後退型182名、フリーラン型67名)、健常者925名(朝型245名、標準型594名、夜型86名)を対象に、7種類の時計遺伝子PER1、PER2、PER3、TIM、CLOCK、NPAS2、CRY2における遺伝子多型を決定しました。その結果、PER3遺伝子多型rs228697(C/G)のマイナーアリルGが夜型被験者(オッズ比2.48)およびフリーラン型患者(オッズ比2.02)に有意に多く認められました(表1)。このPER3多型はアミノ酸置換を伴います。アリルCをもつPER3蛋白の864番目のアミノ酸はプロリン(P)ですが、マイナーアリルGをもつPER3蛋白ではアラニン(A)になります。概日リズムの形成には時計遺伝子・時計蛋白の相互調節が重要な役割を担っていることから、この多型にともなうアミノ酸置換がPER3蛋白機能に何らかの変化を生じ、体内時計機能に違いをもたらしている可能性があると考えられます。本研究ではPER3多型rs228697が夜型指向性およびフリーラン型の発症と関連していることが示されました。今回の知見から、時計遺伝子PER3は私たちの睡眠習慣の個人差やフリーラン型の発症メカニズムを解明する際の有力なターゲットになるものと期待されます。

表1 PER3多型rs228697のマイナーリアル頻度

■今後の展望

今後は多型に伴うPER3蛋白の変化が睡眠リズムの異常を惹起するメカニズムの解明が必要です。睡眠リズムの慢性的な異常は、睡眠不足をもたらし、認知機能を低下させ、生活習慣病、循環器疾患、気分障害などの悪化や罹患リスクを高めます。時計遺伝子の機能解析を通じて概日リズム睡眠障害の発症メカニズムが解明されれば、より精確な診断法や効果的な治療法の開発に寄与できます。

■論文名

Screening of Clock Gene Polymorphisms Demonstrates Association of a PER3 Polymorphism with Morningness–Eveningness Preference and Circadian Rhythm Sleep Disorder

時計遺伝子多型の網羅的なスクリーニングによりPER3の一多型が朝型夜型指向性と概日リズム睡眠障害に関連することが示唆された

著者:Akiko Hida, Shingo Kitamura, Yasuko Katayose, Mie Kato, Hiroko Ono, Hiroshi Kadotani, Makoto Uchiyama, Takashi Ebisawa, Yuichi Inoue, Yuichi Kamei, Masako Okawa, Kiyohisa Takahashi and Kazuo Mishima

掲載誌:SCIENTIFIC REPORTS | 4: 6309 | DOI: 10.1038/srep06309

お問い合わせ先
≪研究に関すること≫
三島和夫、肥田昌子
独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所・精神生理研究部
住所 : 〒187-8553 東京都小平市小川東町4-1-1
Tel : 042-346-2071  Fax : 042-346-2072
Email: (三島和夫)
Email: (肥田昌子)

 

≪報道に関すること≫
独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター
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