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プレスリリース詳細

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2014年12月19日
独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)

自閉症、統合失調症、薬物依存など、
様々な精神疾患に関わる遺伝子の働きが初めて明らかに


独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP、東京都小平市 総長:樋口輝彦)神経研究所(所長:髙坂新一)病態生化学研究部の堀啓室長、星野幹雄部長らの研究グループは、自閉症スペクトラム障害や統合失調症など、様々な精神疾患に広く関わるAUTS2 (Autism Susceptibility Candidate 2)遺伝子の働きを、世界で初めて明らかにしました。

AUTS2遺伝子は、自閉症スペクトラム障害、統合失調症、ADHD、薬物依存などの様々な精神疾患に広く関連することがわかっていました。また、てんかんの発症にも関わることが知られています。これまでは、この遺伝子がコードするAUTS2蛋白質が神経細胞の細胞核に存在し、何らかの作用をしているのではないかと考えられていました。しかし、その働きについてはほとんど分かっておらず、この遺伝子の異常がどのように各種の精神疾患を引き起こすのかは明らかにされていませんでした。

この度、星野らの研究グループはAUTS2蛋白質が神経細胞の細胞核だけでなく、細胞質領域、特に神経細胞突起部分にも多く存在することを見いだしました。また、この神経細胞の細胞質において、Rac1やCdc42という分子の活性を調節し、神経細胞内のアクチン構造を変化させていることを明らかにしました。さらに、その働きによって、AUTS2が神経細胞内のアクチン構造を自在に操り、神経細胞の動きや形態変化を制御することによって、脳神経系の発達に関与していることが示されました。

これまで、精神疾患に関連する遺伝子は多数発見されてきましたが、それぞれ個別の疾患に関わるものでした。今回、幅広い精神疾患に関与するAUTS2遺伝子の働きが明らかにされたのは世界でも初めてであり、今後、様々な精神疾患に共通する根本的な病理の解明や新たな治療法の開発につながることが期待できる意義深い研究成果と考えられます。

この研究成果は日本時間2014年12月19日午前2時(報道解禁日時:米国東部時間12月18日正午)に、米国のオンライン生命科学雑誌「Cell Reports」に掲載されます。
http://www.cell.com/cell-reports/abstract/S2211-1247(14)01011-0

■研究の背景

脳神経系は気温・騒音・痛み・疲労などの身体内外からのストレスを受けても正常に機能するようにできています。しかし、この「神経恒常性」に変調をきたすと、様々な精神疾患が引き起こされます。しかし、統合失調症、自閉症スペクトラム障害、知的障害、注意欠陥多動性障害(ADHD)、薬物依存など、精神疾患の症状は様々であり、そこに共通の疾患病理を見いだすことは困難でした。

AUTS2遺伝子(ヒトAutism Susceptibility Candidate 2)は、2002年に自閉症スペクトラム障害と関係のある遺伝子として初めて報告されました。その後、この遺伝子の異常が知的障害、ADHD、統合失調症、薬物依存など様々な精神疾患患者でも見つかり、この遺伝子が精神疾患全般に広く関連していることが示唆されました。ということは、AUTS2遺伝子の機能とその異常について調べることによって、精神疾患に共通する疾患病理を見いだすことができると考えられます。

そこで、マウス遺伝学を用いた実験によって、脳神経系ネットワーク形成におけるAUTS2の働きを明らかにし、この遺伝子の異常によって引き起こされる精神疾患の病理に迫ろうとしました。

■研究の概要

先行研究では、AUTS2が脳内の幅広い領域に分布し、神経細胞の細胞核の中に存在する、と報告されていました。それ故に、世界中の多くの科学者は長い間、この分子が「神経細胞の核内で働くであろう」と考えていました。

今回の研究では、そのような先入観を排除し、厳密な細胞分画実験と免疫染色実験により、AUTS2蛋白質が神経細胞の核だけでなく、細胞質領域、特に神経突起部分にも多く存在することを見いだしました。また、AUTS2蛋白質が神経細胞の細胞質において、いくつかの分子と相互作用することにより、低分子量G蛋白質の一つであるRac1を活性化させ、ラメリポディアという特殊な網目状アクチン構造を誘導することを見いだしました。また反対にAUTS2蛋白質は、別の分子と相互作用することによって低分子量G蛋白質の一つであるCdc42を不活性化し、フィロポディアという特殊な糸状アクチン構造の形成を妨げることがわかりました(図)。一般に、細胞が動いたり、変形したりする際には、網状のラメリポディアや糸状のフィロポディアというアクチン構造がダイナミックに再編成されることが知られています。そのため、AUTS2は神経細胞内のアクチン構造を自在に操り、神経細胞の動きや形態変化を制御することによって、脳神経系の発達に関与しているのではないか、という可能性が考えられました。


図.AUTS2遺伝子の脳神経ネットワークでの働き

神経細胞は生み出された後、所定の位置まで移動します。さらに、胎児期から乳児期において、そこで神経突起を伸ばして枝分かれさせ、様々な神経細胞と神経ネットワークを構築し、正常な脳神経系が作りだされます。この過程がうまくいかないと、様々な精神疾患が惹起されると考えられています。

研究グループは、脳発達におけるAUTS2の機能を調べるために、ノックダウン法やノックアウト法を用いて、マウス個体におけるAUTS2遺伝子の機能を阻害しました。すると神経細胞の移動が障害され、神経突起の伸長と分岐が妨げられることがわかりました。すなわち、AUTS2は、脳発達における神経細胞の移動と神経突起の伸長・分岐を促進することによって、正常な脳神経ネットワークの構築に関わっていることが明らかになりました。また、これらの異常は「細胞質にしか局在できないように改変したAUTS2蛋白質」を導入することによって解消できたことから、これまでの定説とは異なり、「細胞質で働くAUTS2蛋白質」こそが脳神経ネットワークの構築に重要であることが証明されました。

本研究により、脳発達過程における脳神経ネットワーク構築の異常が、『神経恒常性』の破綻を引き起こし、各種精神疾患を惹起する基盤となっているのではないか、ということが示唆されました。

■今後期待できる成果

これまで、自閉症スペクトラム障害や統合失調症などの精神疾患は、その臨床症状があまりにも異なるために、脳神経系の異なる種類の障害によってもたらされると考えられてきていました。しかし、同じAUTS2という遺伝子の変異によって、それらの異なる精神疾患が惹起されるということは、実は様々な精神疾患において広く共通の病理が存在するということを示唆しています。

また、研究グループの作製したAUTS2遺伝子破壊マウス(ノックアウトマウス)と同様な神経ネットワークの障害が、精神疾患患者でも引き起こされていると考えられることから、この動物モデルをさらに解析することによって、AUTS2遺伝子異常による人の精神疾患の病理をより一層明らかにし、有効な治療法の開発につなげることができると期待されます。


■用語の説明

■AUTS2遺伝子

ヒト第7染色体上の120万塩基にもおよぶ広い領域に存在する遺伝子。2002年に自閉症スペクトラム障害との関連が指摘されたが、その後、ADHD、知的障害、統合失調症、薬物依存、などの幅広い精神疾患と関わることがわかってきた。AUTS2遺伝子領域は比較的脆弱で、破壊されやすいとされている。この遺伝子のコードするAUTS2蛋白質には、これといった分子モチーフが無く、その働きは長らく謎のままであった。今回我々は、AUTS2蛋白質の細胞質における働きを明らかにしたが、この蛋白質が細胞核においても何らかの役割を果たしている可能性があると考えている。

■Rac1, Cdc42とアクチン構造

Rac1, Cdc42はどちらも、「低分子量G蛋白質」というカテゴーリーに属する細胞内蛋白質である。これらの蛋白質は、普段は不活性型(GDP結合型)であるが、細胞内で必要に応じて活性型(GTP結合型)に変化する。Rac1やCdc42は特定の活性化因子(グアニンヌクレオチド交換因子)によって活性化される。図.における、P-Rex1, Elmo2/Dock180, ITSN1/2などは、この活性化因子に相当する。

アクチン蛋白質は細胞内に浮かぶ小分子であるが、これが多数重合し特定のアクチン構造を形成すると、細胞を内側から支える細胞骨格として働く。Rac1が活性化されると、細胞内局所においてラメリポディアという網目状アクチン構造が誘導される。Cdc42が活性化されると、細胞内局所でフィロポディアという糸状アクチン構造が構築される。これらのアクチン構造がダイナミックに変化することによって、細胞はその形を変えたり、移動したりすることになる。

発表論文

Hori K, Nagai T, Shan W, Sakamoto A, Taya S, Hashimoto R, Hayashi T, Abe M, Yamazaki M, Nakao K, Nishioka T, Sakimura K, Yamada K, Kaibuchi K, Hoshino M:
Cytoskeletal regulation of AUTS2 in neuronal migration and neuritogenesis.
http://www.cell.com/cell-reports/abstract/S2211-1247(14)01011-0

【研究に関するお問い合わせ】
独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター
神経研究所 病態生化学研究部 部長
星野幹雄
TEL:042-341-2711(代表)

【報道に関するお問い合わせ】
独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター
総務課広報係
TEL:042-341-2711(代表)

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