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プレスリリース詳細

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2015年9月16日
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)
TEL: 042-341-2711(広報係)
国立研究開発法人 理化学研究所(RIKEN)

パーキンソン病の新たな発症メカニズムをモデル動物で初めて解明

―糖脂質がαシヌクレイン蛋白質の異常構造変化を引き起こす―

ポイント

  • GBA遺伝子変異を持つと、パーキンソン病およびレビー小体型認知症が約5~8倍発症しやすい。
  • 糖脂質グルコシルセラミドの蓄積によりαシヌクレイン蛋白質がプリオン様異常構造化して、神経変性を悪化させることが分かった。
  • 糖脂質の蓄積抑制による、パーキンソン病およびレビー小体型認知症の新たな治療・予防法につながることが期待される。

国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP、東京都小平市 理事長:樋口輝彦)神経研究所(所長:武田伸一)疾病研究第四部(部長:和田圭司)の永井義隆室長、鈴木マリ研究員らの研究グループは、パーキンソン病およびレビー小体型認知症の発症に関与するαシヌクレイン蛋白質の異常構造化が糖脂質の蓄積によって引き起こされることを明らかにしました。

パーキンソン病は、主に中脳黒質のドーパミン神経細胞の変性・脱落により、手足の震え、筋肉の強張り、動きづらさなどが現れる、進行性の神経変性疾患です。神経細胞内ではαシヌクレイン蛋白質が異常構造変化を起こして、レビー小体と呼ばれる封入体に蓄積することが知られていますが、その原因は未だ十分に解明されていません。近年の遺伝疫学研究により、糖脂質分解酵素の一つであるグルコセレブロシダーゼ(GBA)遺伝子に変異を持つ場合に、パーキンソン病を約5倍発症しやすくなることが分かっています。一方、レビー小体型認知症と呼ばれる認知症でも、αシヌクレイン蛋白質がレビー小体に蓄積することが知られていますが、この発症にもGBA遺伝子変異が関わることが報告されています。

本研究グループはGBA遺伝子を抑制したパーキンソン病モデルショウジョウバエを作製し、GBAの働きが低下すると運動症状や神経変性が悪化することを見出しました。さらに、GBAの機能低下により糖脂質グルコシルセラミドが蓄積し、グルコシルセラミドが直接作用してαシヌクレイン蛋白質のプリオン様異常構造化を引き起こすことを、生化学的手法により証明しました。本研究成果はパーキンソン病およびレビー小体型認知症の新たな発症メカニズムを明らかにしたものであり、この過程を抑えることによる新たな治療・予防法の開発に貢献することが期待されます。

本研究は、理化学研究所の平林義雄チームリーダーらとの共同研究として、主に精神・神経研究開発費の支援のもとで行われたもので、研究成果は英国科学雑誌「Human Molecular Genetics(ヒューマン モレキュラー ジェネティクス)」に2015年9月11日、オンライン速報版が先行公開されました。

<研究の背景と経緯>

パーキンソン病は主に手足の震え、筋肉の強張り、動きづらさなどを特徴とする、進行性の神経変性疾患です。国内の患者数は約12-15万人、60歳以上の約100人に一人が罹患するとされる非常に患者数の多い疾患です(難病情報センターHP参照)。主に中脳黒質のドーパミン神経細胞が変性・脱落し、異常構造変化したαシヌクレイン蛋白質が蓄積したレビー小体と呼ばれる封入体が神経細胞内に認められます。現在、ドーパミン補充療法により一時的に症状を改善することができますが、病気そのものの進行を抑える治療法はなく、その開発には発症に至るメカニズムの解明が不可欠です。

近年の大規模な遺伝疫学研究により、ゴーシェ病の原因遺伝子であるグルコセレブロシダーゼ(GBA)遺伝子に変異を持つ場合、変異を持たない人に比べてパーキンソン病を約5倍発症しやすく、パーキンソン病患者の約7%がこの遺伝子変異を持つことが分かっています。さらに、アルツハイマー病に次いで多い認知症であるレビー小体型認知症においても、大脳皮質の神経細胞にαシヌクレイン蛋白質がレビー小体として蓄積することが知られていますが、GBA遺伝子変異を持つ場合、その発症率は約8倍にものぼることが報告されています。また、GBAの機能は加齢によっても低下することが分かっており、パーキンソン病やレビー小体型認知病が特に高齢者に多いこととの関連も示唆されています

そこで本研究グループは、パーキンソン病およびレビー小体型認知症の発症に関わるヒトαシヌクレイン蛋白質を発現させたショウジョウバエモデルを用いて、GBAの機能低下がこれらの疾患の発症率を高める分子メカニズムを明らかにしようと試みました。

<研究の内容>

本研究で用いたキイロショウジョウバエは体長2~3ミリの代表的な小型モデル動物で、一世紀にもわたる研究の歴史を有しています。飼育が容易であること、遺伝学的な知見・技術が蓄積されていること、さらにヒトの病気の原因遺伝子の60%がショウジョウバエにも存在することから、これまでにもアルツハイマー病やパーキンソン病など多くの疾患モデルが樹立され研究に用いられています。

研究グループはヒトαシヌクレイン蛋白質を発現するショウジョウバエの病態にGBA遺伝子の抑制がどのように影響するか調べました。その結果、GBA遺伝子を抑制すると疾患モデルショウジョウバエの運動機能やドーパミン神経細胞の変性が悪化することが分かりました(図1)。脳内を詳しく調べると、GBA遺伝子の抑制によりその基質である糖脂質グルコシルセラミドが症状悪化の前から蓄積していること、さらに神経変性の原因であると考えられている異常構造化したαシヌクレイン蛋白質が増加していることが分かりました(図1)。さらに、グルコシルセラミドが直接作用してαシヌクレイン蛋白質のプリオン様異常構造化を引き起こすことを、生化学実験によって明らかにしました(図2)。

ゴーシェ病はライソゾーム病と呼ばれる糖脂質の過剰蓄積による小児の神経難病の一つですが、同じくライソゾーム病であるGM1ガングリオシドーシス患者の脳内においても、αシヌクレイン蛋白質の蓄積が認められるとの報告があります。本研究グループは、GM1ガングリオシドーシスの原因遺伝子βガラクトシダーゼを抑制した際にもGBA遺伝子抑制と同様に、基質である糖脂質GM1ガングリオシドの蓄積によりαシヌクレイン蛋白質のプリオン様異常構造化が起こることを示しました。これらの結果は、“蓄積した糖脂質によるαシヌクレインのプリオン様異常構造化”というメカニズムがGBA遺伝子変異以外によっても引き起こされ、神経変性の原因となる可能性を示唆しています。

<今後の展開>

本研究成果は、糖脂質グルコシルセラミドがαシヌクレイン蛋白質のプリオン様異常構造化を引き起こして神経変性を悪化させるという、パーキンソン病やレビー小体型認知症の新たな発症メカニズムを動物モデルで初めて明らかにしたものです。パーキンソン病およびレビー小体型認知症に対して、GBA酵素活性を高めることやグルコシルセラミドの産生を抑制することによる新たな治療・予防法の開発につながることが期待されます。また、GBA機能が加齢よって低下することから、脳内の脂質代謝を正常に保つ仕組みの解明が、これらの疾患の予防に役立つ可能性が考えられます。

近年、異常構造化したαシヌクレイン蛋白質がプリオン様の性質を獲得し、正常蛋白質の構造を異常構造に変換しながら脳内の神経細胞間を伝わって拡がることによりこれらの病気が進行するという、新たな仮説が提唱されています。本研究は、“元来無毒であるはずのαシヌクレイン蛋白質がどのようにプリオン様異常構造化するのか”という本質的な疾患発症メカニズムの一端を解明したものであり、今後は異常構造化したαシヌクレイン蛋白質がどのように脳内を伝播するかをさらに検証していくことで、パーキンソン病およびレビー小体型認知症の発症・進行メカニズムの全容解明が期待されます(図3)。

<用語の説明>

■ レビー小体型認知症
アルツハイマー病に次いで患者数の多い認知症。日本では高齢者の認知症の20%を占める(レビー小体型認知症研究会HP参照)。認知症状以外にも幻視やパーキンソン病と類似の運動症状が現れやすく、脳内ではαシヌクレイン蛋白質が蓄積したレビー小体と呼ばれる封入体が大脳皮質に認められる。

■ ゴーシェ病
ライソゾーム病と呼ばれる糖脂質の過剰蓄積による小児の神経難病群の中でも最も頻度の高い疾患。二対あるGBA遺伝子の両方に変異を持つことで発症する。肝臓、脾臓、骨髄、神経に糖脂質であるグルコセレブロシドが蓄積して、肝脾腫、骨折、血球減少などの症状を引き起こす。神経症状を伴う場合もある(難病情報センターHP参照)。

 

<原論文情報>

論文名: "Glucocerebrosidase deficiency accelerates the accumulation of proteinase K-resistant alpha-synuclein and aggravates neurodegeneration in a Drosophila model of Parkinson's disease."

著者: 鈴木マリ、藤掛伸宏、武内敏秀、香山(古金谷)綾子*、中嶋和紀*、平林義雄*、和田圭司、永井義隆
*理化学研究所 脳科学総合研究センター 神経膜機能研究チーム

掲載誌: Human Molecular Genetics
doi: 10.1093/hmg/ddv372
URL: http://hmg.oxfordjournals.org/content/early/2015/09/11/hmg.ddv372.full.pdf?keytype=ref&38;ijkey=KRLMVr2cKDDIaEO

 

■お問い合わせ先

[研究に関するお問い合わせ]

永井 義隆(ナガイ ヨシタカ)
国立精神・神経医療研究センター(NCNP) 神経研究所 疾病研究第四部 室長
〒187-8551 東京都小平市小川東町4-1-1
Tel:042-341-2711(代表) Fax:042-346-1745
Email :

[報道に関するお問い合わせ]

国立精神・神経医療研究センター(NCNP) 総務課 広報係
Tel:042-341-2711(代表) Fax:042-344-6745
Email :

理化学研究所 広報室 報道担当

TEL:048-467-9272 FAX:048-462-4715
Email :

 

本リリースは、厚生労働記者会、厚生日比谷クラブ、文部科学記者会、科学記者会に配布しております。

 

<参考図>

 

図1

図1 パーキンソン病モデルショウジョウバエにおけるグルコセレブロシダーゼ(GBA)遺伝子抑制の影響
A) GBA遺伝子抑制による糖脂質グルコシルセラミドの蓄積。ショウジョウバエの脳をグルコシルセラミド抗体で染色し、共焦点レーザー顕微鏡で観察した。GBA遺伝子抑制により緑のシグナルが強くなり、グルコシルセラミド量の増加を示している(赤枠)。

B) 異常構造化αシヌクレイン(αSyn)蛋白質の蓄積。(上)ショウジョウバエの脳蛋白質抽出液を蛋白質分解酵素プロテアーゼK(PK)で処理し、プロテアーゼ耐性・Syn蛋白質(異常構造化αSyn蛋白質)をウェスタンブロット法にて検出した。GBA遺伝子の抑制により、分解抵抗性の(分解されにくい)αSyn蛋白質量が増加した(赤枠)。(下)ショウジョウバエの網膜切片をプロテアーゼK(PK)で処理し、プロテアーゼ耐性・Syn蛋白質を免疫組織化学染色法により検出した。GBA遺伝子の抑制により、プロテアーゼ耐性αSyn蛋白質の蓄積が増加した。

C) ドーパミン神経細胞の変性。脳内のドーパミン神経細胞(矢頭)を免疫組織化学染色法により検出した。GBA遺伝子を抑制したαSyn発現ショウジョウバエの脳では、ドーパミン神経細胞数の減少が認められた(赤枠)。

D) GBA遺伝子抑制による運動機能の悪化。ショウジョウバエの運動機能をクライミングアッセイ法により定量化した。GBA遺伝子を抑制したαSyn発現ショウジョウバエ(赤)では早期から運動障害が起こり、運動機能の悪化はその後も継続した。

図2

図2 グルコシルセラミドの直接相互作用によるαシヌクレイン蛋白質の異常構造化
グルコシルセラミド(GlcCer)を含むリポソーム(脂質で作られた小胞)と精製αシヌクレイン蛋白質(αSyn)を試験管内で混合し、37℃で静置した。静置後1日または14日目の混合物をプロテアーゼK(PK)で処理し、プロテアーゼ耐性αSyn蛋白質(異常構造化αSyn蛋白質)をウェスタンブロット法にて検出した。静置後1日ではGlcCerの影響は認められないが、14日後ではαSyn蛋白質が分解されにくくなり(赤枠)、異常構造化していることが示された。

図3

図3 グルコセレブロシダーゼ(GBA)遺伝子変異によるパーキンソン病およびレビー小体型認知症の発症メカニズム
パーキンソン病やレビー小体型認知症の発症に関わるαシヌクレイン蛋白質は脳内に豊富に存在するが、健常人では正常な状態が保たれている。しかし、何らかの要因によってαシヌクレイン蛋白質の異常構造化が起こると、異常構造化αシヌクレイン蛋白質が正常蛋白質の構造を異常構造に変換しながら脳内の神経細胞間を伝わって拡がり、パーキンソン病およびレビー小体型認知症を進行させると考えられる。本研究では、GBA機能低下により蓄積した糖脂質グルコシルセラミドが、αシヌクレイン蛋白質の異常構造変化を促進して神経変性を引き起こすことを明らかにした(吹き出し枠)。GBAの機能低下は加齢によっても起こることから、本研究成果はGBA遺伝子変異を持つ一部のパーキンソン病・レビー小体型認知症だけではなく、遺伝子変異を持たない多くの場合でも、正常構造のαシヌクレイン蛋白質がプリオン様異常構造化を起こすメカニズムに手がかりを与えると考えられる。

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