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プレスリリース詳細

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2015年12月9日
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター (NCNP)
Tel:042-341-2711(総務部 広報係)

発達障害児の育児適応に重要な三要素が世界で初めて明らかに

~「養育レジリエンス」に着目~

国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP、東京都小平市、理事長:樋口輝彦)精神保健研究所(所長:中込和幸)知的障害研究部の稲垣真澄部長、鈴木浩太研究員らの研究グループは、養育者が発達障害児の育児に適応する三要素を明らかにしました。

今回、研究グループは、発達障害児をもつ養育者のインタビューに基づき、育児に良好適応する要素、すなわち「養育レジリエンス」要素を計測する質問票を作成しました。レジリエンスとは元来、弾力性、跳ね返す力を意味する物理学用語です。精神・心理学用語としては「回復力、復元力」を示す言葉としても使われるようになっています。本研究では「養育困難があるにもかかわらず良好に適応する過程」として養育レジリエンスを定義し、その構成要素に注目しました。発達障害児をもつ養育者424名に調査を行い解析した結果、①子どもに関する知識を豊富に持っていること、②社会的に十分な支援を受けていること、③育児を行うことを肯定的に捉えていること、の三点が育児に適応するために重要な要素であることを明らかにしました。

発達障害児をもつ養育者は育児に関して悩みを抱えることが少なくないため、発達障害児の総合的な支援の中で、医療従事者、教育関係者、心理士、福祉関係者等が多面的に養育者をサポートしていくことが重要です。本研究成果は、今後の養育者支援の施策の拡充や質の向上に貢献するものであると考えられます。

この研究成果は米国科学雑誌「PLoS ONE(プロスワン)」オンライン版で、現地時間2015年12月3日に掲載されました。

<助成金>

本成果は、以下の研究助成を受けて得られました。

厚生労働科学研究費補助金 障害者対策総合研究事業(障害者政策総合研究事業(身体・知的等障害分野))H24-身体・知的-一般-007「発達障害児を持つ家族の支援ニーズに基づいたレジリエンス向上に関する研究」(研究代表者:稲垣真澄)

■研究の背景・経緯

多くの方が子どもを育てる際に色々な難しさを感じています。特に、発達障害児を育てている養育者は精神的な健康度が低下するリスクがある、ということが知られています。また、問題行動の多い子どもに対しては厳しすぎる対応を養育者が取ってしまう傾向があることも報告されてきています。そのため、研究グループは発達障害児への直接的な支援に加えて、養育者の精神的な健康や養育態度について配慮された支援も重要な観点であると、考えました。

一方、発達障害児に対する育児の中で、母親としての役割を果たす事に前向きになるなど肯定的な感情が生まれることがいくつかの研究で報告されています。そして、発達障害児を養育する方の多くは、育児において上手に適応していく様子が観察されています。医療従事者、教育関係者、心理士、福祉関係者等の支援者は、養育者が育児に対して良好に適応するようにサポートしていくべきと考えていますが、「どのような要素が育児への適応に関係しているのか」詳しく分かっていませんでした。そこで、本研究グループはまず発達障害臨床のエキスパートへの面接、養育者への面談を経て「養育レジリエンス」の概念を確定させました。その後、育児への適応要素を理解するための質問紙を作成し、実際に育児中の養育者の協力を得て、本研究を実施しました。

■研究の内容

発達障害児・者をもつ養育者の方々に現在までの子育ての話を、直接聞き取り調査を実施しました。そして、この内容から、発達障害児の養育者が育児に適応するための要素を検討し、質問票を作成しました。次に、この質問票を用いて、発達障害児をもつ養育者424名を対象にして、大規模調査を行いました。探索的因子分析や確証的因子分析などの統計学的解析の結果、大きく分けて、子どもに関する知識を豊富に持っていること、社会的に十分な支援を受けていること、育児を行うことを肯定的に捉えていること、の三点が育児に適応するための要素であることが分かりました(図1:レジリエンスモデル)。

■研究の意義・今後の展望

これまでの研究では、発達障害児をもつ養育者の精神的な健康上のリスクや養育態度が報告されてきましたが、大規模な調査として、養育者が育児に適応する要素を検討したことは国内外で初めてのものとなります。

今後は、医療従事者、教育関係者、心理士、福祉関係者などの支援者が、本研究で明らかとなった要素を考慮して養育者支援の計画を立案、施行していくことで、発達障害の総合的支援の進展や質の向上につながっていくものと考えられます。一方本研究成果は、400名規模の養育者が育児に適応している要素を「平均像」として捉えたものです。発達障害者をもつ養育者に聞き取り調査を行った時には、それぞれの適応の要素が考えられました。本研究成果を意識しながら、それぞれの養育者に合った具体的な育児適応の仕方を支援者が共に考えていくことも今後は必要であると考えられます。

■原論文情報

<発表論文名>

Development and Evaluation of a Parenting Resilience Elements Questionnaire (PREQ) Measuring Resiliency in Rearing Children with Developmental Disorders.

<著者>

Kota Suzuki, Tomoka Kobayashi, Karin Moriyama, Makiko Kaga, Michio Hiratani, Kyota Watanabe, Yushiro Yamashita, Masumi Inagaki

<掲載誌>

PLOS ONE
DOI:10.1371/journal.pone.0143946
URL: http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0143946

 

■お問い合わせ先

【研究に関するお問合せ】

稲垣真澄(いながき ますみ)
国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 知的障害研究部長
〒187-8502 東京都小平市小川東町4-1-1
Tel: 042-341-2711(代表)/Fax:042-346-2158
E-mail:

【報道に関するお問い合わせ】

国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 総務課広報係
TEL: 042-341-2711(代表)

 

本リリースは、厚生労働記者会、厚生日比谷クラブに配布しております。

 

■参考図

図1:レジリエンスモデル

養育者は、子どもを取り巻く問題が生じた場合には【子どもへの知識】、【社会的支援】、【肯定的捉え方】を活用して適切な対処を選択する過程が考えられる。また、このような過程から外れた場合や円滑に進まなかった場合には子どもを取り巻く問題を円滑に対処することができず、抑うつ度やストレスが高まると考えると理解しやすい。

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