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プレスリリース詳細

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2016年10月12日
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター (NCNP)
総務課広報係 TEL:042-341-2711

統合失調症など精神障害者対象の認知機能リハビリテーションと
個別型援助付き雇用プログラムの費用対効果が明らかに


 国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP、東京都小平市 理事長:水澤英洋)、精神保健研究所(所長:中込和幸)社会復帰研究部(部長:藤井千代)援助技術研究室長の山口創生、精神保健相談室長の佐藤さやか、前部長の伊藤順一郎は、重い精神障害を持つ人に対する効果的な就労支援プログラムである認知機能リハビリテーション及び個別型援助付き雇用をセットにしたサービスプログラムの実施が、現在広く実施されている従来型就労支援プログラムと比較して費用対効果の優位性があることを国際的に初めて明らかにしました。認知機能リハビリテーションは精神障害者の認知機能やメタ認知、動機づけに対する働きかけを通して社会的機能の改善を図るプログラムです。個別型援助付き雇用は利用者のニーズや好みを基にした個別サービスやアウトリーチサービスを軸として、早期の就職活動や就労後の継続支援をするサービスプログラムです。これらをセットにしたサービスは重い精神障害を持つ人に対してより良い就労アウトカムをもたらす支援として国際的に研究面で注目されていますが、費用的優位性が明らかになっていませんでした。従来型就労支援プログラムは医療機関からの仲介型ケアマネジメントと就労準備性の向上に重点をおいた長期トレーニング型プログラムですが、それらとの比較検証を行った結果、認知機能リハビリテーションと個別型援助付き雇用プログラムは統合失調症などの重い精神障害の人に対して多くの就労機会と長い就労期間、及び認知機能の改善をもたらし、しかもその費用は安くなることを明らかにしました。
 2006年の障害者雇用促進法の改正にともない、2006年度に7,000人だったハローワークにおける精神障害を持った人の就労者数は、2015年度には4万人に迫ろうとしています。しかし、その就労者の中に重い精神障害を持った人(例:認知機能に障害を抱える統合失調症や双極性障害を持った人)は必ずしも多くなく、重い障害を持つ人においては就労は未だに厳しい道となることが珍しくありません。本研究が示した結果は、重い精神障害を持つ人における就労支援の発展に貢献できると考えています。

 この研究成果は、日本時間2016年9月22日に英国科学誌「Psychological Medicine」オンライン版に掲載されました。
http://dx.doi.org/10.1017/S0033291716002063

本成果は、以下の研究助成金によって得られました。
・H23-H25難病・がん等の疾患分野の医療の実用化研究事業(精神疾患関係研究分野)厚生労働科学研究費補助金「『地域生活中心』を推進する,地域精神科医療モデル作りとその効果検証に関する研究」(研究代表者:伊藤順一郎)  
 

■背景
 就労は多くの人にとって人生における重要なイベントであり、そして仕事は多くの人にとっての自己のアイデンティにもなるものです。重い精神障害を持つ人にとっても就労や仕事が持つ意味や価値は同様です。そしてそのような人々に対する効果的な就労支援の模索は世界中で喫緊の課題となっています。近年、認知機能リハビリテーションと個別型援助付き雇用をセットしたサービスは、重い精神障害を持つ人に対してより良い就労アウトカムをもたらす支援として国際的に注目されています。認知機能リハビリテーションは24回のコンピュータトレーニングと12回のグループワークからなり、精神障害者の認知機能やメタ認知、動機づけに対する働きかけを通して社会的機能の改善を図るプログラムです。個別型援助付き雇用は利用者のニーズや好みを基にした個別サービスやアウトリーチサービスを軸として、早期の就職活動や就労後の継続支援をするサービスプログラムです。しかしながら、これまで認知機能リハビリテーションと個別型援助付き雇用をセットしたサービスの費用対効果はまだ検証されていませんでした。近年の医療施策において、新しいサービスの制度設計や改正の際には、費用対効果の算出が非常に重要な役割を果たします。そこで、本研究は医療機関からの仲介型ケアマネジメントと就労準備性の向上に重点をおいたトレーニング型の従来型就労支援を比較対照として、認知機能リハビリテーションと個別型援助付き雇用をセットにしたサービスの効果と費用対効果を検証するために無作為化臨床試験を実施しました。


■研究の内容
 本研究では、6精神科医療機関(*¹)において外来医療を利用していた人を対象に実施しました。参加した利用者は認知機能リハビリテーションと個別型援助付き雇用をセットしたサービス(45名)あるいは従来型就労支援(47名)のいずれかのサービスを受けました。12ヵ月後に、就労の有無や就労期間、認知機能、利用したサービスの費用などを調査し、その内容を比べました。その結果、従来型就労支援と比較し、認知機能リハビリテーションと個別型援助付き雇用をセットにしたサービスは、より良いアウトカムをもたらしました。例えば、両者の就労率を比較すると、認知機能リハビリテーションと個別型援助付き雇用をセットにしたサービスのほうが43%も高い結果となりました。さらに、支援にかかる一人あたりの平均コストは、認知機能リハビリテーションと個別型援助付き雇用をセットにしたサービスのほうが14万7,533円ほど安い結果となりました。

*1:6医療機関とは、国立精神・神経医療研究センター、国立国際医療センター国府台病院、帝京大学医学付属病院、東北福祉大学せんだんホスピタル、長岡ヘルスケアセンター(長岡病院)、ひだクリニックであった。

 

図1 (参考写真1):

認知機能リハビリテーションを受ける利用者と提供するスタッフ
私たちの提供した認知機能リハビリテーションでは、利用者が専用パソコンソフトを用いて、認知機能の回復を図りながら、自身の行動パターンについて気付けるようにスタッフが支援しました。

 






 



(参考写真2):実際の認知機能リハビリテーショの専用ソフトの一例
この練習では、利用者は画面上に隠れている数字を早く発見し(時間を計測)、正確にその数字を選択することが求められます。この練習は注意力の向上と全体をみる視野を広げることを狙いとしています。図2

 


(参考写真3):援助付雇用における利用者と就労支援員の面接
就労支援員は個々の利用者の希望を聴き、採用面接で話す内容を整理したり、
スケジュールの確認をしたりします。図3

 

 


■今後期待される展開
 重い精神障害を持つ人に対する日本の就労支援では、入院患者さんの場合、1) 入院→ 2) 精神科デイケア → 3) 生活支援事業所(生活訓練事業所や地域活動支援センターなど)→ 4) 作業所(現在の就労継続B型事業所)→ 5)就労支援事業所(就労移行支援事業や障害者就業生活・支援センターなど)でのトレーニング → 6) 実際の就職活動、という一般的なステップで長期に渡るプログラムであり、しかも担当する支援者や支援機関が変更していく流れがしばしば見られます。この長い過程で多くの人がモチベーションを失ったり、調子を崩したりすることがあります。その課題を解決するものとして、認知機能リハビリテーションや個別ニーズに基づいた援助付き雇用をもっと広く展開することで、より多くの重い精神障害を持つ人が認知機能の向上を図り、早期に就労の機会を持つことができるようになる可能性が出てきました。
 今後は、このような効果的な就労支援の普及を重要な研究テーマとして発展させていくべきであると捉えています。例えば、認知機能リハビリテーションについて、本研究では先行研究でも用いられているドイツMaker Software社製の「CogPack」というソフトを利用しましたが、このソフトは発売元から研究活動限定のライセンスしか付与されていないという問題があります。その為、現在は国内の研究グループが広く頒布可能な認知機能リハビリテーションのソフトを独自開発し、普及のための研修体制の整備に着手しています。また、個別型援助付き雇用については、日本の現在の地域精神科医療保健福祉に関連する制度が集団のサービスを前提とすることが多いため、すぐに日本中で普及することは難しいかもしれません。しかし、本研究がサービスに関する費用の優位性を示したことは現在の制度を見直すきっかけとなると考えています。


■用語解説
・アウトリーチサービス
 アウトリーチサービスは、医療機関や事業所外で提供されるサービス全般を指します。サービスの提供先は、自宅に限定されず、就職先の企業、ハローワーク、関連事業所、市町村自治体(市役所・役場)、近所のスーパーなど多岐に渡ります。よって、自宅への訪問を前提とした既存の精神科訪問看護のサービスは、アウトリーチサービスのごく一部を提供しているといえます。
・ケアマネジメント
 利用者のニーズを把握し(アセスメント)、必要なサービスの計画をたて(プランニング)、利用者の支援状況等を観察(モニタリング)する支援技法です。特にアセスメントおよびプランニングする人と実際のサービス(ここでは就労支援)を提供する人が異なるモデルを仲介型ケアマネジメントと呼びます。
・個別型援助付き雇用
 就労支援員が利用者の個別のニーズや好みに合わせて、利用者と二人三脚で就職活動を支援します。サービスは事業所内に留まらず、職場やハローワーク、自宅などの事業所外でも提供されます。
・認知機能リハビリテーション
 「記憶力」や「集中力」「(物事を)段取りをよく進める力」といった認知機能の向上を図るサービスです。認知機能は就労状況との関連が示されています。認知機能リハビリテーションは、パソコンを用いるものだけでなく、紙媒体を使うものもあり、本研究で使用したもの以外にも様々な支援方法があります。
・無作為化臨床試験
 参加者を無作為に2つの異なるサービスをうけるグループに振り分けて、サービスの効果を検証する方法であり、あるサービス評価をするうえで最も科学的な方法とされています。
・メタ認知
 メタ認知とは注意や記憶、思考など要素的な認知機能より高次の認知を指します。一言でいうと、「自己が認識しうるものについての『認知』」とも言えます。例えばうつ病の人が「私は上司の前ではつい『怒られるんじゃないか』と考えてしまいがちだなあ」と自分自身の考え方のくせに気づくような場面は「メタ認知が活性化している場面」と言えます。
 

■原論文情報
論文名:Cost-effectiveness of cognitive remediation and supported employment for people with mental illness: a randomized controlled trial.
著者:Yamaguchi S, Sato S, Horio N, Yoshida K, Shimodaira M, Taneda A, Ikebuchi E, Nishio M, Ito J:
掲載誌:Psychological Medicine:1-13, 2016.
DOI: 10.1017/S0033291716002063
URL: https://www.cambridge.org/core/journals/psychological-medicine/article/cost-effectiveness-of-cognitive-remediation-and-supported-employment-for-people-with-mental-illness-a-randomized-controlled-trial/5F39D9F1E49853A05C7ABEC161879447

本リリースは、厚生労働記者会、厚生日比谷クラブに配布しております。

■お問い合わせ先
【研究に関するお問い合わせ】

国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター
精神保健研究所 社会復帰研究部
援助技術研究室長 山口創生(やまぐち そうせい)
TEL:042-346-2168 FAX: 042-346-2169
E-mail:E-mail

【報道に関するお問い合わせ】
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)
総務課広報係
TEL:042-341-2711(代表)
FAX:042-344-6745

 

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