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プレスリリース詳細

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2016年12月19日
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)

自閉症スペクトラムの子どもの聴覚過敏性は
日常生活上で周囲から気づかれにくいことを明らかにしました

  

■本研究成果のポイント
1. 聴覚性瞬目反射の測定が自閉症スペクトラムの子どもの聴覚過敏性の評価に有用であることを見いだしました。
2. 自閉症スペクトラムの子どもの日常で保護者に気づかれる聴覚の閾値の低さ(過敏)は、75-85 dBの音に対する聴覚性瞬目反射の大きさと関連しましたが、65dBというより弱い音に対する聴覚性瞬目反射の大きさとは関連しませんでした。
3. 一方、自閉症スペクトラムの子どもの日常で気づかれる様々な感覚の閾値の低さ(過敏)だけでなく、高さ(鈍麻)は、65dBの音に対する聴覚性瞬目反射の大きさと関連しました。弱い音に対する過敏性は周囲の人からはわかりにくく気づかれにくいことを示します。
4. 聴覚性瞬目反射を用いて自閉症スペクトラムの子どもの弱い音に対する聴覚過敏性を神経生理学的に評価することで、日常生活だけからは気づかれない聴覚過敏性が理解できました。
5. 自閉症スペクトラムの子どもに、日常生活上非定型的な感覚処理特性がみられる場合、弱い刺激に対する感覚過敏性が背景にある可能性も想定して、支援方法を考えることが望ましいと考えられます。
 

 国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP、東京都小平市 理事長:水澤英洋)精神保健研究所(所長:中込和幸)児童・思春期精神保健研究部(部長:神尾陽子)の高橋秀俊室長らのグループは、自閉症スペクトラム(Autism Spectrum Disorders: ASD)や定型発達の子どもの日常生活で見られる感覚過敏・鈍麻と、神経生理学的に評価された聴覚過敏性との関連を明らかにしました。ASDの感覚過敏・鈍麻といった感覚処理の非定型性についてはしばしば報告されており、最近、アメリカ精神医学会のASDに関する診断基準が改定され、感覚過敏・鈍麻というこれまで診断基準に含められていなかった項目が含められたこともあり、ますます注目が増しています。このASDの非定型的な感覚処理特性は、家庭生活や学業・就労など生活の様々な場面での不適応行動との関連を認め、治療的な介入を要する場合もあることが知られています。
本研究では、弱い音に対する聴覚過敏性は、日常生活では気づかれにくく、一見感覚鈍麻のようにみえる場合でも実際は感覚過敏性が背景にある可能性も考えられることも分かりました。今後、日常生活で子どもに非定型的な感覚処理特性がみられる場合、感覚過敏性が背景にある可能性についても保護者や支援者の方々が考えることで、子どもの感覚処理特性に応じた支援の在り方が行えることが期待されます。
本研究成果は、日本時間2016年12月19日(報道解禁日時:イギリス時間12月19日正午)英国の国際科学雑誌「Autism」のオンライン版に掲載されました。


■研究の背景・経緯
 近年、発達障害は私たちの社会の大きな課題となっており、児童に限らず、成人の発達障害にも就労支援など多方面でのサービスの充実がますます求められています。発達障害のなかでも、自閉症スペクトラム(Autism Spectrum Disorders: ASD)は、生後まもなくから症状が現われる精神神経発達障害で、他の発達障害や精神障害の合併も多く、早期から医療だけでなく教育機関や福祉施設など多領域が連携し、ASDの認知やコミュニケーションの弱さを考慮した周囲の働きかけの内容や家庭・学校・職場など生活環境の見直し・調整を行う必要があります。ASDに対する理解を深め支援を進めることは、医療や教育・福祉にとって最重要課題の一つといえます。非定型的な感覚処理特性は、多くの自閉症スペクトラムの方に見られ、日常生活に多大な支障をもたらす中核特性の一つです。しかし、日常生活で感覚処理特性を評価することは難しく、また、日常生活で見られる感覚処理特性と、特に弱い刺激に対する神経生理学的反応との関連はほとんど研究されていませんでした。
 

■研究の内容
 8-16歳の自閉症スペクトラム15名と定型発達の子ども29名とその保護者が、本研究に参加しました。日常みられる子どもの感覚処理特性(感覚過敏・鈍麻など)について保護者が質問紙で回答し、65~105dBの強さの音に対する聴覚性瞬目反射について眼輪筋筋電図により評価された子どもの神経生理学的な聴覚過敏性との関連を調べました。(図1)これにより、さまざまな強さの音に対する神経生理学的な反応の大きさが、日常で気づかれる感覚過敏・鈍麻とどのように関係するかが分かります。
 

聴覚性瞬目反射の実際
(図1)聴覚性瞬目反射の実際

75・85 dBの音に対する聴覚性瞬目反射の大きさと、子どもにみられる低い閾値の聴覚特性(聴覚過敏)との関連
(図2)75・85 dBの音に対する聴覚性瞬目反射の大きさと、
子どもにみられる低い閾値の聴覚特性(聴覚過敏)との関連


 その結果、全被験者内で、日常で気づかれる聴覚の閾値の低さ(過敏)は、75~85dBの音に対する聴覚性瞬目反射の大きさと関連しましたが(図2)、65dBの音に対する聴覚性瞬目反射の大きさとは関連しませんでした。これは、日常で気づかれる子どもの聴覚過敏特性の程度が、75・85dBの音に対する聴覚性瞬目反射の大きさと関連することを示すものですが、65dBというより弱い音に対する聴覚性瞬目反射の大きさとはこのような関連はみられないことを示すものです。一方、日常で気づかれる様々な感覚の閾値の低さ(過敏)と関連すると考えられていた指標である感覚過敏(rho = 0.430, p = 0.004)や感覚回避(感覚刺激をさける傾向, rho = 0.419, p = 0.005)だけでなく、高さ(鈍麻)と関連すると考えられていた指標である感覚探究(感覚刺激を求める傾向, rho = 0.432, p = 0.004)が65 dBの音に対する聴覚性瞬目反射の大きさに関連することを確認しました。つまり、少し強い音に対する過敏性は周囲の人からみてわかりやすく気づかれても、より弱い音に対する過敏性は周囲の人からはわかりにくく気づかれにくいことが明らかになりました。  


■研究の意義・今後の展望
 本研究成果から、特に弱い音に対する聴覚過敏性を、聴覚性瞬目反射を用いて神経生理学的に評価することで、日常生活では気づかれなかった感覚処理特性を新たに理解することができました。聴覚性瞬目反射は言語や動物種を問わず研究できるので、今後基礎的な知見が蓄積され、聴覚過敏性に関わる生物学的メカニズムが解明できれば、自閉症スペクトラムの新たな支援法の開発につながると考えられます。また、弱い音に対する聴覚過敏性は、日常生活で気づかれにくいこともわかりました。そのため、一見感覚鈍麻にみえる場合でも感覚過敏性が背景にある可能性も考えることで、子どもへの支援の在り方に影響を与えると考えられます。これは、今後保護者や支援者の方々にも広く理解が求められる成果と考えます。また、本研究では、強い刺激に対する神経生理学的反応(感覚鈍麻性)に関して十分に検討できておりませんが、感覚鈍麻性を有する場合、痛みや危険に対する反応が行動に表れにくいことが知られており、今後感覚鈍麻性に関しても研究を進める必要があります。


【用語解説】
自閉症スペクトラム:発達障害の一つで、生後まもない幼少時期より社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応の障害やパターン化した行動および興味などを主な特徴として見られます。自閉症は多くの遺伝的な要因が複雑に関与して起こる生まれつきの脳機能障害で、症状が軽い人たちまで含めると約100人に1~2人いると言われています。自閉症スペクトラムの人々の状態像は非常に多様で、信頼できる専門家のアドバイスをもとに状態を正しく理解し、個々のニーズに合った適切な療育・教育的支援につなげていく必要があります。

自閉症スペクトラムの非定型的な感覚処理特性について:非定型的な感覚処理特性が自閉症スペクトラムをもつ方にみられることは、古くから知られていました。非定型的な感覚処理特性は社会生活を営む上でも大きな影響を与えることが知られるようになり、最近米国精神医学会の自閉スペクトラムの診断基準にも含められ、その重要性が認識されております。非定型的な感覚処理特性は、聴覚、視覚、味覚、嗅覚、触覚など様々な感覚でみられますが、聴覚過敏・鈍麻は最も多くみられる非定型的な感覚処理特性の一つです。聴覚過敏があると、掃除機の音・犬の鳴き声・ドライヤーの音などの強い音に泣いたり隠れたりと拒否反応を示したり、周りが騒々しいと気が散ったりうまく活動できなかったりします。聴覚鈍麻の場合、話しかけても聞いていないようだったりします。

聴覚性瞬目反射:強い音を聞いたときにみられる反射の一つ。生体の防御反応の一つで、基礎・臨床の両方の研究で用いられます。 


【原著論文情報】
論文名:Relationship between physiological and parent-observed auditory over-responsiveness in children with typical development and those with autism spectrum disorders
(和訳:自閉スペクトラム症および定型発達の児童における生理学的評価および保護者評価の聴覚過敏性の関連)
Hidetoshi Takahashi*, Takayuki Nakahachi, Andrew Stickley, Makoto Ishitobi, Yoko Kamio (*: 責任著者)
掲載誌:Autism オンライン版
DOI: 10.1177/1362361316680497
URL: http://aut.sagepub.com/


【助成金】
本研究は、厚生労働科学研究費補助金 障害者対策総合研究事業、国立精神・ 神経医療研究センター精神・神経研究開発費事業、文部科学省科学研究費および科学技術振興機構COIプログラム(大阪大学拠点)の一環として行われました。
 

お問い合わせ先
【研究に関するお問い合わせ先】

氏名:高橋 秀俊 (たかはし ひでとし)
機関・所属名:国立精神・神経医療研究センター
         精神保健研究所 児童・思春期精神保健研究部
住所:〒187-8553 東京都小平市小川東町 4-1-1
Tel & Fax: 042-341-2711(代表)& 042-346-1979
Email:

【報道に関するお問い合わせ先】
機関名:国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター
担当:総務課広報係
住所:〒187-8551 東京都小平市小川東町 4-1-1
Tel & Fax:042-341-2711(代表)& 042-344-6745

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