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プレスリリース詳細

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2017年3月1日
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)
Tel:042-341-2711(広報係)

C9ORF72関連の筋萎縮側索硬化症と
認知症の新規核酸治療法開発につながる成果
-神経学分野で権威を有するBRAIN誌の2017年4月号注目論文に選出-

  

国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP、東京都小平市、理事長:水澤英洋理事長)、神経研究所(所長:武田伸一)遺伝子疾患治療研究部の青木吉嗣室長らの研究グループは、C9ORF72の非翻訳領域リピート異常伸長が原因の、筋萎縮側索硬化症(ALS)および前頭側頭型認知症の病態に、C9ORF72と小胞輸送を担うRAB7L1 GTPアーゼとの相互作用の破綻が関与することを明らかにしました。さらに、この破綻はエクソソーム(細胞外小胞)とトランス・ゴルジ網(細胞内小胞)の輸送異常につながることを見出しました。特記すべきは、疾患の病態に関与するエクソソームとトランス・ゴルジ網の輸送異常は、変異型C9ORF72トランスクリプトを、ギャップマー型アンチセンス核酸でノックアウト治療することにより正常化した点です。
 ALSは、主に中年以降に発症し、上位運動ニューロンと二次運動ニューロンが進行性に変性・消失することにより、次第に筋肉がやせて力が弱くなる難治性の運動ニューロン疾患です。一方、前頭側頭型認知症は物忘れ,性格の変化,言語や行動の障害などをひき起こす認知症です。2011年、C9ORF72遺伝子の非翻訳領域のGGGGCCリピート配列の異常伸長は,孤発性および家族性ALSおよび前頭側頭型認知症の原因として最も多いことが報告されました(Neuron.2011;72:257-68.)。C9ORF72の非翻訳領域リピート伸長が原因のALSおよび前頭側頭型認知症の病態については、6塩基配列の異常伸長が原因のRNA毒性(RNA凝集体や非ATG翻訳による異常ポリペプチド産生)や、ハプロ不全等が病因の仮説として提示されていましたが、C9ORF72タンパク質の機能と、非翻訳領域(イントロン1)の6塩基配列の異常伸長が神経変性をひきおこす分子機序は不明でした。
 今回我々は、C9ORF72はRAB7L1 GTPアーゼのエフェクター・タンパク質として働き、細胞外小胞(エクソソーム)分泌を制御する分子機構を発見しました。本研究は、治療法の無かったC9ORF72関連のALSおよび前頭側頭型認知症を対象に、新規核酸医薬の創生につながり得る点で、大きな臨床的意義があります。本成果は、東北大学の福田光則教授、オックスフォード大学のMatthew Wood教授およびKevin Talbot教授らとの共同研究として、上原記念生命科学財団、英国医学研究会議(MRC)、日本学術振興会(研究活動スタート支援)等の研究資金によって行なわれたもので、本論文は2月23日(英国時間)に『BRAIN』オンライン版に発表され、BRAIN誌2017年4月号の注目論文(Editor's Choice Article)に選出されました。   


■研究の背景
遺伝子疾患治療研究部では、難治性のデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)のモデル動物を対象に、エクソン・スキップの基盤的研究を実施し、モルフォリノ核酸の用量依存的な効果と高い安全性を実証してきました (Annals of Neurology 2009, Molecular Therapy 2010, PNAS 2012, Human Molecular Genetics 2013,Mol Ther Nucleic Acids. 2015, Nano Letters 2015)。さらに、2015年までに完了したエクソン53スキップ薬の医師主導治験の有望な成果を受けて、DMD治療剤NS-065/NCNP-01(エクソン53スキップ薬)は、厚生労働省の先駆け審査指定制度の対象に初指定され、現在、国内第I/II相試験および米国第II相試験が同時進行中です。一方、現在の核酸医薬品開発の課題の1つは、DMDを対象に確立された核酸医薬品開発のプラットフォームを、筋萎縮性側索硬化症(ALS)等の難治性・遺伝性神経変性疾患へ応用することでした。新規治療法を開発するには、疾患の分子病態の解明が大きな鍵となります。

最近、C9ORF72 遺伝子の非翻訳領域に存在する6塩基(GGGGCC)配列の異常伸長は,家族性および孤発性のALSおよび前頭側頭型認知症(FTD)の主な原因であると報告されました(Neuron.2011;72:257-68.)。このC9ORF72関連ALS/FTDの病態については、6塩基配列の異常伸長が原因のRNA毒性(RNA凝集体や非ATG翻訳による異常ポリペプチド産生)や、ハプロ不全等が病因の仮説として提示されていましたが、C9ORF72タンパク質の機能と、非翻訳領域(イントロン1)の6塩基配列の異常伸長が神経変性をひきおこす分子機序は不明でした。
  

■研究の内容
・C9ORF72のハプロ不全により、細胞内・外小胞輸送は破綻する

研究グループは、C9ORF72関連ALS/FTD患者由来の線維芽細胞(図1A)とiPS運動ニューロン(図1B)では、エクソソーム等の細胞外小胞分泌数の減少と、マンノース6-リン酸受容体局在で評価したトランス・ゴルジ網の異常を認めることを見出しました。前述の患者由来iPS運動ニューロンを用いたウエスタンブロット解析では、C9ORF72タンパク質の有意な減少が認められました。以上から、6塩基配列の異常伸長は、C9ORF72のハプロ不全を引き起こし、C9ORF72関連ALS/FTDに特徴的な細胞内のトランス・ゴルジ網異常、およびエクソソーム(細胞外小胞)分泌異常が生じるとの仮説を立てました。

・C9ORF72-RAB7L1 GTPアーゼ経路は細胞内・外小胞輸送を制御する
本仮説を証明するためには、C9ORF72タンパク質の機能を明らかにする必要があります。タンパク質の2次構造予測からは、C9ORF72タンパク質は、細胞内小胞輸送の重要な制御系であるDENNドメインを有し、分子スイッチであるRAB-GTPアーゼ(RAB)のオンとオフの制御に働く、GDP/GTP交換因子として働く可能性が報告されていました(Bioinformatics. 2013;29:499-503)。そこで、GSTタグ付きの42種類のRAB1-43を用いた共免疫沈降法により、C9ORF72とRABタンパク質との分子間相互作用を網羅的に解析したところ、C9ORF72はRAB7L1 (RAB29) GTPアーゼと強い分子間相互作用を示すことを見出しました(図2)。次に、RAB7L1 GTPアーゼの活性化型固定化変異体(constitutive active: CA)、あるいは不活性化型固定化変異体(constitutive negative: CN)を用いた共免疫沈降法により、C9ORF72はRAB7L1 GTPアーゼのCA変異体と強い分子間相互作用を示すことが判明しました(図3)。
次に、ヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞株を対象に、RAB7L1 GTPアーゼあるいはC9ORF72をsiRNAでノックダウンすると、C9ORF72関連ALS/FTDで認められる細胞内・外小胞輸送機構の異常が再現され、同症状はC9ORF72の過剰発現により正常化することを実証しました。以上から、C9ORF72-RAB7L1 GTPアーゼ経路は細胞内・外小胞輸送を制御すること、さらにC9ORF72はRAB7L1 GTPアーゼのエフェクター・タンパク質として働くことが示されました。

・C9ORF72-RAB7L1 GTPアーゼ経路の異常は、ギャップマー型アンチセンス核酸治療により正常化する
最後に、架橋構造を有するLNAを用いたギャップマー型アンチセンス核酸(ASO2-1)を用いて(図4A, B)、6塩基配列の異常伸長を有する変異C9ORF72トランスクリプトをノックアウトすると、正常C9ORF72トランスクリプトの発現レベルが増加し(図5A)、細胞内(図5B)・細胞外小胞輸送異常は正常化しました。この結果は,C9ORF72関連ALS/FTDで認められる細胞内・外小胞輸送異常は、C9ORF72遺伝子の6塩基配列の異常伸長が原因のC9ORF72タンパク質ハプロ不全により生じることを強く示唆しています。一方、本疾患病態をC9ORF72ハプロ不全だけで説明することは困難であり、RNA凝集体や異常ポリペプチド産生による毒性等の要因が重なり合ってC9ORF72遺伝子変異による病態が生じる可能性があると考えられます(Neuron.2011;72:257-68., Science. 2013;339:1335-8.)。  


■本研究の意義と今後の展開
本研究は、難治性のC9ORF72関連ALS/FTDに対して、新規病態解明に基づいた治療法開発の道を拓くものであり、今後、DMD以外の難治性神経・筋疾患を対象にした核酸医薬品の開発が加速することが期待されます。
本研究は、上原記念生命科学財団、英国医学研究会議(MRC)、日本学術振興会研究活動スタート支援等による研究資金により行われました。


■原著論文情報
AOKI Yoshitsugu, et al. C9ORF72 and RAB7L1 regulate vesicle trafficking in Amyotrophic Lateral Sclerosis and Frontotemporal Dementia. BRAIN. 23 February 2017 [Epub ahead of print]
掲載誌:BRAIN (A Journal of Neurology)
URL:https://academic.oup.com/brain/search-results?page=1&q=yoshitsugu%20aoki&SearchSourceType=1
 

■お問い合わせ先
【研究に関するお問い合わせ】

青木吉嗣(あおき よしつぐ)
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 神経研究所
遺伝子疾患治療研究部 室長
Tel:042-346-1720
Fax:042-346-1750
Email:

【報道に関するお問い合わせ】
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター
総務課 広報係
〒187-8551 東京都小平市小川東町4-1-1
TEL:042-341-2711(代表) Fax: 042-344-6745


■参考図と解説
 

A                                                        B
図1-a        図1-b

図1. C9ALS/FTD由来初代線維芽細胞(A:左) およびiPS運動ニューロン(B:右)では、細胞外小胞(エクソソーム)の分泌数は減少する。細胞をOpti-MEM®培養液中で16時間培養後、培養液からエクソソームを回収・精製し、ナノ粒子解析装置で分泌数を評価した。
 

図2

図2. GSTタグ付きの42種類のRAB1-43を用いた共免疫沈降法。C9ORF72とRABタンパク質との分子間相互作用を網羅的に解析した。横軸は、RABアイソフォームを示す。データはone-way ANOVA検定を用いて解析した (n=3, each, mean ± SEM). * P < 0.05; ** P < 0.01 ; *** P < 0.001 and ; **** P < 0.0001。


図3

図3. RAB7L1 GTPアーゼの活性化型固定化変異体(constitutive active: CA)、あるいは不活性化型固定化変異体(constitutive negative: CN)を用いた共免疫沈降法。C9ORF72はRAB7L1 GTPアーゼのCA変異体と強い分子間相互作用を示すことが判明した。


        A

図4-a

               B

図4-b

図4. C9ORF72のmRNAトランスクリプトを標的に、LNAを用いたギャップマー型アンチセンス核酸を新たに設計した(A)。ASO1-1はエクソン3を、ASO2-1は変異トランスクリプトの6塩基配列の異常伸長(6塩基リピート)付近のイントロン1aを標的とした(B)。


A                                        B
図5-a   図5-b

図5. A. ナノ粒子解析装置を用いた細胞外小胞分泌数の評価。変異C9ORF72トランスクリプトを、LNAを用いたギャップマー型アンチセンス核酸(ASO2-1)でノックアウトすると、細胞外小胞分泌数は増加する。細胞をOpti-MEM®培養液中で16時間培養後、培養液からエクソソームを回収・精製し、ナノ粒子解析装置で分泌数を評価した。B. マンノース6-リン酸受容体(M6PR) の細胞免疫染色。M6PRで評価したトランス・ゴルジネットワーク異常は、変異C9ORF72トランスクリプトのノックアウトにより、正常化した。実験にはC9ALS/FTD由来初代線維芽細胞(C9-3)を用いた。


■用語の説明

筋萎縮性側索硬化症(ALS)と前頭側頭型認知症(FTD)
ALSは、主に中年以降に発症し、上位運動ニューロンと二次運動ニューロンが進行性に変性・消失することにより、次第に筋肉がやせて力が弱くなる運動ニューロン疾患です。一方、前頭側頭型認知症は物忘れ,性格の変化,言語や行動の障害などをひき起こす認知症です。どちらも原因不明の神経変性疾患です。2011年、C9ORF72の変異(非翻訳領域のGGGGCCリピート配列の異常伸長)は,白人の孤発性および家族性筋萎縮性側索硬化症および前頭側頭型認知症の原因として最も多いことが報告されました(Neuron.2011;72:257-68.)。この事から、ALSとFTDは共通の分子病態をもち,連続したスペクトラム上にある事が示唆されました。さらに、C9ORF72変異は,フィンランドを中心とするヨーロッパ・米国を中心に分布しており、創始者効果とともに広がって存在すると考えられます。

核酸医薬品
核酸医薬品は、遺伝子の構成成分である核酸の構造を持ち、疾患の原因になる遺伝子を標的とする薬剤です。その遺伝子から作られるタンパク質の産生を止める、又は調節することで効果を発揮します。従来の低分子医薬品では難しかった疾患の治療が可能になると期待されており、特異性が高く安全性の面にも優れることから、次世代の医薬品と言われています。

LNAギャップマー型アンチセンス核酸
核酸配列にLocked Nucleic Acid (LNA) 架橋構造型人工核酸を含ませることにより、ヌクレアーゼ耐性能、二本鎖の安定性とRNAやDNAとの結合力が上昇します。これにより特異性を高めつつ、核酸の鎖長を短くすることが可能となります。DNA鎖の両端にLNAを配したLNAギャップマー型アンチセンス核酸は、2本鎖の中央部がDNA/RNAヘテロ核酸となり、RNase H RNA分解酵素によって切断されます。

エクソソーム
細胞外小胞の一種であり、多胞性エンドソームの膜が内腔に出芽して生じる、直径40-100 nm程度の小胞はエクソソームと呼ばれます。これまでは、RAB27A GTPアーゼとSLP4-A (エフェクター・タンパク質), RAB27B GTPアーゼとSLAC2-B (エフェクター・タンパク質)がエクソソームを分泌制御することが報告されていました(Nature Cell Biology 2010)が、今回我々が発見したC9ORF72-RAB7L1 GTPアーゼ経路を介したエクソソーム分泌制御の報告は初めてです。

RABタンパク質
低分子量Gタンパク質の1種であるRABは、ヒトでは60種類以上のアイソフォームが存在し(RAB1-43に分類)、細胞内の膜(小胞)輸送を制御する分子スイッチとして働きます。RABには、GTP(グアニンヌクレオチド三リン酸)を結合した活性化型とGDP(グアニンヌクレオチド二リン酸)を結合した不活性化型があります。RABによる小胞輸送制御は特異的かつ多様であり、様々な生命現象において重要な役割を果たしています。

ヒトiPS細胞由来運動ニューロン
オックスフォード大Kevin Talbot教授らの協力により、C9ORF72関連ALS/FTD患者由来の線維芽細胞からヒトiPS細胞由来運動ニューロンを樹立しました。このヒトiPS細胞由来運動ニューロンでは、C9ORF72関連ALS/FTDに特異的な表現型が良く再現されることが報告されています(Stem Cells. 2016 ;34:2063-78.)。
 

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