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プレスリリース詳細

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2017年5月2日
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター (NCNP)

皮膚細胞を用いて『概日リズム睡眠-覚醒障害患者』の
体内時計周期の異常を同定


■本成果のポイント

  • 1. 皮膚細胞内の時計遺伝子の転写サイクル周期(末梢時計周期)を測定することで概日リズム睡眠-覚醒障害患者の末梢時計周期が有意に延長していることを同定することに成功しました。
  • 2. 末梢時計周期が短いグループでは時間療法(睡眠リズムを正常化する治療)の成績が良好であり、末梢時計周期が治療反応性を予測するバイオマーカーとして有用であることを明らかにしました。
  • 3. 本研究で用いた末梢時計周期の測定システムは、概日リズム睡眠-覚醒障害をはじめとする様々な生体リズム障害の診断や治療薬を創薬する際のスクリーニングなど臨床応用が期待されます。

 国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP、東京都小平市 理事長:水澤英洋)精神保健研究所(所長:中込和幸)精神生理研究部の肥田昌子室長、三島和夫部長らのグループは、これまでに皮膚の線維芽細胞内における時計遺伝子の転写サイクル(末梢時計周期)を測定することで個人の体内時計の周期(一日の長さ)を簡便に推定する手法を開発しました。
 今回の研究では、その医療への応用研究(トランスレーショナル研究)の一環として、概日リズム睡眠-覚醒障害(後述)に罹患した患者の末梢時計周期を測定し、診断的意義を検証しました。その結果、概日リズム睡眠-覚醒障害の一型である非24時間睡眠-覚醒リズム障害(睡眠時間帯が24時間周期の昼夜サイクルに同調できず日々後ろにずれていくタイプ)の患者では健常者より末梢時計周期が長いことを明らかにしました。また、非24時間睡眠-覚醒リズム障害患者の中でも、周期が短い患者では時間療法(睡眠・覚醒リズムを正常化する治療)の成績が良好であることを見いだしました。
 これらの知見から、皮膚細胞を用いて測定した末梢時計周期は概日リズム睡眠-覚醒障害の診断や治療反応性を予測する有用なバイオマーカーとなることが期待されます。
 本研究は、文部科学省科学研究費、国立精神・ 神経医療研究センター精神・神経疾患研究開発費および文部科学省脳科学研究戦略推進プログラムの一環として行われ、2017年4月25日(日本時間4月26日)に米国オンライン科学雑誌「Translational Psychiatry」に掲載されました。

  


研究対象になった概日リズム睡眠-覚醒障害とは
 概日リズム睡眠-覚醒障害とは、睡眠時間帯が夜間から著しくずれてしまうために社会生活が困難になる睡眠障害です。概日リズム睡眠-覚醒障害には6種類の亜型がありますが、本研究で対象にしたのは睡眠-覚醒相後退障害と非24時間睡眠-覚醒リズム障害です(図1)。
 1)睡眠-覚醒相後退障害では明け方にようやく寝ついて昼頃に目を覚まし、重症型では昼夜逆転に陥ります。一般人口での有病率は約0.4〜1.7%、慢性不眠のある方の7〜10%が該当すると推定されています。
 2)非24時間睡眠-覚醒リズム障害では睡眠時間帯が毎日徐々に遅れます。一般人口での有病率は不明ですが、全盲者の約20%、弱視者の約10%で認められます。視覚障害のない方では稀ですが、睡眠障害外来では決して珍しくない疾患です。全米では10万人ほどが罹患しているとされ、日本の人口に換算すると4万人強の患者さんがいると推定されます。

図1:概日リズム睡眠-覚醒障害患者の睡眠パターン
  

■研究の背景
 睡眠覚醒リズムの異常は、本研究で対象となった概日リズム睡眠-覚醒障害のみならず、気分障害や認知症などさまざまな精神・神経疾患において高い頻度でみとめられます。昼夜逆転など生活リズムの乱れは患者の生活の質(QOL)を低下させるのみならず、精神疾患の再発のリスクを高め、社会復帰をさまたげる主要な原因の一つとなっています。
 睡眠や体温、ホルモン分泌など多くの生体機能は体内時計(生物時計)システムによって約24時間周期のリズム(概日リズム、サーカディアンリズム)を刻んでいます。ただし体内時計周期の長さには大きな個人差があるため、周期の長さが極端に短縮したり延長している人では24時間の昼夜サイクルに時刻合わせができなくなり、概日リズム睡眠-覚醒障害を発症すると考えられています。実際、私たちは以前、隔離実験室内を用いて非24時間睡眠-覚醒リズム障害患者の体内時計周期が延長していることを見いだし、診断的価値が高いバイオマーカーであることを明らかにしました。
  2012年8月14日プレスリリース「睡眠リズム異常の原因を解明」
 http://www.ncnp.go.jp/press/press_release120814.html

 
 しかし、体内時計周期を正確に測定するには特殊な施設、数週間におよぶ検査期間、負担の大きい連続採血などが必要であり、臨床での実用化には至りませんでした。そこで、ヒトから採取した少量の皮膚細胞を用いて体内時計周期を測定する手法の開発に取り組みました。

末梢時計リズムの測定法
 体内時計の中枢(親時計)は脳内視床下部の視交叉上核に存在し、視交叉上核内ではいくつもの時計遺伝子(時計蛋白)が相互に発現と分解を促すことで24時間周期を作り出しています。そして、これらの時計遺伝子は全身の細胞内にも揃っています(末梢時計)。そこで、私たちは人の皮膚切片から培養した細胞(線維芽細胞)内で時計遺伝子の発現リズム(末梢時計リズム)を測定する方法を確立し、末梢時計リズムの周期がクロノタイプ(朝型夜型)や休日の睡眠習慣(体質にあった睡眠時間帯)と相関することを以前報告しました。
  2013年7月5日プレスリリース「皮膚細胞を用いて体内時計を測る手法を開発」
 http://www.ncnp.go.jp/press/press_release130705.html

図2:抹消時計周期の計測法

 

 具体的には、採取した皮膚小切片(2mm x 5mm、5分ほどで採取)から培養した線維芽細胞にBmal1-lucリポーター遺伝子(時計遺伝子Bmal1プロモーター+ホタル発光遺伝子:ルシフェラーゼ遺伝子)を導入しました。Bmal1の発現量をルシフェラーゼの発光量で連続記録することで時計遺伝子の転写リズムの周期(末梢時計周期)を測定することができます(図2)。


■研究の成果
 本研究では、NCNPのほか、東京医科大学、秋田大学などの協力を得て、概日リズム睡眠-覚醒障害患者67名(睡眠-覚醒相後退障害41名、非24時間睡眠-覚醒リズム障害26名)、標準的な睡眠パターンの健常者50名から採取した皮膚細胞を培養し、末梢時計周期を測定しました。その結果、非24時間睡眠-覚醒リズム障害群の末梢時計周期は健常者群に比較して有意に延長していることが確認できました(図3)。これは、皮膚細胞を用いて簡便に患者の周期異常を同定できることを意味しています。
 さらに重要なことは、末梢時計周期によって時間療法(高照度光療法やメラトニン/メラトニン受容体作動薬などを用いて睡眠時間帯を正常化させる治療法)の効果を予測できる可能性が示唆された点です。時間療法に対する反応性には個人差があり、残念ながらすべての人に効果があるわけではありません。本研究の結果、時間療法の奏功した非24時間睡眠-覚醒リズム障害患者では、奏功しなかった患者に比較して末梢時計周期が有意に短いことがわかりました(図4)。周期長を簡便に定量化できることは、単に臨床転帰の予測を可能にするだけではなく、今後、異常な長周期を有する難治例の病因研究を進める際に調査対象者を絞り込む重要な臨床的マーカーになります。
 一方、睡眠-覚醒相後退障害の患者では末梢時計周期の異常は認められず、時間療法の効果判定にも有用ではありませんでした。ごく最近、家系発症型(遺伝型)の睡眠-覚醒相後退障害患者では体内時計周期が延長していることが報告されましたが、患者の大部分を占める孤発型の睡眠-覚醒相後退障害は体内時計周期の異常以外の原因で発症している可能性が示唆されました。
 

図3:概日リズム睡眠障害患者の抹消時計周期 図4:治療反応性と抹消時計周期
 

■今後の展開
 今後は、末梢時計周期の測定法を活用して難治例の病因研究、治療研究を進める予定です。概日リズム障害に関連する様々な精神・神経疾患の発症メカニズムの解明や診断ツールの開発にも取り組みます。また、概日リズム障害患者の細胞を用い、治療候補物質のスクリーニングシステムの構築を目指しています。これらの技法が実用化されれば、患者個人に合ったテーラーメード医療の提供に資することが期待されます。
 現代社会は24時間化が進み、不規則な睡眠リズムに陥っている人々は年々増加しています。交代勤務・夜勤従事者も就労者の30%近くまで達しました。睡眠覚醒リズムの障害は多くの方々が悩まされる臨床上および公衆衛生学上の重要な課題となっています。概日リズム障害の診断ツールは患者のみならず一般生活者のQOL向上に貢献するかもしれません。  


■論文名
論文名:Evaluation of Circadian Phenotypes Utilizing Fibroblasts from Patients with Circadian Rhythm Sleep Disorders(皮膚細胞を利用した概日リズム睡眠障害患者の体内時計の特性評価)

掲載雑誌:Translational Psychiatry (2017) 7, e1106; doi:10.1038/tp.2017.75
URL:http://www.nature.com/tp/journal/v7/n4/full/tp201775a.html    
 

■お問い合わせ先
<研究に関するお問い合わせ先>
氏名:肥田昌子(ひだ あきこ)、三島和夫(みしま かずお)
機関・所属名:国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所・精神生理研究部
住所:〒187-8553 東京都小平市小川東町4-1-1
Tel & Fax: 042-346-2071 & 042-346-2072
E-mail:E-mailE-mail

<報道に関するお問い合わせ先>
機関名:国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター
担当:総務課広報係
住所:〒187-8551 東京都小平市小川東町4-1-1
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