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プレスリリース詳細

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2017年5月18日
慶應義塾大学医学部
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)

超早産児に生じる認知機能障害に脳の神経細胞の移動障害が関与
-その予防・治療法の新規開発に期待-

  

 慶應義塾大学医学部解剖学教室の久保 健一郎専任講師、出口 貴美子講師(非常勤)、仲嶋 一範教授と、国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 疾病研究第二部の井上 健室長らは、妊娠週数28週未満の超早産で生まれた赤ちゃん(超早産児)に高い確率で生じる認知機能障害に、脳の神経細胞の移動障害が関与することを明らかにしました。
 脳のネットワークが作られる時には、タイミングよく作られた神経細胞が適切な位置に移動することが重要です。今回の研究では、超早産児が生まれる時に、まだ移動中の神経細胞が虚血によって障害され、そのことがその後の認知機能障害に関与することが分かりました。また、マウスを用いた研究で、虚血になっても発症を予防できる方法を見出しました。
 この研究成果は、2017年5月18日(米国東部時間)に米国医学雑誌「JCI Insight」に掲載されました。


1.研究の背景と概要
 近年、日本だけでなく世界的に早産で生まれる赤ちゃんが増加していることが知られています。特に妊娠週数28週未満の超早産で生まれる赤ちゃん(超早産児)は、周産期医療の発達で生存率が上昇したこともあって増加しています(注1)。
図2 超早産児は、特に問題なく発達することもある反面、約2割から半数近くに認知機能障害を伴い、後に自閉スペクトラム症や注意欠如多動症などの神経発達症(発達障害)を合併することがあります。その原因として、超早産児が経験する脳虚血などが想定されていましたが、それによって脳にどのような障害が生じるのかは、これまでよく分かっていませんでした(参考図1)。    


2.研究の内容と成果
 まず、ヒト胎児の脳の組織切片を用いた解析を行い、妊娠週数ごとの脳の状態を調べました。その結果、超早産児が生まれる時期に当たる妊娠週数23週以降においても、脳の神経細胞がまだ移動を続けていることが明らかになりました。さらに、虚血性の脳障害を合併した超早産児の脳の標本を調べると、多くの神経細胞が移動経路の途中に留まっている所見が観察されました(参考図2)。
図2
 次に、神経細胞が移動している時期に虚血が生じるとどのような結果が生じるのかを調べるため、ヒトの妊娠週数25週程度に相当する時期のマウス胎仔に虚血操作を加え、我々が確立した「神経細胞を光らせて可視化する技術」(注2)で観察しました。すると、虚血によって細胞外の環境が変化することで、実際に神経細胞の移動が障害され、神経細胞が移動経路の途中に留まることが分かりました。このようなマウスには、ヒトと同様に、成育したのちに認知機能障害が生じました。
 しかし、虚血が起きるときのマウスの体温を低く保つことで移動障害と認知機能障害の発生が予防できることや、最近開発された神経活動操作法を用いて生後に前頭葉の神経活動を上げることで、認知機能 障害が改善することも明らかにしました。


3.今後の展開・意義
 これまで、超早産児の脳は未熟であるとはいえ、主な神経細胞の配置はほぼ完了していると考えられてきました。今回の研究はそれを覆し、神経細胞はまだ移動中で、虚血によってその移動が障害されることが認知機能障害の発生に関連していること、また、虚血が生じても、適切な介入によって移動障害や認知機能障害が予防可能であることが分かりました。
 今回の研究で用いたマウスに対する低体温などの予防・治療法を、そのままヒトの超早産児に応用することは困難です。しかし、低体温が虚血による障害を予防できるしくみを明らかにすることなどによって、新たな予防・治療法の開発につながることが期待されます。 
 

4.特記事項
 本研究は、主に文部科学省科学技術試験研究委託事業、JSPS科研費 JP15K09723、JP16H06482、JP15H01586、JP15H02355、JP15H01293、JP26430075、慶應義塾大学次世代研究プロジェクト推進プログラム、厚生労働科学研究費補助金等の助成で行われました。


5.論文
タイトル:Association of impaired neuronal migration with cognitive deficits in extremely preterm infants
タイトル和訳:神経細胞移動の障害が超早産児の認知機能低下に関与する
著者名:久保健一郎、出口貴美子、永井拓、伊藤亨子、吉田慶太朗、遠藤俊裕、
ベナー聖子、Shan Wei、北澤彩子、荒巻道彦、石井一裕、Shin Minkyung、松永友貴、
林周宏、掛山正心、遠山千春、田中謙二、田中光一、高嶋幸男、中山雅弘、伊藤雅之、
平田幸男、Antalffy Barbara、Armstrong D. Dawna、山田清文、井上健、仲嶋一範
(久保健一郎と出口貴美子は共同筆頭著者)
掲載紙:JCI Insight  
 

【用語解説】
(注1):米国では出生200例に一例程度が超早産での出生とされ、その数が年々7%ずつ増加していると報告されています。日本では平成25年の時点で、出生300例に一例程度、年間約3,000人が出生しました。
(注2):子宮内電気穿孔法のことで、仲嶋研究室において開発し2001年に報告した、簡便な生体内遺伝子導入技術です。目的の神経細胞を光らせ、配置や形を詳細に観察することができます。

※ご取材の際には、事前に下記までご一報くださいますようお願い申し上げます。
※本リリースは文部科学記者会、科学記者会、厚生労働記者会、厚生日比谷クラブ、各社科学部等に送信しております。

 

【本発表資料のお問い合わせ先】
慶應義塾大学医学部 解剖学教室
仲嶋 一範(なかじま かずのり)教授
TEL:03-5363-3743 FAX:03-5379-1977
E-mail:
http://plaza.umin.ac.jp/~Nakajima/

国立研究開発法人
国立精神・神経医療研究センター 神経研究所
疾病研究第二部
井上 健(いのうえ けん)室長
TEL:042-346-1713 FAX:042-346-1713
E-mail:

出口小児科医院 
出口 貴美子(でぐち きみこ)院長
(慶應義塾大学医学部解剖学講師(非常勤))
TEL:0957-52-2252 FAX:0957-52-5014
E-mail:

【本リリースの発信元】
慶應義塾大学
信濃町キャンパス総務課 : 鈴木・吉岡
〒160-8582 東京都新宿区信濃町35
TEL:03-5363-3611 FAX:03-5363-3612
E-mail :
http://www.med.keio.ac.jp/

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