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プレスリリース詳細

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2017年7月21日
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)
Tel:042-341-2711(広報係)

興味や意欲に関わる内発的動機づけに重要な脳領域の異常が
統合失調症で明らかに
-統合失調症患者では外側前頭前野の脳活動異常が認められる-

  

 国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP、東京都小平市、理事長:水澤英洋) 病院(院長:村田美穂)第二精神診療部 医師 竹田和良と精神保健研究所(所長:中込和幸)中込和幸 所長らのグループは、統合失調症における内発的動機づけ障害に、外側前頭前野の脳活動の異常が関与することを脳画像解析により初めて明らかにしました。内発的動機づけとは、報酬や罰によって形成される外発的動機づけに対して、取り組んでいる課題や活動そのものによって引き起こされる興味・関心・意欲によって生じる動機づけを指し、統合失調症では内発的動機づけが形成されにくく、内発的動機づけに基づく行動がとりづらいことが特徴とされています。
 統合失調症は、人口の約1%の人々が罹患する精神疾患です。近年の薬物治療の進歩により、幻覚や妄想などの陽性症状と呼ばれる症状はかなり改善できるようになりました。しかし、意欲低下や感情表出の減少などの陰性症状、集中力・記憶力、計画を立案したり、問題を解決する力などが低下する認知機能障害の治療はいまだ十分ではありません。特に、認知機能障害は、対人関係や就労・就学、生活の自立といった社会機能と密接に関わっているため、その治療法の開発は喫緊の課題です。
 統合失調症の認知機能障害については薬物治療による効果が現時点では十分ではなく、認知リハビリテーション等の心理社会的治療が有効であることが示されています。社会機能の一層の向上をめざし治療を確実なものにするためには、リハビリテーションの効果を増強する因子である動機づけのメカニズムを明らかにすることが必要です。統合失調症ではとりわけ各個人の内的価値に基づいた内発的動機づけが障害されていることが知られています。しかし残念なことに、統合失調症における内発的動機づけ障害がどのようなメカニズムで生じるのか、その詳細はいままで不明でした。
 今回我々は、統合失調症における内発的動機づけ障害がどのようなメカニズムで生じているのか、内発的動機づけを引き出す課題を用いて、健常者と統合失調症患者の課題中の脳活動と行動の特徴を比較解析することで検証しました。その結果、統合失調症患者では、内発的動機づけに基づいて適切に目的行動を調整する外側前頭前野の脳活動に異常が生じていることを発見しました。本研究成果は、内発的動機づけ障害の診断・治療、統合失調症患者の社会機能向上を促進する上で、きわめて重要な知見と言えます。
 本研究は、玉川大学脳科学研究所 松元健二教授のグループ、当センター脳病態統合イメージングセンター(IBIC) 花川隆部長のグループ、東京都健康長寿医療センター放射線診断科 下地啓五 専門部長らとの共同研究として実施されました。本研究の成果は、NeuroImage:clinicalにオンラインで、米国東部時間2017年7月17日午前12時(日本時間2017年7月18日午前1時)に掲載されました。   


■研究の背景
 統合失調症は、人口の約1%の人々が罹患する精神疾患で、幻覚や妄想などの陽性症状、意欲低下や感情表出の減少などの陰性症状、集中力・記憶力、計画を立案したり、問題を解決する力などが低下する認知機能障害が症状として知られています。特に、認知機能障害は、対人関係や就労・就学、生活の自立といった社会機能と密接に関わることが明らかにされ、その治療法として、認知リハビリテーション等の心理社会的治療の有効性が示されています。しかしながら、社会機能の向上を促進するためには、リハビリテーションの効果をより高める鍵である「動機づけ」とりわけ各個人の内的価値に基づいた「内発的動機づけ」が重要であることが知られています。統合失調症では内発的動機づけが障害されていることが知られていますが、障害がどのようなメカニズムで生じるのか、その詳細は不明でした。障害メカニズムを明らかにすることは、内発的動機づけ障害の診断や治療法を開発し、社会機能向上を促進する上で大変重要であると考えられます。
 そこで、本研究では、内発的動機づけを引き出す課題を用いて、健常者と統合失調症患者の課題中の脳活動と行動の特徴を比較解析することにより、これを検証しました。  
 

■研究の内容
 これまでの研究で(Murayama et al, PNAS, 2010)考案されたストップウォッチ課題が健常者において内発的動機づけを引き出すこと、外側前頭前野と線条体が内発的動機づけに関与する重要な脳領域であることが示されました。そこで、内発的動機づけを引き出すストップウォッチ(SW)課題とコントロール課題としてウォッチストップ(WS)課題を本研究で用いました(図1)。SW課題では、自動的に動き出した時計を、ボタンを押して5秒で止めることが要求され、4.95秒から5.05秒までに止めると「成功」とし、加点しました。WS課題では、動き出した時計が自動的に止まったのを確認した直後にボタンを押すことが要求されました。どちらの課題が始まるかは直前の手がかり刺激で示し、それぞれ30試行を疑似ランダムな順序で呈示しました。機能的磁気共鳴画像撮影法(fMRI)*を用いて、これら課題遂行中の脳活動を計測し、行動指標ともに患者群18名、健常群17名で比較検討しました。また、内発的動機づけは、その評価尺度であるIMI(intrinsic motivation inventory, Choi et al, Schizophr Bull, 2010)と呼ばれる自記式の指標を用い、SW課題のスコアをWS課題で得られるスコアから引き算して、正味のSW課題に対する内発的動機づけと考えました。
 その結果、統合失調症患者では、健常者と比べて有意に内発的動機づけが低下していることが確認できました(図2A)。手かがり刺激(SW課題かWS課題かどちらの課題が始まるかを明示する期間)呈示期の線条体の活動は、統合失調症患者で、健常者と比べて有意に低下しており、内発的動機づけの結果と一致しました。さらに、健常者では、内発的動機づけのスコアと手がかり刺激呈示期の外側前頭前野の脳活動に有意な正の相関がみられましたが、患者ではそのような相関は認められませんでした(図2B)。
 一方、SW課題が適切に実行できたかどうかを調べました。正解試行数は両群で有意な差はありませんでしたが、失敗試行後の修正能力に違いが見られました。本研究では、失敗試行を4.95秒より早く反応した失敗(Undershoot)と5.05秒より遅く反応した失敗(Overshoot)とに分けて検討しました。Undershoot後の試行では、早く押しすぎたため、次はゆっくりボタンを押すことが必要ですが、ゆっくり押しすぎると(5.05秒を超えてしまうと)失敗試行となってしまうため、あまり遅くなりすぎないようにボタン押しのタイミングを調整することが必要です。それに対して、Overshoot後の試行では、ゆっくり押しすぎたため、次は早くボタンを押すことが必要ですが、早く押しすぎると(4.95秒より早いと)失敗試行となってしまうため、あまり早くなりすぎないようにボタン押しのタイミングを調整することが必要です。このように失敗試行後の修正には、行動抑制に関連した認知的制御*が必要になります。
 Overshoot後の正解率は、統合失調症患者で健常者と比較して有意に低下しており、Overshoot後に早く押しすぎる割合が患者で健常者と比較して有意に上昇していました。Undershoot後の試行では、両群に明らかな差は認められませんでした。これらの行動の結果から、統合失調症では、Overshoot後の修正が適切にできずに、過剰に修正してしまう(結果として早く押しすぎてしてしまう)という特徴がわかりました(図3)。これは、統合失調症患者において、認知的制御が障害されていることを示唆します。そこで、Overshoot後の正解率と手がかり刺激呈示期の外側前頭前野の脳活動の関係を調べたところ、健常者では、これらに有意な正の相関がみられましたが、患者ではそのような相関は認められませんでした。Overshoot後の修正にのみ群間差が見られたことは、興味深いところです。神経科学的研究で、動機づけは、行動を促進する方向に作用すること(本研究課題では、反応を早めること)、認知的制御は不適切で過剰な行動を抑制するときに作用することが報告されており、これらの点で、UndershootよりもOvershoot後の修正でより動機づけの影響が強く働き、認知的制御を要するため、Overshoot後の修正で認知的制御の障害の影響が顕著に表れたものと考えられます。
 これらの結果は、健常者においては、内発的動機づけと相関する外側前頭前野の脳活動が、Overshoot後の修正を適切に行い(認知的制御)、正しい行動を導くのに対して、統合失調症患者では、これが障害されていることがわかりました。言い換えると、統合失調症患者では、外側前頭前野の脳活動異常により、内発的動機づけを適切な行動を行うための認知的制御に結びつけることができなくなっているといえます。   


■研究の意義・今後の展望
 本研究では、統合失調症における内発的動機づけ障害に、内発的動機づけを今必要とする目的行動に適切に結びつける外側前頭前野の脳活動の異常が関与していることを初めて発見しました。今後このような外側前頭前野の脳活動異常を治療することができれば、統合失調症の社会機能の向上が一層得られると期待できます。
 本研究は、認知リハビリテーションの適応と考えられる陽性症状が安定した患者さんを対象として実施しており、すべての統合失調症患者に今回の成果があてはまるのかどうかはさらに研究が必要であると考えます。しかしながら、本研究の成果を元に、今後は、当院で実施している認知リハビリテーションNEAR(関連リンク:当院統合失調症早期・診断治療センターホームページ) による介入が、前頭前野の脳活動異常を回復・改善しうるのか、その治療法としての有効性についてさらに検討する予定です。  


■用語解説
*機能的磁気共鳴画像撮影法(fMRI)
fMRIは、ヒトの脳機能を可視化する方法で、代謝変化(還元型ヘモグロビンの濃度変化)を指標として、神経活動によって引き起こされる脳血流量の変化を画像化したもの。
*認知的制御(cognitive control):
目的とする行動や課題の実行のために、課題ルールの維持やスイッチング、行動の抑制、情報の更新などを行い、適切に行動を制御する認知機能。この機能には、前頭前野 (prefrontal cortex) が密接に関与していることが知られている。本研究では、ストップウォッチ課題のエラー修正を行う際に必要な行動抑制に注目した。
 


■挿入図と解説
 

図1 ストップウォッチ課題
図1 

SW課題では、自動的に動き出した時計を、自らボタンを押して5秒で止めることが要求され、4.95秒から5.05秒までに止めると「成功」とし加点(黄色の部分)されます。
WS課題では、動き出した時計が自動的に止まったのを確認した直後にボタンを押すことが要求されます。
どちらの課題が始まるかは手がかり刺激で示し、それぞれ30試行を疑似ランダムな順序で呈示しました。 

 

図2 内発的動機づけスコアと外側前頭前野の脳活動との相関
図2 

A:内発的動機づけスコアの比較
患者では、健常者に比べて有意にスコアは低下している。
B: 内発的動機づけスコアと脳活動
健常者では、内発的動機づけスコアと外側前頭前野の脳活動に有意な正の相関がみられるが、患者では見られない。 

 

図3 失敗試行後のパフォーマンス
図3 

Overshoot(遅く反応して失敗した)後の試行のパフォーマンスの違い
Overshoot後の試行で成功する率 (Successの割合)は、患者で健常者に対して有意に低下。Overshoot後の試行がUndershoot(早く押しすぎて失敗した試行)であった率は、患者で健常者に比べて有意に高かった。 


■原著論文情報
論文名:Impaired prefrontal activity to regulate the intrinsic motivation-action link in schizophrenia
著者: Kazuyoshi Takeda, Madoka Matsumoto, Yousuke Ogata, Keiko Maida, Hiroki Murakami, Kou Murayama, Keigo Shimoji, Takashi Hanakawa, Kenji Matsumoto, Kazuyuki Nakagome
記載誌:NeuroImage: Clinical
DOI:https://doi.org/10.1016/j.nicl.2017.07.003
URL:https://www.journals.elsevier.com/neuroimage-clinical/  


■助成金
本研究は、主として厚生労働科学研究費補助金 障害者対策総合研究事業、文部科学省科学
研究費及び国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の支援により行われました。  

■お問い合わせ先
【研究に関するお問い合わせ】

氏名 竹田 和良(たけだ かずよし)
機関・所属名:国立精神・神経医療研究センター 病院 第二精神診療部 医師
住所:〒187-8553東京都小平市小川東町4-1-1
Tel & Fax: 042-341-2711 (代表) & 042-346-1734
Email:

【報道に関するお問い合わせ】
機関名:国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター
担当:総務課広報係
住所:〒187-8551東京都小平市小川東町4-1-1
Tel & Fax: 042-341-2711 (代表) & 042-344-6745
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