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プレスリリース詳細

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2017年12月26日
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)
Tel:042-341-2711(総務部 広報係)

統合失調症患者の日常生活技能をニューロモデュレーションで改善
~経頭蓋直流電気刺激(tDCS)を用いた世界初の試み~


 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター(NCNP、東京都小平市 理事長:水澤英洋)トランスレーショナル・メディカルセンター(センター長:和田圭司)情報管理解析部長 住吉太幹らの研究グループは、経頭蓋直流電気刺激(transcranial direct current current stimulation, tDCS)が、統合失調症患者の日常生活技能や認知機能を改善する可能性を初めて見出しました。
 
 本研究グループは、認知機能障害が統合失調症患者の社会復帰に大きく影響を及ぼすことに着目し、「統合失調症の認知機能障害に対する経頭蓋直流電気刺激の効果に関する研究」を立案しました。
 統合失調症は一般人口の約1%が罹患する、原因不明の精神疾患です。主な症状として幻覚や妄想などの陽性症状、意欲低下や感情の平板化などの陰性症状、そして記憶、注意力などの認知機能の障害が挙げられます。認知機能に依存し、より上位の機能レベルに位置する、金銭管理やコミュニケーション力など日常生活技能の改善は、患者の社会復帰に直結します。そのため、より効果的な治療法の開発が求められています。
 tDCSとは、1-2 mA程度の微弱な電流を頭皮上から当てる方式のニューロモデュレーションで、麻酔の必要がなく、副作用のリスクが小さいなどの利点があります(図1)。これまで主にうつ病に対する有効性が、メタ解析の結果などで示されています。
 本研究グループは、統合失調症患者に対してtDCSによる刺激を1回20分、1日2回、5日間に施行しました。その結果、最終刺激から1ヶ月後に、日常生活技能が治療前と比べて有意に改善しました。また、認知機能、精神病症状、抑うつなども有意な改善を認めました。
 今回の研究結果からtDCSが統合失調症の日常生活技能を改善し、社会復帰に役立つ可能性が示唆されました。現在、本研究成果にもとづく、偽刺激とのランダム化無作為比較試験が行われています。
 この研究成果は、2017年9月29日発行の「Frontiers in Psychiatry」に掲載されました。
 
  
■研究の背景・経緯
 統合失調症は、陽性症状、陰性症状、認知機能障害などにより特徴づけられます。また、認知機能と密接に関連する日常生活技能は、患者の社会復帰を妨げる大きな要因です。陽性症状などには有効な治療がありますが、認知機能や日常生活技能については、はっきりと効果のある治療はまだ見つかっていません。
 tDCSは頭皮上に2つのスポンジ電極を置き、電極間に微弱な電流を流すことで、脳の神経活動を修飾する治療法です(図1)。これまで主にうつ病に対する効果が示されてきました。特に、背外側前頭前野と呼ばれる脳領域の機能の変化が、統合失調症の認知機能障害に関連するとされ、tDCSによる刺激部位として適切であると考えられました。
 認知機能や精神病症状の一部におけるtDCSの効果は示されてきましたが、日常生活技能への効果の報告はこれまでありません。以上の背景から、国立精神・神経医療研究センターにおいて、統合失調症の日常生活技能へのtDCSの効果を調べる研究を開始しました。
 
■研究の内容
 統合失調症患者28名(女性12名、男性16名)に対し、tDCSを1回20分、1日2回、5日間施行しました。電流が流れ込むアノード電極を背外側前頭前野に、電流が流れ出すカソード電極を右眼窩上に配置して刺激を行いました。患者のUPSA-B(日常生活技能簡易評価尺度)の総合点(平均 + 標準偏差)は、tDCS開始前の68.4 ± 14.8から治療1ヶ月後に79.0 ± 15.5へと、有意に改善しました。同尺度の下位項目である金銭管理とコミュニケーション力の得点も、それぞれ有意に改善しました。また、BACS(認知機能評価尺度)、PANSS(陽性・陰性症状評価尺度)、CDSS(うつ病評価尺度)で測定される認知機能、精神病症状、うつ症状にも有意な改善が見られました。
 
■今後の展望
 本臨床試験はtDCSが統合失調症の日常生活技能を改善することを示した初めての研究です。本研究の結果は、tDCSなどのニューロモデュレーションが、患者の社会復帰を促進する可能性を示します。
 同時に、tDCSが統合失調症におけるうつ症状を改善することも、初めて示されました(これまで、うつ病におけるうつ症状へのtDCSの効果は報告されています)。今回の結果は、統合失調症治療におけるtDCSの有用性が多岐わたる可能性を示唆します。
 
■用語解説
・経頭蓋直流電気刺激(tDCS)
 頭皮上に設置した電極を通して微弱な電流を流し、脳神経細胞の活動を修飾する方式のニューロモデュレーションです。1回あたりの刺激時間は30分以内と比較的短く、麻酔の必要がなく、副作用のリスクが低いという利点があります。電極の設置部位、施行回数および日数については様々な試みがあります。これまで主にうつ病に対する効果が示されており、抗うつ薬と遜色ない効果を見出した無作為化比較試験もあります。

■参考図
        
        図1 経頭蓋直流電気刺激(tDCS)施行の様子.

 (a)刺激発生装置、(b)アノード電極、(c)カソード電極、(d)電極固定用ストラップ、(e)ゴムバンド. 国立精神・神経医療研究センターでは、tDCSを用いた精神疾患の治療研究を現在行っています;www.ncnp.go.jp/hospital/edics/clinical_research.html
 
【原著論文情報】
<著者>
Narita Z, Inagawa T, Sueyoshi K, Lin C, Sumiyoshi T.
<論文名>
Possible Facilitative Effects of Repeated Anodal Transcranial Direct Current Stimulation on Functional Outcome 1 Month Later in Schizophrenia: An Open Trial.
<掲載誌>
Frontiers in Psychiatry.
doi: 10.3389/fpsyt.2017.00184. eCollection 2017.
 URL: 
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29033856
 
【助成金】
本研究は日本学術振興会・科学研究費補助金の支援を受けて行われました。
 

■お問い合わせ先
【研究に関するお問い合わせ先】

住吉 太幹(すみよし とみき)
国立精神・神経医療研究センター トランスレーショナル・メディカルセンター
情報管理・解析部 部長
〒187-8553 東京都小平市小川東町 4-1-1
Tel: 042-341-2711(代表)/FAX: 042-346-3569


【報道に関するお問い合わせ先】
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 総務課広報係
〒187-8551 東京都小平市小川東町 4-1-1
Tel & Fax:042-341-2711(代表)& 042-344-6745

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