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プレスリリース詳細

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2018年1月18日
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)
Tel:042-341-2711(総務部 広報係)

重度発達障害をきたす有馬症候群の原因遺伝子を世界で初めて発見


 国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP、東京都小平市 理事長:水澤英洋)神経研究所(所長:武田伸一)疾病研究第二部(部長:後藤雄一)の伊藤雅之 室長らの研究グループが、国内患者数10人程度と推定される難病で、重度発達障害をきたす有馬症候群の原因遺伝子を世界で初めて発見しました。
 有馬症候群は、1971年に有馬正高(国立精神・神経医療研究センター病院名誉院長)が世界で初めて報告した疾患です。臨床的には、乳児期早期より重度精神運動発達遅滞、先天性視覚障害、嚢胞腎(ネフロン癆)、眼瞼下垂、小脳虫部欠損、下部脳幹形成異常(molar tooth sign: MTS)を呈し、進行性の腎障害を併発し、腎不全のため腎透析ないし腎移植を要します。これまでに、本邦から31例の報告があるのみで稀少性の高い難病で、常染色体劣性遺伝性疾患と考えられています。
 本研究グループは、厚生労働省と日本医療研究開発機構の支援を受け、有馬症候群の原因遺伝子の同定を行いました。その結果、3家系4例の患者検体より、CEP290遺伝子の特定の遺伝子変異を発見しました。
 有馬症候群は、ジュベール症候群関連疾患の重症型と考えられています。これらの疾患は、すべて一次繊毛の構造に関与する分子の遺伝子異常に起因します。今回の発見は、こうした難病の発症メカニズムの解明に寄与することが期待できます。

この研究成果は、日本の科学誌Brain and Developmentオンライン版に2017年12月4日に掲載されました。

 本研究成果は、以下の助成金によって得られました。
・厚生労働省科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業(ジュベール症候群およびジュベール症候群関連疾患の診療支援と診療ガイドライン作成・普及のための研究)
・日本医療研究開発機構 難治性疾患実用化研究事業(ジュベール症候群およびジュベール症候群関連疾患の病態解明と科学的診断・治療法の開発)


■研究の背景
 有馬症候群は、乳児期早期より重度精神運動発達遅滞、先天性視覚障害、嚢胞腎(ネフロン癆)、眼瞼下垂、小脳虫部欠損、下部脳幹形成異常(molar tooth sign: MTS)を呈する疾患で、1971年に有馬正高(国立精神・神経医療研究センター病院名誉院長)が世界で初めて報告した疾患です。有馬症候群に類縁の症状を呈する疾患として、ジュベール症候群、セニール・ローケン症候群、COACH症候群、口-顔-指症候群などが知られています。これらの疾患には、脳画像の共通所見(molar tooth sign :MTS)と、知的障害、運動障害、視覚障害、肝障害、腎障害などを様々な程度に呈する共通した臨床像があることから、ジュベール症候群関連疾患と総称され、36個の原因遺伝子が知られています。これら36個の遺伝子は、全て一次繊毛を構成するタンパク質をコードしています。一次繊毛は細胞膜から2-数µmの突起した細胞内小器官で、個体発生、細胞分裂、細胞移動などに直接関与している重要な細胞内小器官です。ここには600以上の分子が働いていると考えられています。有馬症候群以外のジュベール症候群関連疾患はすでに原因遺伝子がわかっています。しかし、有馬症候群の原因遺伝子はわかっていませんでした。
 

■研究の内容
 本研究グループは、2014年に有馬症候群の疫学調査を行い、7例の臨床的特徴と診断基準を発表しました(Brain Dev 2014;36:388-393)。このうちの3家系4例の患者及び家族のDNAの全エクソーム解析を行いました。その結果、一次繊毛の基底小体を構成するcentrosomal protein 290kDa(CEP290)遺伝子のイントロン17と43の両方、もしくはいずれかの遺伝子変異があることがわかり、一次繊毛の構造異常を起こすことを見出しました。これらのことから、有馬症候群の病因性遺伝子と患者細胞における一次繊毛異常を明らかにしたと言えます。(下図参照)

図1
図:正常と患者さんの線維芽細胞の違い
正常の線維芽細胞では、核(青)の周囲に繊毛(緑)があり、それに接してCEP290(赤)がある。これに対して、患者さんの線維芽細胞では、繊毛(緑)は核(青)から離れていて、異常なCEP290(赤)は接していないか見えない。
 

 CEP290遺伝子は54個のエクソンを持ち、その産物は2479個のアミノ酸からなる分子です。今回見つかった遺伝子変異はいずれもスプライス異常をきたし、異常な構造のCEP290タンパク質が作られ、壊されているものと考えられました。CEP290は一次繊毛の基底部という根元の部分にあり、基底小体と複合体を作り繊毛内の物質輸送に関与しています。この働きができないことで病気になると考えられます。また、イントロン43のスプライス・アクセプター・サイトに見つかった変異は全例に共通していたことから、有馬症候群の発症に重要な遺伝子異常であることが推察されます。
  

■今後期待される展開
 CEP290タンパク質は一次繊毛の形態と機能に重要な役割を演じています。一方、CEP290遺伝子はジュベール症候群関連疾患をはじめとして、広く繊毛病として知られている疾患の原因遺伝子であり、その遺伝子変異は多岐にわたっています。しかし、今回見つかったCEP290の遺伝子変異は有馬症候群に特有のものであることから、このモデルマウスの解明が有馬症候群の発症病態の解明に役立つことが期待できます。
 

【用語の説明】
・有馬症候群
乳児期早期より重度精神運動発達遅滞、先天性視覚障害、嚢胞腎(ネフロン癆)、眼瞼下垂、小脳虫部欠損、下部脳幹形成異常(molar tooth sign: MTS)、進行性の腎障害を呈する疾患である。

・ジュベール症候群関連疾患
小脳虫部欠損と下部脳幹形成異常、腎障害、視覚障害を共通に呈した疾患群で、ジュベール症候群と有馬症候群、セニール・ローケン症候群、COACH症候群、口-顔-指症候群などが含まれる。

・一次繊毛
ほとんどすべての細胞にある細胞膜から2-数µmの突起した細胞内小器官で、核内シグナル伝達などを行い、器官形成や細胞増殖や移動などに関わっていることが知られている。

・基底小体
一次繊毛の根本にあり、繊毛の構造を支え、様々なシグナル伝達に寄与している。

・繊毛病
繊毛には、一次繊毛と運動性繊毛があり、それらの機能障害により腎嚢胞,肝臓・胆管異常,内臓逆位,多指症,脳梁低形成,認知障害,網膜色素変性症,頭蓋・骨格異常,糖尿病など多岐にわたる異常を生じる。これら一群の繊毛機能不全による疾病を繊毛病と称する。

・CEP290:
遺伝子は染色体12番にあり、54個のエクソンを持つ。その産物は2479個のアミノ酸からなる分子である。基底小体と複合体を作り繊毛内の物質輸送に関与している。

・エクソンとイントロン
タンパク質が作られるには、それに相応したゲノム遺伝子が存在する。このゲノム遺伝子をコピー(転写)して、メッセンジャーRNAが作られる。ゲノム遺伝子配列のうち、タンパク質への翻訳のために必要な配列がエクソンであり、不要なDNA配列がイントロンである。

・スプライシング
転写で合成された一次転写産物からイントロンが除去され、エクソン同士が結合する過程である。

・スプライス・アクセプター・サイト
イントロンの下流側端の部分で、エクソンの結合に重要な役割がある。遺伝性疾患の原因解明や治療法開発を目指した研究に広く利用されている。
 

■論文情報
Itoh M, Ide S, Iwasaki Y, Saito T, Narita K, Dai H, Yamakura S, Furue T, Kitayama H, Maeda K, Takahashi E, Matsui K, Goto Y, Takeda S, Arima M. Arima Syndrome with specific variations of CEP290 gene; clinical comparison with Joubert syndrome and Joubert syndrome-related diseases. Brain Dev 2017

DOI:http://dx.doi.org/10.1016/j.braindev.2017.11.002 (in print)
URL:http://dx.doi.org/10.1016/j.braindev.2017.11.002

参考論文:
Itoh M, Iwasaki Y, Ohno K, Inoue T, Hayashi M, Ito S, Matsuzaka T, Ide S, Arima M. Nationwide survey of Arima syndrome: new diagnostic criteria from epidemiological analysis. Brain Dev 2014;36:388-393.
 

■お問い合わせ先

【研究に関するお問い合わせ先】

伊藤 雅之(いとう まさゆき)
国立精神・神経医療研究センター 疾病研究第二部 室長
〒187-8553 東京都小平市小川東町 4-1-1
Tel: 042-341-2711(代表)/FAX: 042-346-1743
E-mail: 

【報道に関するお問い合わせ先】
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター
総務課広報係
〒187-8553 東京都小平市小川東町 4-1-1
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