脊髄性筋萎縮症(SMA)の対応

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呼吸リハビリテーション

普段、無意識にしている呼吸も横隔膜などの筋肉による運動の一つです。そのため、筋力低下は呼吸運動にも影響が及びます。
ここでは、推奨されている呼吸リハビリテーションの方法について

  1. 胸の関節運動
  2. 肺を最大に膨らませる
  3. 咳を補助する

の3つを中心に紹介します。


・胸の関節運動

呼吸は、酸素と二酸化炭素の交換を肺で行いますが、空気を出し入れするためには肺の容器である胸郭(背骨、肋骨、胸骨で構成される)を大きく動かす必要があります。
なるべく胸郭を固くさせないようにストレッチやマッサージをしましょう。


肺を最大に膨らませる

呼吸筋の筋力低下により、深呼吸が難しくなり、肺のすみずみまで空気を入れて膨らますことができなくなる場合があります。
その場合は主にバッグバルブマスク(アンビュー社が有名なためアンビューバッグと呼ばれることが多い)を使用し、自分で吸える量(肺活量)以上の空気を押し込むことで肺を最大まで膨らませる方法があります。
この方法によって測定できる換気量を最大強制吸気量(Maximum Insufflation Capacity: MIC)と呼ぶことから、MIC練習と呼んでいます。

注意事項

MIC練習を始める前に必ず主治医に相談してください。体調により行ってはいけない場合があります。

#バックバルブマスクの使い方

1 バッグバルブマスクの使い方

#VC測定⇒MIC測定(順次動画・静止画追加します)

MIC練習は喉を使っての息こらえが必要です。喉をうまく使えなかったり、気管切開をされていることで息こらえができなかったりする場合は、LIC練習が有用な場合があります。
LIC(Lung Insufflation Capacity: LIC)とは、1方向弁を用いたMICのことで、1方向弁が喉の代わりをするため息こらえができない方でも肺を最大まで膨らませることが可能になります。LIC練習は当センターが開発に携わったLIC TRAINER®(紹介URL追加)でも行うことができます。
#LIC測定(順次動画・静止画追加します)

注意事項

LIC練習を始める前に必ず主治医に相談してください。体調により行ってはいけない場合があります。

バックバルブマスクの使い方


MIC練習

LIC練習

咳を補助する

1. 咳を補助する

咳は大きく2種類あります。喉が食べ物や痰で刺激されたときに反射的に出る咳と、自分で吐き出したいと思ったとき(随意といいます)にする咳です。反射的な咳を補助することは難しいですが、随意の咳は介助により補助できます。

まず、咳の強さがどの程度あるか測定してみましょう。さまざまな測定器具がありますので、かかりつけの病院で測定できれば確認してみましょう
喘息(ぜんそく)の方によく使用するピークフローメーター(Peak flow meter)を用いることが一般的です。
咳をしたときの値、ピークフローが300L/min以上で「正常」、270L/minを下回ると咳が弱い、160L/minを下回るとかなり咳が弱いと評価され、排痰補助装置や吸引など道具の使用を検討します。

#CPF測定(順次動画・静止画追加します)

咳が弱かった場合、補助する方法を練習しましょう。

そもそも咳は、たくさん空気を吸えば吸うほど、強く息を吐けば吐くほど強くなります。そのため、吸う補助と吐く補助をそれぞれ練習します。
吸う補助は、2番で先ほど説明したMICです。自分の力で吸えるよりも多くの空気を肺に送り込んでから咳をすると強い咳ができます。
吐く補助は、咳のタイミングに合わせて胸郭を押すという方法があります。

注意事項

もともと胸が固いかた、成人の方はバッグを押す力加減に注意が必要ですので、主治医や理学療法士など医療専門職の指導のもと練習してください。

#MIC+咳(順次動画・静止画追加します)
#咳嗽介助(順次動画・静止画追加します)

これらの介助でもうまく咳の補助ができない場合、排痰補助装置(Mechanical In-Exsufflator: MI-E)が適応かどうか

主治医に相談しましょう。ただし、使用には制限がありますので注意が必要です。

#MI-Eの写真(順次動画・静止画追加します)

MICと呼気介助

MI-E

MI-Eと呼気介助

参考文献
日本リハビリテーション医学会.  神経筋疾患・脊髄損傷の呼吸リハビリテーションガイドライン策定委員会. 金原出版. 2014.

ストレッチング

<脊髄性筋萎縮症(SMA)のストレッチング>

 日常的にできるケアのひとつに筋肉のストレッチング(以下ストレッチ)があります.本ページでは「介助者から受けるストレッチ」を,簡単な解説と動画で紹介しています.筋肉は単独で働くのではなく他の筋肉との繋がりを持って働いています.そのため,「ストレッチをひとつだけ」ではなく,満遍なく行っていただく事をお勧めいたします.

ストレッチの7つのポイント

1. リラックスして行います(始める前に深呼吸をして力を抜き、リラックスしてから行いましょう)

2. 関節や筋肉が動く最大範囲までゆっくりとしっかりと動かします(気持ちいい範囲で最大まで)

3. 最大範囲まで動いたところで30秒間止めます

4. 30秒の間,呼吸は止めずにゆっくり吸ったり吐いたりします

5. 左右30秒ずつ,時間があればひとつのストレッチを2―3セット行います

6. ストレッチは出来れば毎日行うと良いケアになります(時間を決めて習慣にすると続けやすいですが,「絶対にやらないといけない!」と思い過ぎないで,楽しく続けられることが大切です)

7. 時間がないときは,各ストレッチ1セットでも良いので,紹介されているストレッチを満遍なくひと通り行うと良いでしょう

本動画の特徴

本動画は,各ストレッチの簡単な説明と右30秒・左30秒の120秒程度の動画です.数セット行う際は,そのまま続けるか,再度動画を流して参照しながら実施してください.次から,ストレッチを行う姿勢ごとに紹介します.

一般的な方法を紹介していますが,担当してくれているリハビリテーション専門職(PT/OT/ST)に相談して無理せずにご自分に合った方法で行うこともお勧めします.


仰向けで行う腰と下肢のストレッチ編

♯1.お尻のストレッチ(大殿筋)

♯1-1;通常の方法

1) 片手で踵を持ちます.もう一方の手で膝裏を持ちます.

2) 太もも(前側)が胸につくように股関節を曲げます.

3) 股関節を曲げたときに,途中で膝裏を持っていた手を抜いて膝のお皿を押すようにするとやりやすいでしょう.

♯1-2;実施したときに,反対側の足が持ち上がる場合

*この場合,持ち上がってしまった側(反対側)の脚のつけ根の筋肉(腸腰筋)が固くなっています.

♯1-1の1)~3)をやりながら,持ち上がってしまった反対側の太ももを地面に押してあげます.すると,反対側の脚のつけ根の筋肉(腸腰筋)のストレッチにもなります.

♯2.太もも裏のストレッチ(ハムストリングス)

♯2-1;通常の方法

1) 片手で踵を持ちます.もう一方の手を膝の前(お皿)に当てます.

2) 膝を伸ばしたまま,足を挙げます.最大で足裏が天井に向くくらい挙がることを目指します.

♯2-2;実施したときに,反対側の足が持ち上がる場合

*この場合,持ち上がってしまった側(反対側)の脚のつけ根の筋肉(腸腰筋)が固くなっています.

♯2-1の1)~2)をやりながら,持ち上がってしまった反対側の太ももを地面に押してあげます.すると,反対側の脚のつけ根の筋肉(腸腰筋)のストレッチにもなります.

♯3.ふくらはぎのストレッチ(下腿三頭筋)

1) 片手で踵を持ちます.足の裏と介助者の腕を密着させます.
2) 膝が曲がらないように上から押さえます.膝ではなく足首を抑えても大丈夫です.
3) 身体を前方へ傾ける力を使って足首を反らせます.

※足首が反らなくても,筋肉が伸びている感覚が得られれば十分です.

♯4.腰部を捻じるストレッチ(腰部と胸郭の回旋)

1) 両膝を立てます.

2) 両膝をつけたまま,左右に腰が気持ちよく伸びる最大まで倒します.

3) 両膝を倒した反対側の肩が浮いてこないように押さえます.

♯5.胸と腰の側面のストレッチ(胸部と腰部の側屈)

1) 横向きに寝て,脇から腰までの間に枕・クッションをいれます.

2) 天井側の腕を耳につけるように横から上げます.


うつ伏せで行う下肢のストレッチ編

♯6.太もものつけ根のストレッチ(腸腰筋)

♯6-1;通常の方法

1) 膝を約90°に曲げて膝から太ももをゆっくりと持ち上げます.

2) 腰やお尻が一緒についてこない(浮かない)ようにお尻を上から押さえます

♯6-2;うつ伏せで最初から腰やお尻が浮いている場合  

*この場合,持ち上がってしまった側(反対側)の脚のつけ根の筋肉(腸腰筋)が固くなっています.

*この場合は,うつ伏せを取るだけでストレッチになります.または,♯1-2と♯2-2のストレッチを行うと良いでしょう

♯7.太もも前のストレッチ(大腿四頭筋)

♯7-1通常の方法

1)膝を曲げて踵がお尻につくようにゆっくり曲げます.

2)腰やお尻が一緒についてこない(浮かない)ようにお尻を上から押さえます

♯7-2;うつ伏せで最初から腰やお尻が浮いている場合

*この場合,持ち上がってしまった側(反対側)の脚のつけ根の筋肉(腸腰筋)が固くなっています.

*この場合は,うつ伏せを取るだけでストレッチになります.または,♯1-2と♯2-2のストレッチを行うと良いでしょう