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臨床検査部
研修プログラム 神経病理(中枢・末梢神経系)コース
1.プログラムの目的と特徴
中枢・末梢神経疾患の神経病理学的診断を学ぶとともに、臨床症状の背景病理や画像連関を考えることを目的とする研修プログラムである。主要な対象疾患は中枢神経系ではパーキンソニズム、認知症、脊髄小脳変性症を主とする神経変性疾患、慢性精神疾患、末梢神経系は小児・成人・高齢者における各種末梢神経疾患である。
近年の神経科学の飛躍的進歩に伴い、画像を含めた臨床診断技術は向上し、遺伝子診断が可能となった疾患も多い。しかし、神経疾患の大部分は最終診断確定のためには剖検病理診断が必須である。また、精神・神経疾患の病態を理解するためには、脳を肉眼的・組織学的・細胞病理学的に検索し、原因蛋白の異常な蓄積等を同定することが不可欠である。脳を直接調べる神経病理学的検索の機会は、実質的には剖検脳と外科手術組織の検索に限られている。当院には臨床的に十分な記録がある剖検例約1000例が蓄積されており、これを比較検討の資料とすることができる。
また、当院では小児から成人までのてんかん外科をはじめとする脳外科の手術検体が豊富である。
今日の精神・神経疾患の病理診断に必須となっている、免疫組織化学による病因分子の局在同定をはじめとする各種診断技術を習得する。分子レベルで精神・神経疾患の病態・病因を理解し、組織学的所見と合わせて、総合的な診断を下させる医師を養成する。
実際には、神経内科、小児科、精神科の臨床医が、細胞レベルで病態を理解するとともに、画像所見をはじめとする臨床病理関連を実習するのに適している。
2.研修の内容と到達目標
- (1)必須項目
- ①中枢神経系肉眼的所見の評価と記載方法の習得
脳の外傷、炎症、循環障害、腫瘍、変性などの肉眼的変化を正確に評価し記載する方法を習得する。また、診断に必要な部位の組織切り出しの基本的な考え方を理解する。 - ②組織学的所見の評価と記載方法の習得
中枢神経系病理で通常用いられるHE染色、Klüver-Barrera標本, Bodian標本を検索して病変の質と程度を正確に評価する方法に習熟する。また、特殊染色の選択法を学ぶ。 - ③検体の処理方法の習得
剖検病理検体と外科手術組織を、その疾患に対応した部位を、凍結、ホルマリン固定、グルタルアルデヒド固定などの適切な固定方法により処理する方法を習得する。 - ④組織標本の作成と組織学的染色法の習得
パラフィン切片の作成、ルーチン染色を自分で行えるようにする。 - ⑤免疫組織化学法の習得
各種の分子に対する免疫染色法を習得し、その判定が出来るようにする。 - ⑥蛍光抗体法技法の習得
蛍光抗体法による抗原物質の局在同定法を実習する。 - ⑦電子顕微鏡的検索技法の習得
電子顕微鏡用の試料固定、樹脂包埋、超薄切片作成、電子顕微鏡による観察の技法を習得する。また免疫電顕法の理論を学ぶ。 - ⑧神経病理診断レポートの作成
特定の症例を受け持ち、肉眼所見、組織学的所見、免疫組織化学的所見、電顕所見を記載し、これらを総合して神経病理学的診断をつける。また臨床神経病理検討会(CPC)で病理所見を報告する。 - ⑨病理活動に関連した法制度、各種倫理指針等を理解する。
死体解剖保存法および関連通達、医学研究に関する倫理指針、学会等のガイドラインを理解する。 - ⑩病態解明研究
任意の精神・神経疾患について、病理形態学的な手法を用いて病態解明研究を行う。 - ⑪代表的な精神・神経疾患の病理組織学的所見を理解する。
各種神経変性疾患、多発性硬化症、脳血管障害、筋ジストロフィーなどの代表的な疾患の標本を一通り検索し、特殊染色を選択し病理診断ができるよう理解する。 - ⑫ブレインバンクの機構の理解と実施
神経・精神疾患の病態解明に必須である、ブレインバンクの意義並びに組織機構を理解し検体保存を実際に行う。他施設からの検体の要望に応じて、凍結材料の切り出しを行う。
- ①中枢神経系肉眼的所見の評価と記載方法の習得
- (2)努力項目
- ①神経内科、小児神経科、精神科、脳外科などの臨床各科の代表的な疾患の病態を理解する。
- ②研究成果を各種学会および雑誌に発表する。
- ③神経研究所疾病研究第一部と臨床検査部DNA診断・治療室が共同で行う筋病理診断のカンファレンスに参加し、筋病理診断の専門的知識を習得する。
- (3)スケジュール
- ①臨床病理検討会(clinico-pathological conference, CPC)
年間10回程度開催される。当病院での剖検例について、臨床症状および臨床診断の検討に引き続き、病理学的所見と病理診断をプレゼンテーションする。 - ②病理解剖および脳の肉眼的検索
病理解剖に際しては、中枢神経系の検索方法、写真撮影方法、検体の処理などを実習する。また、固定後に脳の肉眼検索と組織標本作成部位の選択(切り出し)を行う。 剖検例は施設によって、疾患の性質が異なる。そこで、当施設が主催している生前同意の神経・精神疾患ブレインバンクの剖検協力病院であり、対象疾患の異なる東京都健康長寿医療センター病理から週一回、同施設のブレインカッティングをネットカンファランスで配信している。 - ③脳外科病理組織の診断
週に1-2回(水曜と月曜)、脳外科手術組織が病理検査室に提出される。肉眼所見の検索の後、凍結、組織学的検索用固定、電顕検索用固定を行い、組織所見のレポート作成を行う。 - ④術後臨床病理カンファランスの開催
月に1回、脳外科、放射線科、各臨床担当科とともに術後症例の臨床・画像・病理についての検討会を行う。 - ⑤末梢神経生検の検体処理および診断
パラフィン包埋切片、ときほぐし標本、エポン包埋厚切り切片、超薄切片の所見の記載、診断を行う。 - ⑥組織所見に関する検討会
1週間に2度、東京都健康長寿医療センターと合同で、組織所見の合同カンファランスを行う。 - ⑦病態解明研究
症例検討の合間に、個々にテーマを持って、研究を行う。連携大学院等で学位取得も可能である。
- ①臨床病理検討会(clinico-pathological conference, CPC)
3.指導医リスト
- 1)臨床検査部室長:齊藤 祐子
東北大医 平成4年卒、医学博士
日本神経病理学会 理事
日本神経学会専門医・指導医
日本内科学会認定医、死体解剖資格 - 2)非常勤医師:澁谷 誠
東京医科大学八王子医療センター 中央検査部
日本病理学会学術評議員・認定病理医
日本神経病理学会評議員
日本脳腫瘍病理学会 評議員
日本臨床細胞学会 専門医、死体解剖資格
病理学会認定研修医指導資格
厚生労働省認定 研修医指導資格 - 3)非常勤医師:鈴木 衣子
ノースカロライナ大学神経病理 名誉教授
米国病理専門医、米国神経病理専門医