知的・発達障害の治療・支援

自閉スペクトラム症

 幼児期に健診や保育園・幼稚園で自閉スペクトラム症の診断に気づかれ、診断に至った場合には、個別や小さな集団での療育を受けることによって、基本的な生活技能を身につけるとともに対人スキルの発達を促し、適応力を伸ばす支援が行われます。視覚的な手がかりを使ったり、先の見通しを持ちやすく提示したりすることで、子どもは安心して過ごしやすくなり、情緒的にも安定してきます。

 自閉スペクトラム症の子育てには様々な工夫が必要です。支援者や医療関係者などの専門家とともに、子どもの歩みのうえでの困りごとについて、養育者とともに考えていきます。そのなかでは保育園・幼稚園や学校と対応について相談したり、学校外の適切な支援(放課後デイ、移動支援、ショートステイなど)を利用することもあります。多くの場合、親御さんがかつかつになりながら抱え込むのはベストな選択肢ではありません。ご家族もゆとりをもって支援に当たれるよう十分なサービスを利用することが、お子さんのためにもなります。自閉スペクトラム症を治癒する薬はありませんが、睡眠や行動の問題が著しい場合や、てんかんや精神的な不調に対して、薬物療法を併用する場合もあります。いつもと違う様子が見られたら、ストレス要因や生活上の変化がなかったかなどを確認し、環境調整を試みることも大切です。

 成人を対象とした対人技能訓練やデイケアなどのリハビリテーションを行っている施設もあります。また、都道府県や政令指定都市ごとに発達障害者支援センターが設置されており、自閉スペクトラム症の当事者を対象にしたグループ活動を提供したり、生活自立・就労等の相談に応じています。

注意欠如・多動症(ADHD)

 幼児期・学童期の子どもは、えてして活発で気が散りやすいものですが、ADHDの子どもたちは格別です。勉強机から気が散りやすいものが見えないようにする、勉強に集中する時間は短めに、一度にこなさなければいけない量は少なめに設定し、休憩をとるタイミングをあらかじめ決めておく、指示の出し方は簡潔にToDoリストに書いたり、簡潔にわかりやすい言葉で伝えたりする、褒め方はわかりやすく明確にする、などの工夫をします。

 しかし、ADHDの子どもたちは、行動を切り替えるのが苦手であったり、意に反すことにかんしゃくを起こしたりすることも多いので、養育者も感情的になってしまい否定的な言葉で応じがちです。ADHDについて知り、増やしたい行動や減らしたい行動を整理し、うまく褒めながらよりよい行動を導いていくためには、養育者のスキルを伸ばすことや同じように頑張っている親同士のつながりや心の支えが大切です。養育者が小集団でADHDへの理解を深め、対応するスキルを身につけるためのペアレント・トレーニングも実施されています。環境調整や行動からの取り組みを行っても日常生活における困難が持続する場合には薬物療法を併用します。薬物療法は症状を緩和するもので根治的な手段ではありませんので、効果と副作用のバランスに注意しながら選択します。 成人になってからも、作業にミスが多かったり、行動を計画的に順序だてて行うことが苦手、いつも心が落ち着かない、感情のコントロールが苦手などの症状があることもあります。子どもと同様に、環境調整、行動療法や薬物療法が実施されます。精神的不調を伴っている場合には、その治療も併せて実施されます。

学習症(学習障害)(LD)

 学習症の子どもに対しては、教育的な支援が重要になります。読むことが困難な場合は大きな文字で書かれた文章を指でなぞりながら読んだり、文章を分かち書きにしたり文節に分けることも有用です。音声教材(電子教科書)を利用することも可能です。書くことが困難な場合は大きなマス目のノートを使ったり、ICT機器を活用したりすることも可能です。計算が困難な場合は絵を使って視覚化するなどのそれぞれに応じた工夫が必要です。学習症は、気づかれにくい障害でもあります。子どもにある困難さを正確に把握し、決して子どもの怠慢さのせいにしないで、適切な支援の方法について情報を共有することが大事です。

チック症

 トゥレット症は、体質的なチックで、その症状を抑制することはごく短時間しかできません。チックが現れそうな衝動が起こったときにチックと拮抗するような動きをする(ハビットリバーサル)や薬物療法が実施されます。トゥレット症に有効性が認められた薬は日本にはありませんが、統合失調症の薬が有効であることが知られています。そのほかにも、漢方薬、抗てんかん薬、αアゴニストと呼ばれるタイプの高血圧治療薬が用いられることがありますが、効果は弱いものです。

 成人期になってからも重篤な症状が持続し、重篤な身体損傷を伴うこともあります。成人期になっても重篤な運動チック、音声チックがある場合には、脳深部刺激療法が実施されることもあります。しかし、この治療法は、まだチックの確立された治療法となっているわけではありません。リスク・ベネフィットのバランスを十分に考え、その適応の有無について医師と相談する必要があります。

吃音

 よくある誤解は、吃音が厳しい子育てや本人の精神的な弱さの結果であるというものです。就学前にみられる吃音は数年の間に軽減することが多いのですが、長期に持続する子どももいます。吃音は体質的な要素が強いことが知られています。からかいやいじめの対象となっていないか、また学校などの発表などの場面が本人の苦痛となっていないかを把握し、環境調整を行うことが大切です。吃音の治療として、言語聴覚療法や認知行動療法が実施されます。

知的能力障害

 就学前には、食事、更衣、入浴、遺尿などの身辺自立が進まないことや、社会的な働きかけに対して反応性が乏しかったり、かんしゃくが多い、幼稚園や保育園で他の子どもの活動について行けないこと、あるいは、他の発達障害の診断を契機として、知的能力障害の診断に至ることもあり、発達支援センターなどでの療育が利用される。

 就学後は、数の概念や算数、読み書きなどの学習課題に、児の学習進度に合った課題を選択し、わかりやすい教材の工夫を交えながらきめ細やかな指導が実施される。その場合、通常級において可能な範囲の個別的対応や補助教員による援助を行ったり、週に1時間など、算数や国語などの特定の科目を取り出して、通級指導教諭が対応したり、特別支援学級に在籍したり、特別支援学校を利用するなど様々である。その他にもレスパイト目的で短期的な入所施設を利用したり、ガイドヘルパーを利用するなどの福祉的支援も多様である。

 義務教育終了後の進路も、企業就労、作業所や就労移行施設への通所、デイサービス、入所、高等学校や専門学校等への進学、特別支援学校高等部への進学など多様である。特別支援学校の中には、高等部のみを設置し、比較的軽度の知的発達症の児童を対象に、企業実習などを多く取り入れながら、障害者雇用などを目指す学科もみられる。

 成人期では、障害者雇用を含めた雇用の他、デイサービス、生活介護、グループホームや通所・入所施設などの利用があるが、現在は家族人数が少なくなっているほか、支援を担う家族が高齢化していること、余暇活動など就労以外の生活や日常生活のスキル向上を目指す取り組みの拡充などが求められている。


国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 知的・発達障害研究部

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