当研究部のミッション

神経生物学的病態の解明を目指して

 当研究部では、認知科学、神経生理学的アプローチを中心に据えてきました。自閉スペクトラム症の対人関係障害の背後にある情動的表情や視線方向の認知障害、注意欠如・多動症における実行機能、報酬系機能、時間知覚の障害に焦点を当て、これらを起点とする神経生物学的病態の解明を進めています。また、臨床症状や適応行動を評価し、これらの認知機能との関係を評価するほか、精神疾患を併存しやすい22q11.2欠失症候群や自閉スペクトラム症の薬物療法や心理社会的介入について検討しています。さらに、研究機関連携によってゲノム解析によって得られた知見とも照合し、病因・病態モデルの確立を目指しています。

知的・発達障害の治療・支援法を開発する

 注意欠如・多動症の不注意、多動性-衝動性には薬物療法が実施されていますが、自閉スペクトラム症においては中核症状に有効性を示す薬物すら開発されていません。オキシトシンは有望とされている候補物質であり、機関連携によってその有効性と安全性、治療反応性を規定する生物学的マーカーの検討を進めています。また、注意欠如・多動症の薬物療法を継続/中止に伴うリスク・ベネフィットに関するメタ解析を実施しました。その結果を反映したデシジョン・エイドを作成し、患者と十分に話し合い共有意思決定を進められるよう資材を開発しています。また、重篤なチック症状が認められ、治療抵抗性の難治性トゥレット症への脳深部刺激療法の有効性と安全性、レジストリ構築を目指す研究にも参加しています。

多機関連携の中核を担い、国際競争力のある知見を発信

 当研究部では、児童精神医学、小児神経学、臨床心理学、実験心理学、神経生理学、動物実験学、生化学など、多様な専門性を持った専門家が、知的・発達障害の病因・病態解明、診断法、治療・支援法開発という共通の目標に向けて取り組んでいます。さらに日本全国のプロフェッショナルが客員研究員として在籍するほか、多機関連携により精緻かつ大規模な研究を展開し、国際競争力のある研究活動を展開しています。厚生労働科学研究、日本医療研究開発機構(AMED)研究費、日本学術振興会研究費、民間財団の競争的研究費などのご支援を頂き、当事者、社会に還元性の高い画期的な知見を獲得したいと考えています。

研究者のポテンシャルを活かし、キャリアパスの形成を重視

 当研究部には、これまで、そして現在も意欲のある優秀な研究者が集まり、日夜研究に励んでいます。そして、国内外の研究機関に異動し、チームリーダーとして知的・発達障害領域の研究を牽引し、新たな人材の育成に携わってきました。当部の研究者がそれぞれのポテンシャルを活かしながらシナジーを産み出し、同時にキャリアパス形成に寄与することも大切な役割であると考えています。千葉大学大学院医学研究院の連携大学院(精神神経科学)ともなっており、当部に所属しながら学位を取得することができます。
 研究の独立性や自由で柔軟な発想が担保されることが大切である一方、それが当事者、社会のニードから離れることがあってはなりません。もっとも大切なことは、当事者、社会に寄与することを大切にした臨床的な視点が独創的な研究の基盤に貫かれていることです。そのためには高い倫理性と当事者、社会に献身する心が求められます。私どもは、自由闊達な研究部の雰囲気のもと、常に対話と協働を重んじながら、互いに研鑽を積みながら、知的・発達障害研究の未来を切り拓く研究に鋭意取り組んでいます。

研修事業を通して各地における知的・発達障害のある当事者への対応力を高める

 厚生労働省の事業として、平成28年度より、かかりつけ医等発達障害対応力向上研修事業が行われています。知的・発達障害の診療を専門としないかかりつけ医の対応力を高め、知的・発達障害への気づき、プライマリケアにおける相談応需、専門医療機関への紹介と連携、知的・発達障害のある当事者が抱える身体疾患への治療への取り組みが広がるように、各地で実施する研修を支援するという事業です。知的・発達障害研究部は、児童・予防精神医学研究部とともに、本事業の講師となる医師やそれを実施する行政的立場の方々に発達障害者支援研修を年に4回開催し、スキルアップを図っています。
 我々は、そのほかにもさまざまな臨床情報の発信や提言に努めております。知的・発達障害の当事者の方々は、精神疾患を併存したり、社会の中で様々な辛さを抱えることがすくなくありません。幼少期から成人期までライフステージに応じた支援が必要となりますし、当事者家族や周囲の支援に携わる人々への支援も求められます。我々は知的・発達障害の方々が必要としている、医療、保健、教育、福祉などの他領域にわたる正しい情報を発信し、知的・発達障害の理解の促進、当事者の方が生活しやすい社会の実現に寄与したいと考えています。


国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 知的・発達障害研究部

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