最近の研究内容

統合失調症のGABA神経仮説に関する研究


Miwa H, et al.
GAD67-mediated GABA Synthesis and Signaling Impinges on Directing Basket Cell Axonal Projections Toward Purkinje Cells in the Cerebellum.
The Cerebellum, in press, 2021

GABAは統合失調症、てんかん、不安症、抗GAD抗体関連脳症など様々な精神神経疾患に関与することが報告されている。また、GABAは発達期において栄養因子として作用する可能性も報告されているが、小脳の発達・成熟における役割は不明な点が多い。そこで本研究では、協調運動やバランス調整など小脳に関連する機能に関して、小脳神経回路形成過程におけるGABAシグナルの影響を明らかにするため、GAD65遺伝子欠損マウスやパルブアルブミン陽性GABA作動性ニューロン特異的GAD67遺伝子欠損マウスを用いて解析を行った。その結果、小脳バスケット細胞の軸索側枝上のKチャネルサブユニットKv1.1の局在異常、軸索投射走行の異常およびシナプス伝達特性の変化を観察した。さらに、パルブアルブミン陽性細胞特異的GAD67遺伝子欠損マウスはロタロッド試験における運動協調機能障害を示した。これらの結果から、小脳におけるGABAシグナル経路はバスケット細胞の適切な神経回路形成およびそれに関連する運動協調機能に関して、重要な役割を担うことが示唆された。

 

空間作業記憶の発達におけるNR2AおよびNR2Bの機能の検討


Furuie H and Yamada M
Neonatal blockade of NR2A-containing but not NR2B-containing NMDA receptor induces spatial working memory deficits in adult rats.
Neurosci Res, in Press, 2021.


空間作業記憶の発達におけるNR2AおよびNR2Bの機能を明らかにするため、新生仔期のラットにNR2A選択的NMDA受容体拮抗薬(PEAQX)、NR2B選択的NMDA受容体拮抗薬(ifenprodil)、あるいは非選択的NMDA受容体遮断薬(MK-801)を投与した。新生仔期にPEAQXあるいはMK-801を投与されたラットは、Y字型迷路試験において空間的作業記憶の障害を示した。また、PEAQXを投与されたラットは聴覚刺激に対する反応性の増大とMK-801投与に対する感受性の亢進を示した。一方、ifenprodil投与はこれらの行動学的変化を生じなかった。これらの結果は、NR2A含有NMDA受容体はラットの適正な脳発達に不可欠であり、このサブユニットの機能阻害は成体期に海馬依存性の空間的作業記憶を障害することを示唆している。

 

眼窩前頭皮質の情動行動に対する寄与の検討:
オプトジェネティクスを用いた神経科学研究


Kuniishi H, et al.
Stress induces insertion of calcium-permeable AMPA receptors in the OFC–BLA synapse and modulates emotional behaviours in mice.
Translational Psychiatry 10: 154, 2020.

ラットのOFCは不安様行動と衝動的攻撃性に対する抑制機能を持つ一方、うつ様行動に対する惹起機能を持つ。現在、OFCがどのような下流の脳部位を介してこれらの行動を制御するのか、また、ストレス経験がその回路にどのような影響を与えるのか明らかにするため、オプトジェネティクスと電気生理学的手法を用いた研究を実施している。

 

向精神薬探索のための構成概念妥当性の高い新規動物モデルの確立:
社会的敗北ストレス負荷モデルとその目撃モデル


Nakatake Y, et al.
Indirect exposure to socially defeated conspecifics using recorded video activates the HPA axis and reduces reward sensitivity in mice.
Scientific Reports, 10(1):16881, 2020.

心理的ストレスに焦点を当てた社会的敗北ストレス負荷マウスモデルは、構成概念妥当性の高い新規の慢性ストレスモデルとなるものと考えられる。この研究では、心理社会的ストレス場面を撮影したビデオの目撃によりマウスがストレス反応を示すことを世界で初めて明らかとした。このモデルを前臨床薬効薬理試験に用いることで、これまで困難とされてきた抗うつ薬あるいはストレス関連疾患治療薬の創薬研究をより合理的に進めることができるものと期待される。

 

恐怖記憶を操り精神疾患を克服する:
恐怖条件付け試験を用いた消去学習と再固定化の研究


Akagi K, et al.
Post-reexposure administration of riluzole attenuates the reconsolidation of conditioned fear memory in rats.
Neuropharmacol 131, 1-10, 2018.

これまでに我々は、グルタミン酸神経伝達を抑制する作用を有するリルゾールがラットの恐怖記憶消去学習を促進すること、恐怖記憶再固定化を阻害することを報告している。興味深いことに、恐怖記憶再固定化によりラット背側海馬で増加したCREBのリン酸化が、リルゾール投与によって有意に抑制された。この結果は、再固定化阻害作用における背側海馬の機能変化の関与を示唆している。今後は、PTSD曝露療法への応用を期待し、恐怖条件づけから長時間経過した古い恐怖記憶へのリルゾールの効果を検討したい。