Lowe 症候群

・疾患の概要
 Lowe症候群は、先天性白内障、精神発達遅滞、尿細管性アシドーシスを主徴とするX連鎖劣性遺伝病.責任遺伝子OCRL1がX染色体上に同定され、この遺伝子産物がイノシトール代謝に関与することが明らかになったため、先天代謝異常症の一つと考えられるようになった.OCRL1遺伝子の変異を同定するという遺伝子検査も可能であるが、遺伝子産物の酵素活性を測定する方が早くて正確.DNA診断だけでなくこの酵素活性測定法も、出生前診断に使用することができる.

・ 臨床像
 本疾患は、別名oculocerebrorenal syndrome(眼脳腎症候群)とも言われる通 り、眼症状としての先天性白内障、脳症状としての精神発達遅滞、腎症状としての尿細管性アシドーシスが主症状.先天性白内障は必発で両眼性、出生時から認める.精神発達遅滞は、自傷行為や病力行為となってあらわれる場合がある.腎障害としては、乳児期から認める近位 尿細管障害による蛋白尿や汎アミノ酸尿.顔貌としては前額突出、落ち窪んだ眼、まばらな毛髪が特徴的 母親が保因者であれば、自覚症状はないが眼科のスリットランプ検査によってごく軽度の白内障が検出されるので、これが間接的に本症の診断に役立つ場合がある.

・発症機序
 発症者がほぼ男児に限られていたこと、連鎖解析、X染色体上に切断点を有する均衡型転座女性発症例の存在などからX染色体上のq25-q26領域と想定され、この領域から本症の責任遺伝子であるOCRL1遺伝子が見つかった.その後、多数の患者でこの遺伝子に変異が同定されている.これにより不明であった本症の眼脳腎異常の病態が、OCRL1遺伝子産物であるホスファチジル・イノシトールリン酸系酵素(4,5二リン酸-5-ホスファターゼ)の異常に起因することが判明した.これにより本症は先天代謝異常症の範疇に入ることになった.ポジショナルクローニングで病態が明らかにされた代表的な疾患である.

・遺伝子診断法
 塩基配列決定法を用いたOCRL1遺伝子の変異解析.患者における遺伝子変異集積領域(いわゆるホットスポット)は特になく、全長に渡り変異解析を行う必要がある.

・ 遺伝子診断手順

  遺伝子検査の結果見つかった変異がミスセンス変異の場合、病的意義があるかを確定することが難しい.しかし本症の責任遺伝子は酵素をコードしているので、その酵素活性測定の低下を証明することで、正確な診断が可能である.従って本症の場合は、遺伝子検査より酵素活性測定の方が現実的な方法といえる.

・遺伝子診断依頼可能施設
 ・ 酵素活性測定は、国外であるが、米国のベイラー医科大学 遺伝生化学検査室 (Dr.Arthur L. Beaudet) で行っている(ホスファチジル・イノシトール4,5二リン酸-5-ホスファターゼ活性の酵素活性の測定)
  .同大DNA診断検査室(Dr. Benjamin B. Ro)ではDNAの変異解析も受けている.どちらの方法でも、患児の確定診断と出生前診断が可能.最新情報については、GeneTestsを参照のこと.
  ・ 変異解析は、国内の研究施設でを行っている.最新情報についてはいでんネットを参照.

・ 遺伝子診断に際しての配慮事項
 
  重篤度からいえば、本疾患は十分な遺伝カウンセリングののち、出生前診断の対象となりえる.酵素活
性法が出生前診断に使えることから、前述の通 りミスセンス変異を有する場合もありえることを考えると、出生前診断には、遺伝子変異解析よりも酵素活性測定の方が結果 の誤りがないという点でもより適していると考えられる

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